「えっ、名前って誰でも変えられるの?」 改名を経験した著者による同人誌が読み物としても傑作だった:司書メイドの同人誌レビューノート
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小さいころ、すてきなマンガを描く少女マンガ家の先生の、かわいいペンネームに憧れていました。「もしも私が漫画家になったら、どんなペンネームにしようかなぁ」なんて考えた揚げ句、サインの練習までしてしまったり……。わーわー! 覚えてない! そのころのことなんて覚えていません!
……ふぅ、うっかり恥ずかしい思い出の蓋を開けてしまうところでした。ともあれ、なにかを表現する人や芸事をする人に限らず、現代はSNSのニックネームや、ゲームのプレイヤー名など、「どんな名前にしようかな」と考える場面って意外と多いんですよね。本名とは違う仮の名前を考えるのはちょっとウキウキします。けれど、「自分で付けたニックネームが本名だったらどんなにいいだろう……」と切に願っている人も、この世の中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
今回紹介する同人誌
「デキル!!改名手順のイロハ」 A5 28ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:ゆーまる
経験者が語る、改名までの道筋
「名前を変えたいなら、変えられるんです。変える自由はあるんです」。最初のページを開いたところ、こんな言葉が目に飛び込んできました。著者さんは、実際に裁判所で改名手続きをされた経験があり、改名手続きの準備やポイントを、実際に行った経験に基づいて、細かに記されています。改名する前の心構えから、必要な実績をどう積むか、家庭裁判所に変更を申し立てる時は……と順を追って解説されています。
この本を開くまで、「改名ってなんだかドラマチック……。改名するまでに、どんなストーリーがあったのかしら」と、実にやじ馬根性丸出しな部分があったのですが、著者の方の改名理由は本では全く触れられていません。それにも関わらず、読んでいくと「ほうほう、それでそれで?」と続きが気になってしまいます。淡々とつづられる、改名に向かう道筋……。全く知らなかった事柄を順を追って丁寧に解説されることによって、「知る楽しさ」を感じることができます。
そして、「名前」という、常に自分とともにあるなじみ深いのものが題材となっているだけに沸き上がる親しみやすさ! 改名をしようとは考えていなかったのに、するすると読み進めてしまいます。改名ってできるんですねぇ……。なんだか途方もなく遠い世界のように思っていました。
改名する前とした後に
個人的なことは語られてはいないのですが、時々「問:同人誌イベントは通称で申し込んでもいいの? 答え:本名で申し込みましょう」というような、リアルな体験を元にされたとおぼしき文章が出てきます。その中でも「改名した後の方がむしろ大変」という話を、インターネットのプロバイダー手続きや、運転免許証の変更など、具体例をあげて解説されているのには、うんうんとうなずく気持ちに。また、改名する前に予想される周囲との意見の違いにどう心構えをするか、といった精神面にも言及してあるのが心強いです。
この情報を必要とする人にとって一つの選択肢になるのなら
この同人誌を読むことで、きちんとした手順を踏めば誰でも「改名ができる」ことがよく分かりました。でも実際の所、やっぱり改名は、その人の人生にとって重大な出来事。そしていろんな事情から名前が変わることを心配する人がいらっしゃるだろうことも、この本では折々触れられています。けれど私は、「この本が広まるといいな」と思うのです。改名を考えている人はもちろん、考えていない人も、「名前を変えることができる」という情報を知っているだけで、心に大きな余裕が生まれるのではないでしょうか。
実際にこの本に載っているような手段を取るかどうかはその人次第ですが、こんなにも身近な話題なのに、あまりスポットが当たってこなかった改名という方法を同人誌にしている。それを知らないで過ごすのはもったいないと思うのです。ちなみにKindle版は、Amazonプライムに入会していると無料で読めるので、ぜひ手にしてみてください。
今週のシャッツキステ
卓上の猫の置物は、しっぽに糸巻きを設置できるすぐれもの。ぴんと立てたしっぽに巻かれた糸は、メイドがレース編みをする時に使います。名前は「ナツメ」。「どうしてナツメさんになったのか、今度聞いてみます」と、お給仕のあと、メイドのツカサがナツメの顔をまじまじとのぞき込んでいました
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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