ネット署名は世の中を変えることができるのか 署名サイトChange.orgの4年間(2/2 ページ)
民主運動の1つとして今やすっかり定着しているネット署名。そのお手軽さから、国の制度までも変える力は持っているのだろうか。国内最大の署名サイトChange.orgに成功例を聞いた。
Change.orgのプラットフォームとしての役割
―― ここからはChange.orgというプラットフォームについて話を伺っていきたいと思います。これまで散々Change.orgをネット署名サイトとして扱ってきましたが、そもそも署名運動のためだけのサイトではないんですよね。
武村: 署名プラットフォームと呼ばれたりしますが自分たちの言葉でそう言ったことはなく、ソーシャルプラットフォームと称しています。基本的には、普通の人がおかしいと思ったことに声を上げ、草の根的な動きとして世の中を変えていけることをコンセプトにしたサイトです。
キャンペーンはその「おかしい」と思った気持ちを可視化するツールで、賛同者を集める機能も、それの気持ちを社会へ働きかけていくときの一つの機能でしかありません。
―― ほかにどんな働きかけができるのでしょうか。
武村: 例えば「ディシジョンメーカー機能(※)」では、政府や企業がキャンペーンページに直接意見を書き込めるようになっています。アメリカでの事例だと、服飾ブランドのGAPに「動物の毛を使った製品を作らないでください」と訴えるキャンペーンページに、公式の広報担当者が「じゃあ作りません」と返事を書き込んで、成功に至りました。
―― 賛同者を集めて提出する前に、両者の間で直接問題が解決できたと。
武村: 日本では訴え先が――特に政治社会的分野の方々が相手だとネットにコミットしていないこともあり、なかなかそういうスピード感のあるキャンペーン事例はまだ出てきていないのですが。従来の紙の署名とは違うものとして考えていただけたらと思います。
―― 個人的な感情を爆発させたようなキャンペーンが乱立して、それらがネットユーザーやメディアに世論として捉えられてしまう危険性もあるのではないでしょうか。
武村: そもそもそういうキャンペーンは全然賛同が集まりませんよ。独りよがりな文章は誰も共感しないですよね。例え怒りが出立点だとしても、周囲から共感を得るためには論理に基づいた説明が必要です。感情の爆発にせよ、他の人にも共感できる普遍的な文章になっていないと賛同者は1000人も2000人も集まらないかと思います。
―― たまたま賛同を集めて世論へと広がっていく、という状況は起こりにくいと。もう一つ。昨年、三重県志摩市が公認した海女さんの萌えキャラについて、海女さんを侮辱しているから非公認にすべきというキャンペーンと、それはオタク文化への偏見だから公認にすべきというキャンペーンが同時に立ち上がっていました(関連記事)。一つの問題に対して感情同士がぶつかり合う、解決の難しい状況も起こりやすいのではないでしょうか。
武村: プラットフォームなので相対する意見がそれぞれ集まるのは致し方ないことですが、でもそれが重要だと思うんですよ。ある目的に対してこういう課題があって、それをどう解決していくか考えていくことが、今問われています。
海女さんキャラの件については、女性を道具として扱う、しかもそれが自治体による公式の表現として扱うのはどうなんだと問題視する一方で、萌えキャラは表現の自由なんだからそこまで制限しないでくれという意見が出てくるのも当然なのではないでしょうか。さまざまな見方を通して考えることが解決へつながっていくので、むしろChange.org以外でも意見されていくといいと思いますね。
―― ちなみにキャンペーンの立ち上げは完全に自由なのでしょうか。
武村: サイトポリシーにガイドラインがちゃんと載っていて、差別的や暴力的なもの、個人を誹謗中傷するようなキャンペーンはダメとは書いています。ユーザーが違反報告できる機能もあって、報告が来るとガイドラインに抵触するようなものは弾いていますね。
でもプラットフォームなので、公序良俗に反せず論理的に筋の通ったものは、理不尽な怒りだろうがどういう意見であっても尊重するべきだろうと。それが世間に共感を得られるかどうかはこちらとしては分かりかねるというスタンスです。
―― あとは気になったのは、事実と違うことが書かれたキャンペーンが広がってしまうケースです。例えば「100年の街路樹をオリンピック開発から守って下さい!」というキャンペーンは、千代田区がオリンピックに向けた道路工事で街路樹を伐採しようとしているのを止めようという内容で、4万人以上も賛同を得ていました。でも後から工事はオリンピックと関係ないことが分かったんです。こうした誤解の広がりを防ぐセーフティネットはあったりするのでしょうか。
武村: これもポリシーに関係してくるところなのですが、プラットフォームである以上、そのキャンペーンに書かれていることが本当かどうか証明や吟味はしていないのですよね。裏取りができていない情報をそのまま削除することも難しいです。
例えばキャンペーンの内容に誤解の可能性があって、ある個人を誹謗中傷してしまっているといったケースも過去には結構ありました。そういう場合、基本的にはページから通報してもらったり、それこそ被害届といった公式な書類や弁護士さんの書類を出していただくことで判断していくことになります。
ただしそういう明らかな誤解が発覚したキャンペーンは、途中ですごく伸び悩んでしまうなと傍から見ていても思いますね。
日本人は声を上げやすくなった? 問題提起の意識変化
―― Change.orgは日本のほかにも17カ国あるそうですが、日本人を世界と比べたときの違いはあったりしますか?
武村: 肌感覚になってしまうのですが、まずアメリカと比べると、実名で政治的な発言をすることにまだまだ慣れていない印象です。発信者になる人の数がまだまだ圧倒的に少ないというか、心理的ハードルが若干高いというか。
それでもここ2、3年、何かしらマスメディアで話題になったものに対して、直後にキャンペーンを立ち上げる人が増えてきた気がします。最近ですと長谷川豊さんのブログの件、もうちょっと前だと「保育園落ちた日本死ね!!!」が話題になった後で「保育園落ちたのは私だ」と応じるキャンペーンも出てきました。社会の出来事に関心を持ちながら、普通の生活をする人は結構増えてきたと思います。
―― 賛同者からの反応に国ごとの違いや傾向はあったりしますか。
武村: 傾向はあまりないでしょうか。むしろどの国でもその社会で問題になっているテーマには賛同が集まりやすい、という共通点ならあります。インドだったら交通とか女性に対する暴力だとか、日本だったら原発の問題だとか、アメリカだと最近はやはり大統領選に関する問題だとか。
さらに共通して言えるのが、個人の感情やストーリー、「こういう風に生きてきて、こういうことがおかしいと思うんだよ」という語りがしっかりできているものは、どの国であっても共感を得られやすくて賛同が集まりやすいです。
―― そのあたりもネット署名を成功に導くためのヒントになりそうですね。最後に、Change.orgにおける今後の課題などがあれば。
武村: 「自分がおかしいと思ったことは可視化していいんだ」という理解をもっと一人一人の方に広めていきたいので、起業家にどういう手法で社会を動かしたかインタビューをするなど、コンテンツの発信も強化していくつもりです。皆さんが「思い」を可視化するための底上げをもっとやっていきたいと思います。
(黒木貴啓)
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