連載

え、キミ東京から来たの? 地方で第2の人生を過ごす「元都バス」たち司書メイドの同人誌レビューノート

元都バスの見分け方難しい。

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 今日から5月。のびのびと葉を茂らせる木々に目を細め、「新生活を始めたあの人は元気にしているかなぁ」と、新しいスタートを切った人たちのことを思い浮かべます。卒業、入学、入社、お引っ越しと、人生にはさまざまな節目がありますね。ところが、節目があるのは人間ばかりではありませんでした。なんと、バスにも人生(バス生?)のターニングボイントがあったのです。今回は、そんなバスの姿をつぶさに観察する「元都バスカタログ」をレビューします。

今回紹介する同人誌

「元都営バスカタログ(都営バス移動車カタログ)1 北海道編」 B5 78ページ 表紙・本文カラー

著者:PLせつな


向かって右の車体、都バスから道北バスへのビフォーアフターです

バスも転校するの? 地方で活躍する都バス

 東京都内を走る東京都交通局のバス。思い返してみれば、すぐに緑とオレンジのカラーリングが目に浮かぶほど、都内のあちこちで見かけます。しかし、そのバスが一定期間の後都を去り、地方でバス生を再スタートしているとは知りませんでした。そんなことってあるんですね。どうして都市部から地方へバスの譲渡が行われるのか、少し調べてみました。

 ざっくり言うと、交通量が多いところには環境を守る規制があり、その規制に従うと、都市部ではバスの使用期間が比較的短くなるため、まだまだ元気な車体は地方へ行くこともある、ということのようです。環境の変化や技術の進歩に伴い、バスを取り巻く状況は刻々と変化しているのですね。

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 そして、縁あって東京からお引っ越ししたバスが、その後どこのバス会社に所属しているかというのを写真とデータでまとめているのが、今回紹介する「元都営バスカタログ」なんです。表紙を見ると、右下段のバスの行先には「晴海会場」とあります。この写真はコミケ会場へ向かう都バスの姿なんです。そして右上段は「道南バス」とあるように、道南バスに移籍されたバスです。今回の本では、北海道のバス会社に散らばる元都バスたちのお引っ越し先での雄姿がたっぷり掲載されています。その数、22業者180車以上!

バスの見分けは難易度高すぎ! 挫折の後に……

 本文はめくってもめくってもバスの写真です。でも、これが元都バスってどうやって分かったのでしょうか。気になる人のために、冒頭にはきちんと「元都営バスの見分け方」というページが設けられ、そこには外観や車内から見分けるポイントが書かれています。

見分け方ポイントが満載。座席のシートのことをモケットと言うのですね。かわいいです

 「都営バスの車輛は個性が強いため、ツボを押さえておけば移籍先でも見分けることが容易である」とのこと。「なるほど!」とページをめくりながら「都バスらしさってどんなのかしら。共通点が見つかるかな?」と、うきうきしながら読み進めた私でしたが、数分後、ものすごい敗北感を味わいました。

 分からない……。めくってもめくってもめくっても“都バスらしさ”が、分からないんです。「ライト? ライトが四角なのかしら」と思っていたら丸いライトもある! 「バンパーが黒い?」と思ったら銀のバンパーもあるじゃないですか! もうお手上げです。しばし格闘したのちに、そっと息をつきました。

 無力感に襲われながらカなくページをめくっていたのですが……あら? これ、なんだか結構楽しいですね。いろんなバス会社に移籍した車体は、当然その会社のカラーリングにお色直しをしています。赤、青、黄色、時期によっては、広告のラッピングをされている車両も。私は釧路バスがお気に入りです。釧路らしいタンチョウヅルをモチーフにしたデザインもかわいいですし、社名のフォントもレトロでいい雰囲気です。また、写真に写りこんだ背景も、町中の駐車場だと「ここがこのバス会社の営業所なのかな」 とか、冬木立の山々の雪景色には「北海道らしい!」とか、そのパスが走っている町の情景を感じます。

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 折々にバス会社の説明と、路線図が添えられているのもうれしい。ごく簡単な路線図ですが、沿岸バスって、本当に海の傍を走るんだなあ……と、行ったことのない場所、乗ったことのない路線に思いをはせます。それでもなんとなく懐かしいような気持ちになるのは「もしかして、このバスに1回くらい乗ったことあるかも?」と思うからでしょうか。

いろんな図柄も楽しい。ラッピングバスの「みんな始めてるISDN」という広告に時代を感じます

「いま、どうしてるだろう」と妄想がはかどる再会のアルバム

 本を眺めていると、はたと気付きました。これは「転校したあの子、元気にやっているかな?」と思う気持ちを具現化したアルバムみたいだなと。

 お引っ越しして初めての冬、きっと雪の多さに元都バスちゃんはびっくりしたでしょうね。駐車場では地元育ちのべテランバスさんから「おう、都会からやってきたらこの雪の量にゃ驚くだろう? そうか、チェーンを巻くのも初めてかい。なに、すぐに慣れるさ。どっさり雪が積もった日も、寒いバス停で、1時間にいっぺんの俺たちがやってくるのをじっと待っている人間の姿を見たら……行ってやらにゃならんと思うようになるもんさ」と語りかけられたりしたかもしれません(妄想)。

 たぶん、この本はこうやって楽しむものではないかもしれません。ツウな方は恐らくもっと実のある楽しみ方をされているのかも……。ああ、それを会得できないのがもどかしい! でも知らなくたって、眺めているだけで楽しくなれちゃいます。

こころなしか、写真の背景の青空にすら海辺っぽさを感じる沿岸バス
※サークル「都営バス資料館」さまは有志の方々の活動で、東京都交通局やその他のバス各社とは関係ありません。この本の内容ついてはサークル「都営バス資料館」さまにお問い合わせください。

サークル情報

サークル名:都営バス資料館

Twitter:@plsetsuna

参加予定イベント:コミックマーケット

入手場所:書泉

Webサイト:http://pluto.xii.jp/tobus/

今週のシャッツキステ


長いおや休みになる方もいらっしゃるでしょうか? クッキーのたくさん入ったカゴを持って、メイドも乗り合いバスで、おでかけ……という風景を再現してみたかったのですが、運転手ヒナタちゃんの、すごい(架空の)ハンドルさばきに乗客役のアイリちゃんとトーヤちゃんが神妙な顔つきに……。いいお天気に、元気に出発進行!

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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