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「“読者のニーズが”とか言ってるヤツを見ると、ムカッと腹立つんですよ」 20周年を迎えた「コミックビーム」が目指すもの奥村勝彦“編集総長”インタビュー(3/3 ページ)

11月12日で晴れて20周年を迎えた「月刊コミックビーム」。これを記念して、同誌・奥村勝彦編集総長にインタビューを行いました。

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マンガに対する東日本大震災の影響

―― 玉吉さんの作風の変化は、奥村さんの影響が強いんじゃないですかね。「しあわせのかたち」の中で転換点と言われる「しあわせのそねみ」が始まったころ、ちょうど奥村さんとも出会っていて。

奥村 それは俺の影響というより、もともとあいつはつげ(義春)さんの熱狂的なファンだったので、その要素は持っていたんです。「週刊ファミ通」の中ではなかなかやりにくかったんだろうけど、俺がその辺は理解できたから、ビームでは全開で行けたんじゃないかな。俺の方からそう描けとは言わなかったけど、確かに関与はしてたんだろうなと。

「しあわせかたち」5巻より。「しあわせのそねみ」の作風はその後の桜玉吉作品にも受け継がれていった

―― 好きにやってくれという環境を提供したんですね。

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奥村 お前が描くならそれなりに面白いもの描くんだろうよ、だったらやりなってのは常に言ってましたし。それは、いましろ(たかし)君に対してもそうで、反原発(「反原発幻魔大戦」)をやりたいならやればと。案の定、読者は減っちゃったけど、本人が描かざるを得ないんだったら別にいいよと。関東に住んでりゃやっぱり震災の影響はある。もし作家として描いても許される状況があったら、すべからく描いていいと思います。うちの作家連中って、みんなビビッドに反応してくれたのでうれしかったですね。同時代に生きてて同じものを見てるのに、それをなかったことにして「エンタテイメントです」ってのは、何か違うんじゃないかと。ちゃんと本人が腰の入った形でやるのであれば、いかなるリアクション取ったって構わないと思ってます。

―― 玉吉さんも5年ぶりに「ビーム」で発表した新作が、震災時のエピソードでしたね。

奥村 3.11(東日本大震災)以降描かなきゃって気持ちになったのは、あいつにとっては良かったのかなという気はしてます。自分なりにまた世間に対峙し始めて、もちろん不幸な事件ではあったけど、一つのきっかけにはなったんじゃねえのかなと。

「コミックビーム」という雑誌よりも理念を伝えていきたい

―― 20年続いた「ビーム」ですが、今後はどういう展望を?

奥村 今の形態をそのまま保持してやっていけるかというと、ちょっとキツイだろうね。部数的には笑っちゃうぐらい少ないし。けど、俺は縁日の夜店みたいな場をイメージして雑誌を作ってきたんで。お化け屋敷もあれば焼きそばや綿菓子もあって、その場にいることがすごく楽しくて、ポンと何かに出会える。そのためには作品がバラバラな方がいい。竹本泉の読者がいましろたかしの単行本も買うとかね。ただ今の世の中だと、それはなかなか厳しい。モノを選ぶにしても、みんな検索するから、最初から一直線で目的にたどり着いちゃう。

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「俺は『ビーム』がなくなっても別にいいと思ってるんです。ただ『ビーム』的な価値観を持った編集と作家さえ残ってくれればいい」

―― 話題作の単行本だけ買って、雑誌は買わない人が多いですしね。

奥村 寄り道も何もしないから、他の出会いがない。でも、それじゃやっぱり寂しいんだよな。俺が最初に漫画を読み始めたのは全盛期の「週刊少年マガジン」だったけど、それには「巨人の星」と「あしたのジョー」、おまけに「天才バカボン」に「アシュラ」「デビルマン」なんかも一堂に会していて。俺は「バカボン」を読みたいから買ってたんだけど、なんだかすごく面白い場にいる実感があった。「週刊少年チャンピオン」の全盛期もいろんなものがごった煮で、「がきデカ」や「ブラックジャック」、萩尾望都の漫画まで載ってたわけですよ。そういう場をなくすことでマーケット的にはシンプルになるかもしれない。だけど、すごく大事なものを失うんじゃなかろうか。

―― その意味では「ビーム」は貴重な場になってますね。

奥村 極論を言ってしまえば、俺は「ビーム」がなくなっても別にいいと思ってるんです。「ビーム」的な価値観を持った編集と作家さえ残ってくれればいい。人間だって雑誌だっていつかは死ぬ、ただ、それを継いでくれるものがあれば、それは「生きてる」ってことだと。「マーケティングではなく、ある意味での混沌を目指す」という理念をどうやって後の世代に伝えていこうかと、今はそちらに頭を切り替えてるところです。

―― そうした「ビーム」の理念を残す一方で、玉吉さんとのご縁も続いていくわけですね。

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奥村 もう二人ともヨボヨボでちんこもあんまり勃たないし、傍から見てるとジジイたちが情けないアホみたいな会話をしてるのを、若いヤツが横で聞いてて薄笑いを浮かべてる、とかそんな状況になったら楽しいよね。そこまではやっていきたいと思ってるよ。(2015年11月12日 KADOKAWA社内にて)

最後までサービス精神たっぷりだった奥村さん
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