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もしもゲーマーが不条理世界に迷い込んだら……? 「ゲーマーあるある」満載の脱出ミステリー「百万畳ラビリンス」虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第53回

第53回は、たかみち先生の「百万畳ラビリンス」をご紹介。ゲーム好きなら思わず「あるある!」と納得してしまう、ちょっと変わった脱出モノです。

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※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。今月発売の「スーパーマリオメーカー」で変なステージ作る気満々、虚構新聞の社主UKです。

 さて、今回紹介するマンガはそんな「マリオメーカー」と全く関係ないとも言えなくもなくはないSFミステリー、たかみち先生の「百万畳ラビリンス」(上・下巻/少年画報社)です。

 たかみち先生と言えば、「ゆるゆる」(全3巻/少年画報社)、「りとうのうみ」(ワニマガジン社)に見られるように、ストーリーは日常ほのぼの系、そして青い海と青い空を大きく前面に出した「たかみちブルー」と呼ばれる青の使い方が特徴的な作家さんというイメージが強いのですが、久々の新刊「百万畳ラビリンス」はこれまでとは方向性がガラッと変わったSF作品。しかしながらこれまた一気読みしてしまうほどおもしろかったので「取り上げねば!」と思った次第です。

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「百万畳ラビリンス」(上・下巻/少年画報社) → 試し読みページ

脱出不能の不条理空間 vs 天才デバッガー

 と、言うわけでまずは簡単にストーリーを紹介。

 行けども行けども和室と畳部屋が延々と続く建物を駆ける2人の足音。ゲーム会社でデバッガーのアルバイトをしている大学生・礼香と庸子は、この謎の建物に閉じ込められてしまいます。内観は住んでいた社宅そっくりだけど構造はむちゃくちゃ、そして外は広大な樹海ばかりが広がる不思議な空間――。

 ここは一体どこなのか、そしてなぜこんな異世界に迷い込んだのか……。知りたいことはたくさんありますが、今の2人にとってまず考えるべきはこの建物の正体を把握すること。タンスや電灯がシュールに配置され、下に落としたボールが上から降ってくるこの不条理世界。普通の人なら頭がおかしくなってしまいそうです。

 しかし、この世界を楽しむ人物が一人。それが礼香でした。

 子どもの頃から人並み外れて旺盛な好奇心の持ち主、それが高じて普通の人が考え付かないような方法でゲームの穴(バグ)を見つけるのが大好きになってしまった残念美人の彼女。「脱出よりここに留まってこの世界の支配者になる」ことを庸子に提案してしまうくらい状況を楽しんでいるようにしか見えないのですが、しかし、この空間では彼女の常識にとらわれない発想と行動力こそが幸いしました。

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「バグ探しが得意」という稀有な才能が、この世界ではいかんなく発揮されていくことに

 脱出不可能かと思われたこの世界も、礼香と庸子の協力で次第にその姿が明らかになっていきます。建物を鬱蒼(うっそう)と取り囲む樹海の木々は、1本を傷つけると他の木全ても同じように傷がつく「コピペ」仕様であること、外部との通信が遮断されているにもかかわらず、彼女たちがいる建物から少し離れた別の建物がWi-Fiのアクセスポイントとして登録されていること、そして建物の屋上に不自然に置かれたちゃぶ台から見つかった「これを読んだ方は以下にご連絡ください」というメールアドレス付きの書き置き。

 この異世界の仕組みを理解していると思われる書き置きの主とは、そしてこの不条理世界が作られた目的とは――、というところまでが本作の冒頭です。

「ゲーム的発想」で不条理世界から脱出せよ

 物語はこの後、2人が最初にいた「裏世界」から「表世界」「実世界」にまで舞台が広がるとともに、裏世界を徘徊する「ルームシャーク」「密漁者」という敵も出現。彼女たちは無事元の世界に帰ることができるのか……というのが全体のストーリーなわけですが、たぶんこの用語だけ見ても何を言っているのか訳わからんという人が大半だと思うので、ぜひ作品を読んで確かめてみてください。

