「ゴジラ」シリーズ「今後も何らかの形で作り続けていく」 次回作に意欲を見せた東宝・山内プロデューサーが作品を振り返る
(ネタバレ注意)「映画公開後の今だから話せる話」を伺ってきました。
7月29日の封切りから間もなく1カ月となる映画「シン・ゴジラ」。圧倒的なクオリティーとディテールへのこだわりからゴジラファンのみならず、多くの映画ファンをうならせた一作は、日本中にゴジラ旋風を巻き起こしています。
総指揮を取った庵野秀明総監督や、監督と並行して特技監督を務めた樋口真嗣監督の功績にスポットライトが当てられていますが、今回は作品のエグゼクティブ・プロデューサーを務めた東宝の山内章弘プロデューサーに「映画公開後の今だから話せる話」を伺ってきました。本記事には重要なネタバレに関する記述がありますので、ご注意ください。
東宝・山内プロデューサー単独インタビュー
――山内プロデューサーはゴジラに対してどのような気持ちを持っておられましたか
山内P:ゴジラは東宝にとってものすごく大切な、唯一無二のキャラクターです。ですから、東宝として「どこかで復活させたい」という思いがありました。私は製作部門の取りまとめをやっていますが、個人的にも「ゴジラをもう一度やらなければいけない」という思いを持っていました。
――そうだったのですね。そうした思いの中で、今回国産のゴジラ作品を復活させるきっかけとなった出来事はありますか
山内P:2012年にハリウッド版の「GODZILLA ゴジラ」の企画発表があったんですね。メガホンを取ったギャレス・エドワーズ監督は日本のゴジラに対してすごく愛情を持っている監督でしたので、「それはそれで楽しみだが、やっぱり日本のゴジラが観たい」というお客さまからの声をたくさん頂戴しました。そのときに東宝として「これは本格的に復活させなくてはならない」という話になりました。
――日本での製作を決めたとき、スタッフの人選についてはどうお考えになりましたか
山内P:ジャパンメイドのゴジラを作る、という時にまず「誰が撮ったら納得してもらえるのか」ということを考えました。ハリウッドゴジラが製作されることも決まっている中で日本のゴジラは「この人が撮る」と聞いて納得感のある人、なおかつ特撮および特撮文化に造詣の深い人は誰なのか。そこで「やっぱり庵野さん以外いないんじゃないか」という結論に至りました。
――庵野監督が「シン・ゴジラ」の総指揮を執る、と決まったとき「一度きりの挑戦」という言葉が出ましたが、それはどういう経緯で出てきた言葉なのでしょうか
山内P:まず役員の市川南(映像本部映画調整、同映画企画各担当兼同映画調整部長)が庵野さんに「ゴジラって興味ありますか」と聞いたのが最初です。そのときは「興味はあるが、エヴァンゲリオンもあるし、簡単なことではないです」という反応でした。われわれも全面的な参加は難しいと感じていましたが、せっかく興味を持っていただいたので、そこから監修的な部分であったり、ビジュアル的な部分での参加だけでもできないか、などさまざまな打診を続けました。最終的にコンセプトを庵野総監督が担当し、盟友である樋口監督が現場的な部分を担う方向でスタートし始めたのが、2013年春でしたね。
――なぜ庵野監督が総監督を引き受けたのだと思われますか
山内P:お話を始めた当時、庵野監督と樋口監督は「特撮博物館」という展覧会の準備をされているところでした。ですからおそらく特撮の歴史を俯瞰して見ておられたころなのではないかと思うんです。もともと「特撮博物館」をやるきっかけとなったのも「自分というクリエイターを育ててくれた特撮への恩返し」と仰っていたので、「シン・ゴジラ」に関しても、特撮への恩返しの気持ちで引き受けてくださったのではないかと思います。
――今回ビジュアルも大きな反響を呼びましたが、山内プロデューサーが「シン・ゴジラ」の姿をはじめてご覧になったとき、どう思われましたか
山内P:多くの人のイメージにあるゴジラそのものだと思いました。造形というのは当然のごとく一番目が行くところなので、一番気を遣ったところです。「シン・ゴジラ」は新しいが、誰にとっても「ゴジラ」だと思える造形にしようというコンセプトがありました。雰囲気としては第一作の1954年版「ゴジラ」を意識しましたね。ただ「ゴジラ」という存在はもちろんフィクションなんだけれども、ウソのないようにと考え生物学的考察もしています。
――造形的にこだわったポイントはありますか
山内P:さまざまな議論の末「着ぐるみを使わない」という決断をしました。人間が入ることを前提としない形で作るメリットがあり、かつての造形よりも生物学的なリアリティーを追及できました。例えばこれだけの自重があったら2足歩行は難しいだろうという中で、尻尾を太く長くして3点で支えるというアイデアが出たこともその1つです。
――歴代のゴジラは背ビレが3列なのに「シン・ゴジラ」の背ビレは5列になっていますよね
山内P:実は「シン・ゴジラ」もメインとなる基本背ビレは3列なんです。ただこれまでのゴジラの様に規則的に並んでいるわけではないので、ランダムなヒレが見様によっては5列や7列に見えるかもしれませんね。
――東宝内での評価は公開前と公開後で変わりましたか
