見よ! 働く大人の生き様を! 名刺交換から始まるMCバトル「社会人ラップ選手権」が激アツい
御社の調子はどーーーーう!!?
即興ラップで勝敗を争う「フリースタイルバトル」がブームとなっている今、ひそかにアツい展開を見せている大会がある。それが、「社会人ラップ選手権」だ。
このラップバトル、単なる社会人大会ではない。なんと、バトルの前には名刺交換を行い、己の仕事への情熱や生き様をラップに込めて戦うという、大人のバイブスあふれるバトルリーグなのだ。今回は第2回大会(Abemaで全編視聴可)にお邪魔させてもらい、その様子を取材してきた。なお、バースは「こんな感じのことを言っていた」レベルのメモ書きであり、書き起こしではない。
会場はプロレスの大会などで使われる新木場1stRING。趣旨説明は大手広告代理店勤務の審査員・Mさんによってパワーポイントで行われた。審査員席にはMさんの他に元AKB48の平嶋夏海さん、コラムニストの辛酸なめ子さん、ラッパーのDOTAMAさん(審査員長)が座った。DOTAMAさんは10年間ホームセンターに勤めた経験のある元サラリーマンラッパーであり、トレードマークのスーツも相まって、勤め人だらけの会場から多くの声援を集めていた。
試合に挑むのは、「某広告代理店の新卒採用並みの倍率を勝ち抜いた」という16人のMCだ。勝敗は観客からランダムに選ばれた陪審員5人と、審査員による投票(多数決)で決まる。
第1試合は、歯科医・医学博士のCOYASS vs. 大阪の広告代理店で営業を務めるチョクジン。スキンヘッドのチョクジンを見たCOYASSは、「タービン」「はげちゃびん」「頭皮が知覚過敏」と固い韻で攻めつつも、ハゲは医学的に清潔であることをラップし、フォローを入れた。結果は、「金も髪もない!」「俺は医者のたらい回しに遭っている」と医療業界にディスを浴びせたチョクジンの勝利!
ちなみに、チョクジンはこの試合後、COYASSの歯科を受診することにしたそうだ。思わぬところで顧客を獲得できる、それも社会人ラップ選手権の醍醐味である。
第2試合では、早速ジャイアントキリングが起きてしまう。前回準優勝したエネルギー系商社主任・MC KAWATAKUが破れてしまったのだ。強敵を倒したのは、障害のあるアスリートを支援する福祉団体で代表理事を務める中心棒a.k.a.センターポール。激しい下ネタをカマしてくるKAWATAKUに対し、「車椅子」と「覆す」、「高畑裕太」と「ガタガタ言うな」など、強烈な韻で応酬し、勝利をもぎ取った。
第3試合は、コンビニでアルバイトをするフリーターのMC内郷丸と、官僚として日々激務をこなすDr.DREIという異色のカードである。しかもこのDr.DREI、映画「シン・ゴジラ」に相当影響されており、入場曲はゴジラのテーマ、入ってくるときにはゴジラのまねをするなど、ゴジラネタをどんどん挟んでくるのだ……。「シン・ゴジラ」「しんどいな」「死んどけや」「新小岩」と連続してキャッチーに押韻した内郷丸だったが、「国を支えているのは俺」「ゴジラが来たらお前は逃げるだけ!」とスケールの大きな話をし続けたDr.DREIが勝ち逃げに成功した。
第4試合は小売業の店員・ユースリー vs. セレクトショップ店員のTASKという店員対決だ。今日のために全身コーディネートを整えてきたというTASKは、5字6字分も軽々と韻を踏んでくるが、「チケット代3500円以上のものを見せないとクレームが来るぞ」など、店頭販売員ならではのライムが光ったユースリーに軍配が上がった。審査員のMさんは「店頭での声の出し方で差がついた」と話す。
第5試合では、満を持して前回優勝者であるIT企業人事課のPennyが登場した。彼に対峙するのは、Webディレクターをしながらイベント系会社で取締役も務めるYasco.だ。王者の風格を漂わせているPennyの勝利は間違い無いかと思われた……が!
「私の友達がお前の会社に入って5人ぐらい辞めてんだよ!」
Yasco.がリング上でそう吠えた瞬間、会場が一気に湧き上がった! 新人研修を担っているというPennyに対してこれ以上のディスはないだろう。試合は延長戦へもつれ込んだ。ディスを受けたPennyは「いい目をしてる、人事はこういう目が大好きだよ!」とYasco.のバイブスを認め、王者は一回戦で敗退することになったのである。
第6試合は個人的なベストバウトかもしれない。46歳の電機メーカー課長・レッドライオン(趣味は鳩のエサやり)と、リフォーム業者として主に外壁塗装を担うだねこの試合だ。
中間管理職の悲哀をぶちまけるという宣言の通り、レッドライオンは「何のために社会人をやっている!?」「俺は住宅ローンのためだ!!」という生活者としての力強いバースを蹴る。それに対してだねこは「俺はアイドルマスターのために働いている!」と、まさかの趣味への熱意で打ち返した。審査員の平嶋さんに「お互い何も返ってこないもので発散してる……」と言わしめた通り、この勝負は「鳩に話しかける男」vs.「二次元に話しかける男」だったのである。
「課長なのに小遣い制」「住宅ローンはあと17年」と次々苦労を暴露するレッドライオンだったが、「俺のローンは35年」「でもお前みたいに中間管理職になればきっとよく生きていけると思った」とリスペクトを見せただねこの勝利に終わった。
そして第7試合は、電機メーカーで設計開発を行っているよーへーと、電機メーカーで営業を行っているOMATA Longinus(いいお名前だ……)という同業者内での開発・営業対決だ。「お世話になってます、いやくたばれ」「お世話になってるっていうかこっちがお世話してる」と初めからよーへーの恨みを込めたバースがさく裂したが、「一緒に働く人にリスペクトを欠かしたことはない!」と叫んだOMATA Longinusがこの大接戦を制した。Mさんは「売る側の人間と企画の人間が分かり合えたことが一番大事」と評した。
1回戦最終となる第8試合。石油製品の商社マンであるポッシブルゆうやと、米農家のシャドウ國本が激突することになった。
「あんたは油田、俺は水田」「原油高ぇんだよ!」というシャドウ國本の魂のライミングに、ポッシブルゆうやは「今は原油安」「俺の方がラップセンスある」とバッチリ脚韻を踏んで返す。延長にもつれ込んだ結果、「もうすぐ秋だぜ、新米をリリース!」というパンチラインをキメたシャドウ國本が勝利した。新米ってリリースするものなのか……。
続いて2回戦が始まった。第1試合はチョクジン vs. 中心棒である。さわやかな見た目を平嶋さんに褒められた中心棒に対し、チョクジンは「イケメン持ってるさわやかさ」「俺は止まらねえんだ脇汗が」と、1回戦と同じく見た目をイジる話題で韻を踏んでいく。しかし「菅原文太」「負けを学ぶんだ」など余裕たっぷりにさらに固い韻で返した中心棒の勝利!