平和な世界かと思いきや……

 さて、本作の最大の見どころはやはり礼香の残念美人ぶり……ではなく、その斜め上を行く発想力。

 庸子が外壁を落ちそうになりながら伝い歩くのを見て「残機が1減るだけよ♪」と語りかけ、苦手なチャットも相手を「ちょっと賢いCPUキャラと割りき」ることで克服したゲーム脳の彼女ですが、常識が通用しない空間においてはそのゲーム脳こそが、次々と解決への道を切り開いていきました。

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 特に社主がうなったのは「ちゃぶ台」の利用法。この建物内の家具は樹海の木々と同じように全てコピペ的に置かれているのですが、ちゃぶ台の上に置いた物は別の部屋のちゃぶ台の上にも同じように反映される仕組みになっているのです(人間は不可)。

 つまりこの仕組みを利用して重い荷物をどこかのちゃぶ台の上に置いておけば、次の移動先で見つけたちゃぶ台にも同じ荷物がちゃんと置いてあるというわけです。ここまで読んで「おお、礼香賢いな……」と思うのですが、しかし本番はここから。

 では、このちゃぶ台を2つ用意して、ちゃぶ台の上にちゃぶ台を置くとどうなるか?

 これ、どうなると思いますか?

 ちゃぶ台が上方に無限コピーされて天井を突き破ってしまうんです。ちゃぶ台の上に乗せた物体は両方とも同じように反映されるので一番下にあるちゃぶ台から上は鏡写しのように同じちゃぶ台が無限に連なっていくという仕掛け。

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ルールの裏をかくのもゲーマーのスキル。このあとものすごいことになります

 彼女たちのいる空間すら貫く、この無限ちゃぶ台タワーの破壊力が敵と戦う武器として見いだされるのですが、無限ちゃぶ台に限らず、礼香が得意とするこの想定外の発想は作中随所に登場していて、感心を超えてもはや溜息すら出るほど。しかも特に頭を悩ませる様子もなく、ナチュラルにやってのけるところからも天性を感じさせます(余談ですが、礼香のように想定外の行動ばかり取るプレイスタイルのためバグに遭遇しやすい「バグ体質」のゲームプレイヤーは実際にもいるそうです)。

常識にとらわれず、そこからはみ出る発想を

 ただし礼香のような才能の持ち主が常識でガチガチに固まったこの社会で生活するのは大変なことでしょう。いわく「与えられた選択肢が最善とは限らないもの/ちゃんと自分で判断したいの」とのことですが、「着衣入浴」「敷布団の下で寝る」など、彼女の行動は傍から見れば奇行以外の何物でもありません。異世界に迷い込んだ原因が「お前の日頃の奇行の積み重ねのせいじゃないか」と庸子にツッコまれるのもさもありなん。

 けれど社主は彼女がするような埒外(らちがい)の発想をこよなく愛しています。常識というのは多くの人にとって生きやすい社会を成り立たせる一方、そこからはみ出る少数の発想を異端として排除する傾向も持ちます。「虚構」という常識と非常識の境目を求められる社主にとって、彼女のような存在はある種あこがれの的でもあるのです。良くも悪くもそういう性分として生まれ育った礼香にとって、真に生きやすい世界とはどのようなものなのか。本作を読み解く一つの視点としてこんなことを考えるのもまた一興でしょう。

 ちょうど本作を読み終えた直後に「マリオメーカー」の動画を見ていた社主は「礼香ならどんなステージ作るだろう」と考えずにはいられませんでした。それはきっと誰も思いつかない奇妙でおもしろいステージに違いありません。いや、ひょっとすると「ステージ」という概念すら彼女にとっては必要ないのかも……。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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(c)たかみち/少年画報社

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