山内P:特に大きな変化はなかったですね。企画の立ち上げから早い段階で、デザイン画や造形物、プロットなどを東宝内の「商品化チーム」「DVDチーム」「宣伝チーム」など広くさまざまな立場の人に見せて意見収拾をしていました。細かく段階を追っていったこともあり意外にもすんなりと受け入れてもらえたと思います。もちろん「かつてのゴジラではない」と違和感を覚えた人がいなかった訳ではありません。ただ、バトルものではない、ファミリー向けではない、ゴジラ映画というよりも「大人のエンターテインメント」を目指す作品ということで、最終的な理解を得ることができ、そんなにネガティブな話にはなりませんでした。
――劇場予告に映っていた第2形態(初上陸した姿・ファンの間での通称:蒲田くん)が「シン・ゴジラ」の敵キャラなのでは、という考察もされていましたがそのあたりは狙いましたか
山内P:最初から狙っていたわけではありません。しかしそういう見方をする方はいらっしゃるだろうなと思っていました。
――公開前かなり情報を制限しておられたのはなぜですか
山内P:日本に初めてゴジラが上陸するというストーリーである以上、初見のお客さまにいろんな情報を入れていない状態で観てほしい、純粋にお話を楽しんでもらうことが大事だという庵野監督のお考えからです。私たちは普段こうした宣伝方法を取りませんが、「確かにそうだな」と思うポイントがありましたし、庵野監督からは宣伝に関してもいろんなプランをご提案いただきましたね。
――作中には「3.11」を連想させるシーンも挿入されていますが、そのあたりについてはどうお考えでしたか
山内P:さまざまな議論を経て、リアルシミュレーションで「今の日本にゴジラが現れたら」ということをやるときに「3.11」はやはり避けられないテーマであるという結論に至りました。もちろん表現の部分はデリケートなところですから細心の注意を図りました。
――本作には映画「進撃の巨人」に出演されていた長谷川博己さんや石原さとみさんが出演されていましたが、お二人の出演はどのように決定したのでしょうか
山内P:今回のキャスティングと進撃からの流れは特に関係ないんです。まず脚本ありきでキャスティング作業をしていたので、純粋に「矢口蘭堂には誰が適役なのか」で人選をしました。石原さんに関しても同様です。
――そうだったのですね。また今回石原さん演じるパタースンだけでなく、市川実日子さん演じる尾頭ヒロミなど、いわゆる脇役にも注目が集まっています
山内P:個性的なキャラクターが多い中で、お客さまがそういう部分(キャラクターの特徴)などに気づいてくださるというのはすごくうれしかったです。例えば松尾諭さんが演じられた泉という役についても普通の作品であれば特別ピックアップされるような役ではないと思うんです。しかし彼は今、超人気キャラクターになっています。本当にうれしく思います。
――作中にはさまざまな作品のオマージュがちりばめられていましたね
山内P:そうですね、いろんな角度で楽しんで頂きたいと考えていました。今話題になっているシーンだけでなく庵野監督だけが「しめしめ」と思っているポイントもあると思いますよ。そうした「細部にこそ神が宿る」という庵野監督の考え方が本作で支持されたポイントの1つだと思います。
――今回は作品にはもちろんですが、発声上映という上映スタイルにも大きな注目が集まりました。配給元としてはどう感じられましたか
山内P:初めてご覧になるお客さまもいらっしゃるとの配慮から弊社では応援上映を積極的には行ってきませんでした。しかしTwitterでの皆さんの反響や庵野監督と島本和彦さんの関係性、そして何より作品の盛り上がりを考えて実施に踏み切りました。現地で私も観賞しましたが冒頭からラストまで、ゴジラを応援する人がいたり、音楽の部分で手拍子する方がいらっしゃったりと終始盛り上がりましたね。
――発声上映で驚かれた点はありますか
山内P:終盤のあるシーンで「一気! 一気!」という掛け声がはじまって、全く予想だにしない面白コールに「この人たち天才的だな」と思いました。今回の上映ではアニメの応援上映の様にみんなで一斉に決めゼリフを叫ぶというようなところまでには至っていませんでしたが、好きな映画をみんなで一緒に楽しみ尽そうという感じは今まで経験したことのない感覚でしたね。
――日本全体での「シン・ゴジラフィーバー」について
山内P:正直に言うと、ここまでとは思っていなかったです。というか誰も予想できていなかったと思います。公開前にスタッフ間でCGも何も入っていない編集段階の試写を行った際に、不思議な高揚感があったんです。自分たちで作っているのに「初めて見たもの」の感じがしたんですね。「これは何かあるね」と話しました。また公開後もスタッフたちが何度もお金を出して劇場に観に行っているんです。これは普通に考えたら異常なことです。「シン・ゴジラ」には唯一無二の魅力があるんだと思います。
――本当に日本中が熱狂している「シン・ゴジラ」ですが、最後に次回作の構想はあるのかお聞かせいただけますか
山内P:今回あらためてゴジラというものを日本のお客さまに受け入れて頂けたというのはうれしく感じましたし、求められているものなんだなと実感しました。「シン・ゴジラ2」のような形になるのかどうかは分からないですけれど、今後も何らかの形で作り続けていくと思います。
2016年に復活ののろしを上げたゴジラシリーズ最新作「シン・ゴジラ」。インタビューを終えた後の山内プロデューサーの笑顔を見るに、「シン・ゴジラ」もしくは新しいゴジラがスクリーンにカムバックする日はそう遠くないように感じました。
(Kikka)
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