レビュー

ミニチュアを通して街を知る 配り歩かない、自分のための旅みやげ「スーヴェニール」が教えてくれるもの司書メイドの同人誌レビューノート

作者は、都市史の研究者と一級建築士の都市計画コンサルタントという布陣。

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シャッツキステ

 「(自分のための)おみやげ」という意味を表す言葉“souvenir”(スーヴェニール)。日本のように買って帰って、配り回るような贈り物ではなく、自らの旅の記念としての「思い出の品」のことで、フランス語の「思い出」という言葉に由来しているそう。

 今回紹介するのは、「スーヴェニールのなかの都市」と題された同人誌。表紙にもあるような、小さなガラス玉のなかにミニチュアの建物が閉じ込められたスノーグローブや、街並みのミニチュアの写真がたくさん収録された本です。スノーグローブって、逆さにするとガラス玉のなかで雪がキラキラしてとてもキレイですよね。なんとなく、クリスマスの飾りものというイメージがあったのですが、ヨーロッパなどではガラス玉の中に観光地の建物を閉じ込めたものはポピュラーなおみやげ品なのだとか。この本では、作者さんのコレクションが多数紹介されています。

今回紹介する同人誌

「スーヴェニールのなかの都市1」 A5 56ページ 表紙・本文カラー

「スーヴェニールのなかの都市2」 A5 44ページ 表紙・本文カラー

著者:稲益祐太|小崎晶子(崎は旧字体)

同人誌「スーヴェニールのなかの都市1」同人誌「スーヴェニールのなかの都市2」 スノーグローブに小さな建物がいっぱい!

どんな大きな建物も手のひらサイズでお持ち帰り ガラスの中の旅の思い出

 ガラス玉の中にはエッフェル塔、ノートルダム大聖堂などの建物から、果ては火山や街並み丸ごとなんてものまで、ちいさくぎゅっとまとめられて入ってます。本で紹介されているのは、イタリアやドイツなどヨーロッパのものが多く、時折ペルーやトルコのエキゾチックなものも。あぁ! 石の街並みが縮小されてガラスの中にある……それだけで、こんなにも心ときめくおみやげ品になるなんて。

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同人誌「スーヴェニールのなかの都市」同人誌「スーヴェニールのなかの都市」 ミニチュアの豊富な写真と解説文がオールカラーで載っています

ゆるい? おみやげ品ならではのおおらかさが光る

 写真を見ると、ミニチュアの多くは角のない造形をしています。とんがっているべき塔の先端もなんとなく丸みを帯びていたり、スノーグローブの台座に描かれた風景も色塗りもざくっとした印象。けれど、この繊細なミニチュアにしてどこかヌケた佇まいに、私はむしろなんともいえない味わいを感じてしまいます。

 しかも、ゆるさは造形のディテールだけではありません。例えば、アルザス地方のスノーグローブは、台座には堂々とアルザスと書いてあるのに、台座装飾も中身も首都ストラスブールの風景で構成されている……これって「関東地方と書かれた台座なのに、載っているのは東京の名所ばかり」のような状態でしょうか? うん、ちょっと的を絞りすぎちゃった感じがしますね。ほかにも「ミニチュアと現物の左右位置が逆転している」とか、そもそもの作りや発想のゆるさが感じられるものも。

同人誌「スーヴェニールのなかの都市」
ポンペイみやげの中身は火山
同人誌「スーヴェニールのなかの都市」
こんなにしっかり「アルザス」を主張しているのに、アルザスじゃないなんて……

 ゆるゆるでいて華やか……おみやげ品って感じだなぁと思っていたら、日本の建築物のミニチュアも載っていました。ぴかぴかの金閣寺と、その隣に鎮座するきらきらした銀閣寺。

 どこかで出会った既視感のあるおみやげ品を見て、ふと気付きました。ははぁ、これはイメージなんですね。その街の姿が本当はどうだったか、というのは自分の目で見ればいい話で。ミニチュアは思い出を引き出す記憶の起動装置なのでしょう。だから、壁の色が違っていたり、風景が凝縮されていたり、これでもかと“その街らしさ”を全身で主張しているんですね。でも、全力で街のいいところを形にしながらも、やっぱりどこかゆるーい雰囲気なのが、おみやげらしくもあるように思います。

こういうの、見たことあります! イメージ重視の姿ですね

スノーグローブをきっかけに広がる都市観光の見方とは

 こちらの本、冒頭のまえがきや、写真に添えられた解説文もまたすごいんです。作者は、都市史の研究者さんと、一級建築士の都市計画コンサルタントさん。そんなお2人の解説文は、街のシンボルとなる建物の説明や、それらの取り合わせの意味などが短い言葉で、簡潔に語られています。私なら「きれいだなー」とぼんやり眺めて終わるところを、「ここに注目!」とテキパキと見どころを教えてくれるのがありがたい。例えば「スーヴェニールのなかの都市2」の冒頭の文章から引用すると、

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(前略)周囲の田園都市や近隣の都市もスノーグローブの要素に含んでいるものからは、その都市がどのような地域構造のなかにいるのかを知ることができる。スーヴェニールで訪問したかどうかを答え合わせするのではなく、訪問地の周囲に広がる地域(テリトーリオ)への理解の扉を開く鍵となっているのではないだろうか。

 とあります。なるほど、記憶の一致だけでなく、小さなおみやげを手にしたときから、もっともっと建物への、そしてそれが建つ街への興味がひらかれるのですね。

 現在都内では、この本の作者さんも展示協力をされている「みんなの建築ミニチュア展」が6月10日まで開催中。スノーグローブではなく、ミニチュア建築物中心の展覧会ですが、本に紹介されているようなスーヴェニールの品々に囲まれて、各地に思いをはせてみたいですね。

サークル情報

サークル名:都市とスーヴェニール

Facebook:スーヴェニールのなかの都市

参加中のイベント:みんなの建築ミニチュア展(6月10日まで)

入手場所:ジュンク堂池袋店7階理工書フロア(取り扱いが終了する場合があります)

今週のシャッツキステ


館内にも、小さな置物がいくつかあります。所蔵している豆本も、ご来館の方に好評です。ミニチュアってそれだけでわくわくしますねー

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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