第2試合はシン・ゴジラ大好き官僚ことDr.DREI vs. レペゼン小売業のユースリー。先攻のユースリーがバイブスたっぷりに攻撃をしかけるが、DREIはすかさず持ってきたミネラルウオーターをユースリーに押し付けて「まずは君が落ち着け」と言うシン・ゴジラの名シーンを再現してみせた! 筆者は思わず声をあげて笑ったのだが、会場にはどうやらゴジラネタがいまいち伝わらないらしく反応は薄い……。
最終的には「トイレで◯◯してる」(ここでは書けません)というとんでもない暴露をしたDr.DREIの勝ちで終わった。審査員からは「ゴジラネタに客が付いて行っていない。官僚ならではの民意の読めなさがある」とユニークなコメントが飛び交った。
第3試合はYasco. vs. だねこ。だねこは前回と同様オタクネタで攻める。「生身の女性と話すのが久々」「選択肢が全然出ねえ!」という切ないライムで観客の笑いを誘う。オタクをなめるなと猛るが、Yasco.の「なめてねえよ、私だってアキバのメイド喫茶で2年働いてたからな!」というカミングアウトで、試合は延長戦へ突入する。
最後は「お前は次元が高すぎ、用はねえ」と言うだねこに「アイマスは知らねえが私がここで勝ってアイドルになる!」と覚悟を見せつけたYasco.の勝利!
2回戦最終試合は、米農家のシャドウ國本 vs. 営業・OMATA Longinus。先攻のOMATA Longinusは初っぱなから「お前のせいで20kg太った!」「白い悪魔、米がうますぎ」とお米大好き宣言をぶちまける。そうなるとシャドウ國本は生産者としてにやけが止まらず、「20kgでも50kgでも送ってやるよ」「山形遊びにきてちょうだい」とデレデレに。最後は「米農家、軽く越えようか!」というパンチラインでOMATA Longinusが勝利した。
そして運命の準決勝が行われる。まずは中心棒a.k.a.センターポール vs. Dr.DREIだ。DREIは「お前はアスリートをサポートしてるかもしれねえが俺は1億2000万人をサポート」と官僚の意地をさらけ出し、バイブスを押し出したスタイルで勝負をかける。それに対し、Dr.DREIの「地に足つけてる」から「車椅子でも自立してる」とアンサーをつなげ、細かい韻もちりばめていた中心棒が勝利。決勝へ駒を進めた!
一方、Yasco. vs. OMATA Longinusは、かなりテンポの早いビートでの勝負に。大企業の一社員であるOMATAと、社員5人の会社で取締役を務めるYasco.の緊張感あふれる試合であったが、軍配は持前のハイトーンボイスで攻め抜いたOMATAに上がる。決勝のカードは中心棒a.k.a.センターポール vs. OMATA Longinusとなった。
決戦前にはDOTAMAのゲストライブが行われ、「通勤ソングに栄光を」「真面目な男」など、働く大人の曲で会場は大盛り上がりだった。
そしてついに始まった決勝戦! 先攻はOMATA Longinus。中心棒が放った「深海魚」というワードを拾い、「パラリンピック皆いつ始まるか知ってるか!? ほらみろ皆知んないよ!」と韻を踏み返して見せた。試合は延長戦へ。
中心棒は相変わらずハイレベルな韻とアンサー力を見せつつ、OMATA Longinusを「イベリコ豚」となじる辛辣さも光る。しかしOMATA Longinusは「イベリコ豚? そうだよあいつの米がうめえからな!」とシャドウ國本に言及し、今まで負かしてきたMCたちへのリスペクトも見せた。
さらにOMATA Longinus、最後は「俺のスキル、それだけを信じたい」「ITでかなえる近未来」というパンチラインで会場をぶち上げ、見事優勝!
社会人の生き様、仕事へのプライドが魂の叫びとして爆裂した、すさまじい大会だった。前回よりレベルは高くなっていたそうで、これは第3回も期待できそうだ。全ての社会人に栄光あれ!
なお、優勝したOMATA Longinusさん、大会翌日は仕事で5時半起きだそうです。
(正しい倫理子)
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