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日本映画を世界に売り込むなら「少女マンガ原作」にしよう!ネットは1日25時間

少女マンガこそ日本のエンタメのルーツなのだ。

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 星井七億です。僕は映画を観ることがとても好きで、シネフィル級とまではいかずとも年に何十本かの作品はチェックしているのですが、ここのところは忙しくてなかなか映画館に足を運べていません。

 とはいえ先日は劇場で映画「俺物語!!」を鑑賞してきました。ご存知のように、本作品の原作は別冊マーガレットで連載され2013年には講談社漫画賞少女漫画部門を受賞している人気少女マンガであり、去年の11月にはTVアニメも放送され好評を博しました。

 人気マンガの実写映画化となると大抵は発表段階から、過去の多くの失敗例に学んだファンの間から懸念の声が多くあがるのがお決まりの流れとなっていますが、この「俺物語!!」は公開当初から視聴を終えた観客の評判もすこぶる高く、実際に鑑賞した僕の目から見ても、近年の実写映画化作品の中では高いレベルでの成功例に分類される作品でしょう。僕の目が確かかどうかは知りません。

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 「少女マンガは女が読むもの」「男が読んでも楽しめない」という言説がすっかり化石化してしまった現在、少女マンガは幅広い層に受け入れられる日本の一大エンターテイメントジャンルとなっています。

「少女マンガ原作」のクオリティの高さ

 これはいくつかの作品を観てきた僕の私感なのですが、「少女マンガ原作」の実写映画化作品は、セールス的にはともかく、品質的には「成功」しやすい傾向があるように思えます。

 2010年に劇場公開された「君に届け」も人気少女マンガを原作に据えた実写映画化作品であり、僕も公開当時に劇場へ赴き、僕以外の観客が全員カップルという罰ゲームのような状況で作品を鑑賞したのですが、原作の世界観を引き立てる演出と俳優陣のマッチ具合、丁寧にまとまった脚本によって、「人気マンガの実写化」という高いハードルをひょいと飛び越えた良作に仕上がっていました。

 この「俺物語!!」や「君に届け」に限らず、少女マンガを原作にした実写映画作品には数多くの傑作が潜んでいるのです。

 ここ数年は実写映画化される少女マンガが増加しており、今年だけでも福士蒼汰主演の「ストロボ・エッジ」、真木よう子主演の「脳内ポイズンベリー」、桐谷美玲主演の「ヒロイン失格」など多くの作品が制作され、いずれも高い評価を受けました。

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 制作サイドにとって「少女マンガ原作」の映画、特に青春恋愛映画を作る魅力として、一定の知名度が確保されておりデートムービーとして最適なのでビジネスとして固いこと、若手俳優が中心となるのでギャランティーを抑えられること、現実的な設定が多いので映像化が難しくないという点があります。

 注目したいのはこの「映像化の難しくなさ」(「簡単さ」ではないのがポイントです)。今年公開されて大ヒットした某人気巨人マンガ原作の実写映画などは、原作の持つ迫力と緊張感を表現した映像面に関しては高い評価を得たものの、バランスがキープできなかったのかシナリオ面については多くの辛口な評価がくだりました。

 マンガならではの大胆な表現や荒唐無稽な設定を、人間の生身や限られた予算、芸能事務所との兼ね合いやコンプライアンスといった制約の中でいかに表現するかということが実写映画化における制作陣や原作ファンの不安材料となるのですが、映像・演出面ではリアリティに即した表現ができる作品が多い少女マンガではこういった問題がクリアしやすく、余程の事情がない限りはいわゆる「改悪」とされがちな大胆な脚色などの必要がないので、必然的に作品の質も高くなるのです。

日本の創作物は「少女マンガ」に見習いたい

 「少女マンガ」は非常に心理描写が多く、モノローグなどで感情の繊細な機微を表現したりキャラクターの内面を掘り下げることにより、読者に共感などを含めた感情の揺さぶりを訴えかけます。少女マンガはこういった情緒的な描写に特化した側面があり、そしてこの情緒的な面こそ、作品作りにおいて日本が得手とする分野なのです。

 昨年公開され全世界で興行収入6億ドル、日本国内でも91.5億円の大ヒットを記録したディズニーのアニメーション映画「ベイマックス」の宣伝手法などを見ればよく分かります。「ベイマックス」は主人公の少年とロボット、その仲間たちがロケットパンチでドンパチしている作品なのですが、日本におけるテレビCMやポスターなどの広告媒体ではそういった面はできる限り伏せられており、どちらかというと「泣ける」「感動する」といった面ばかりが全面に出され、この宣伝はネットでも大きな賛否を呼びました。

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 もっとも「感動」を押し出した「ベイマックス」の宣伝はなにも日本国内のみならず、公開される国によってマーケティングを使い分けていたという背景があります(参照)。これは「ベイマックス」がアクションアニメ映画としても、情緒に訴えるアニメ映画としても、非常に高いレベルでクオリティとバランスを保った作品だったからこそできた芸当なのですが、このケースはショウビズの世界に於ける日本的な「感性」とは何かということを如実に表しています。それはあのCMから「安易に感動へ走る」のではなく、「繊細な情緒に注目できる」という捉え方ができるということです。

 また世界最古の長編小説と呼ばれ日本のみならず海外でも多くの読者を持つ「源氏物語」も、現代の少女マンガやレディコミに通ずる世界観や風情を持った作品です。日本のエンターテイメントのルーツは少女マンガ的な文脈の中で成熟、派生していったと考えることもできるでしょう。少女マンガには日本人の琴線に触れ、感性を活かした作品を作るうえで見習いたい部分が宿っているのです。

「少女マンガ原作」の映画で世界を攻める

 現在の日本映画は「ハリウッドに通用する~」といった謳(うた)い文句でCGなどを多用し、派手な演出を用いた映画を作り続けていますが、とても日本の外で成功しているとは思えません。

 一方で、2009年にアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」は死生観というとても難しいテーマを風靡(ふうび)豊かな映像と繊細な演出で巧みに描いたことから海外でも高い評価を受け、また海の向こうでも巨匠として認知されている小津安二郎の、日本的なシナリオにささやかな演出を施した名作「東京物語」は海外のさまざまな映画ランキングで長きに渡り上位に選ばれています。日本の映画界はこのような情緒・風情を演出させたら、世界に比肩するクオリティを生み出せる土壌があります。そこに少女マンガの持つ情緒的な作風が噛み合ったなら、質の高い作品が出来上がるかもしれません。

 日本のマンガ文化は海外にも多くのファンを持ち、世界に通用するカルチャーのひとつになっていることはもはや説明の必要もありませんが、無論それは少女マンガも同じこと。すでに世界に向けるための入り口はでき上がっているようなものです。

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 2010年には国内累計発行部数1850万部を叩き出し、海外でも高い知名度を誇る高屋奈月の「フルーツバスケット」のハリウッド映画化が発表されて話題となりました。もっともあれから5年の歳月が流れても一向に続報が出てこないあたり、企画だけ取られて放置のまま立ち消えというよくある流れで終わってしまいそうですが……。

 今後、少女マンガ原作の映画が多く作られ続けることで、粗製濫造に終始するのか、技術やメソッドが洗練されていくのかは今後の映画界の姿勢次第ではありますが、国内エンターテイメントの世界戦略として「少女マンガ原作」の映画をプッシュするのは、決して悪い手ではないでしょう。

プロフィール

 85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディ化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。

 2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。

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