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歴史を変えないよう畳の上でじっと寝そべる 未来人がバタフライ効果と奮闘するマンガ「おとうふ次元」

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第76回。これをすると未来がとんでもないことに――バタフライ効果が正確にわかる未来人が現代で繰り広げるSFギャグマンガの新境地。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 「北京で羽ばたいた1匹の蝶が起こした空気のわずかな乱れが、翌月ニューヨークに大きな嵐を呼び起こした」という話を聞いたことがあるでしょうか。

 「バタフライ効果」として知られるこの話、実際には、ある関数に与えられたごくわずかな初期値の差が全く別のものに見えるくらい大きな差として出力される「複雑系」や「カオス理論」が扱う現象を分かりやすく例えた表現なのですが、この「何気ない行動が予想もつかないほど大きな変化をもたらす」という考え方は、科学の枠を超えて普段の生活にも使えそうで刺激的です。

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 例えば明日の朝、家を出るとき靴を右足から履くか、それとも左足から履くかが、巡り巡って地球の存亡に関わる大事な一手になっている可能性もゼロではないわけで、そう思うと、今こうしてキーボードを打っている指がかきまぜた周囲の空気が、どこかでハリケーンを呼び起こすかもしれず、怖くて原稿も手につかなくなるわけです(※今回原稿締め切りを遅れた言い訳)。

 とは言うものの、今の科学では「風が吹けば地球が滅びる」バタフライ効果を測定する手段がないので、今もこうして無神経にキーボードを打ち続けていられます。

 しかし、もしそのバタフライ効果を正確に測定できる技術を持った未来人が現代にやって来たとしたら……?

 そんなSF的想像力を膨らませたマンガが今回紹介する原作・森繁拓真先生/作画・カミムラ晋作先生のSFコメディ「おとうふ次元(ディメンション)」(~2巻、以下続刊/KADOKAWA)です。

「おとうふ次元」第1巻、第2巻

現代の子供に不時着を見られた未来人 かけるべき言葉は?

 本作は時空修復官の未来人ジン・トライが、「船(ポッド)」と呼ばれるタイムマシンの故障で「旧世紀」の現代日本に漂着する場面から始まります。

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 ポッドから川に投げ出されたジン。全身びしょぬれで河岸に上がってきたところをいきなり女の子に目撃された上「なんで服着て泳いでたの~~? なんでなんで~~?」としつこく付きまとわれます。

 ジンが生きる200年後の未来は、「CLEAR AGE(確かな時代)」と呼ばれる「あやふや」が何ひとつない合理性のかたまりのような時代。また、バタフライ効果が時空に及ぼす影響を測定できる「時変センサー」も身に着けています。ここで「ポッドが故障した」などと正直に答えてしまっては、未来にどれほど大きな影響が及ぶか分かりません。

 しかしそこはCLEAR AGEの未来人。腕に着けたサポートマシンを駆使して旧世紀ライブラリーから、未来に影響を与えず、なおかつこの時代に最もマッチした自然な返事を瞬時に検索します。そして導き出した最適な返事は……

 「『妖怪のせい』だ

おかしなことは全部「妖怪のせい」。こうして未来は守られた――

 うむ、これ以上ないほど完璧な解答。某妖怪アニメをウォッチしているであろう女の子も満面の笑みで「そっかー」と納得の様子。さすが未来人です。

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 さて、未来からの救助を待つジンが起こした次なる行動、それは「ただなにもしないこと」でした。そこにはただアパートの畳にねそべって救助を待つだけのジンの姿が。

未来を変えないために出した答えがこれ。地味すぎやしないか!

 「いやまあ遭難者としては正しいけど……。えぇ……」と、この先100ページ以上にわたって寝そべる青年を見続けることになるのかと焦りました。

 しかしいくら本人が望んでいなくとも、ご近所さんと交わらざるを得ないのが旧世紀の野蛮さでもあります。未来人には未知の料理「ニク・ジャガ」(※肉じゃが)をご馳走してくれるアパートの大家さん、合理的な説得が全く通じない新聞の勧誘、ひょんなことから参加することになった草野球など、次々とジンに襲いかかる接触イベントの数々。

 「新聞を取る」「野良ネコを追い払う」などささいな行動がバタフライ効果によって、200年後には数百~数千人規模の人口変動をもたらすとあっては、うかつなこともできません。しかも人口変動だけでなく、大家さんの娘・舞花ちゃんの世話をしたばかりに、危うく「筋肉女子アナ」という誰得ジャンルの女子アナを大流行させそうになるなど、旧世紀での生活はまさに綱渡り。歴史がこれほどまで「おとうふ」のようにもろかったなんて……!

逆立ちで女口調で独り言 未来を守る謎の行動の数々

 さて、社主が本作で特に感心したのはバタフライ効果を逆手に取った第5話の「ABEA」。「アンチ・バタフライ・エフェクト・アクション」の頭文字を取ったABEAは、不意に訪れる未来改変を正常化するため、はた目には意味不明なことばかりする時空修復行動のことで、ABEAを求められたジンは、突然窓を開けてステップを踏みながら英語で大声の自己紹介したあと、逆立ちで外に飛び出し女口調で独り言をつぶやくなどの奇行を繰り返します。

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意味不明に見えるけど実は未来改変を正常化しています。指示にはジンですら懐疑的

 元々は「風が吹けば桶屋が儲かる」的な因果関係に基づいた科学なのに、それを突き詰めるとやってることが儀式やオカルトめいてくる皮肉さが何とも素敵です。

 本作のような過去に影響を与えたせいで本来の歴史が改変されてしまう話は、マンガで言えば「ドラえもん」を始めSFの古典的王道ですが、1つの欠点としてタイムパラドックスの問題がつきまといます。過去にタイムスリップしてタイムマシンの発明者を暗殺してしまうと、タイムマシンそのものが存在しなくなって、そうするとタイムスリップもできなくなって……あれ? というやつです。

 この矛盾を避けるためか、最近では無数の可能性世界がそれぞれ独立して存在する平行世界的なSFの方をよく見かけるような気がしますが、本作はあえて「一直線の時間世界でのバタフライ効果」を追求することで、それがくそ真面目であればあるほどギャグになっていくというアイデアが光る作品です。

 最新2巻では、旧世紀人との交流をますます深めながらもやっぱり旧世紀独特の「何となく」「あやふや」に苦悩するジンの姿が見どころ。「確かな時代」に生まれた彼が不確かな旧世紀になじめる日は来るのか。漂着当初に比べると、どことなく緊張感も表情もゆるんできている気がしないでもないですが、これもきっと妖怪のせいでしょう。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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(C)森繁拓真 (C)カミムラ晋作


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