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放送が落ちるのは「悪い状態」に慣れてしまっているから 女性アニメーターに聞くアニメ業界の今(1/2 ページ)

女性アニメーターの小谷杏子さんにお話を聞きました。

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 近年アニメ作品のエンドロールで女性スタッフの名を目にする機会が増えてきました。女性アニメーターの視点でみたアニメ業界とは――。「総作画監督制」「アニメの放送落ち」「今と昔の新人アニメーターの仕事量の違い」など、アニメ業界が抱える問題について現役女性アニメーターを取材しました。

取材に応じてくれたアニメーターの小谷杏子さん

なぜ制作スケジュールがギリギリになるのか

 取材に応じてくれたのは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」2期や「黒子のバスケ」3rd seasonで作画監督、「Dance with Devils」で総作画監督など人気タイトルで活躍する小谷杏子さん。ゴールデンタイムのアニメから深夜アニメまで数々の作品に携わっている女性アニメーターです。

――2016年からアニメ作品数本で制作が放送に間に合わないという問題がクローズアップされるようになりました

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小谷そうですね。アニメーターが何人か集まると「放送落ち」の話題になっていました。

――そもそもなぜ制作が間に合わなくなってしまうのでしょうか

小谷多くの作品はギリギリのスケジュールで制作していますから、どこかで詰まってしまうと、全ての作業が一気に滞ってしまいます。そうなると必然的に絵作りの期間が短くなり、最終的に制作が放送に間に合わなくなるのではないかと思います。

――スケジュールがギリギリになっているというのは最近のお話ですか

小谷いいえ、ずっと以前から前日納品や当日納品といったものは存在していました。ギリギリ納品が常態化している制作会社もあると思います。

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納品……放送局などに対して完成した素材を納めること。

――どこで作業が止まってしまうことが多いですか

小谷監督の絵コンテが遅れてしまう場合もありますし、ケースバイケースです。例えばキャラクターデザインの時点でクライアントからOKが出ず、作画のステップに進めないという場合もあります。

アニメーション作品制作のフローチャート例。青の部分がいわゆるアニメーターと呼ばれる職種の方(一例のため簡略化して表現しており、作品によって制作手順などが異なります)

――なぜクライアントからOKがでないのでしょうか。原作の絵とアニメの絵ではキャラクターのデザインが大きく変わってしまうということですか

小谷いえ、そういうわけではありません。キャラクターデザインの担当者は通常、動画にした時の効率を考えてデザインをするのですが、それがクライアント側にうまく伝わらないと、修正がどんどん増えるということはあります。

――動画にした時の効率というのは

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小谷例えば原作よりも少ない線の本数でキャラクターを表現するということです。クライアントの中には「原作をそのまま再現してほしい」という方もいるのですが、漫画やゲームの場合とアニメの場合とでは制作手法や描く枚数も違うのでなかなか難しいです。

――例えばキャラクターデザインの段階で時間がかかるとどういうことになりますか

小谷キャラクターデザインが決まらないと作画に入れませんから、やはり絵作りの期間を圧迫しますね。また作画に進めたとしても、都度手が空いているアニメーターに行き当たりばったりでお手伝いをお願いするということになってしまいます。

――スケジュールが遅れるとそういうことも発生してしまうんですね。小谷さんご自身は、アニメ制作のスケジュールがタイトになってしまう原因はどこにあると思われますか

小谷いろいろな原因があるとは思いますが、総作画監督制がネックになっている場合が多いのではないかと感じています。私も総作監を担当することがあるので、心苦しくも思っているのですが……。

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※総作画監督……話数ごとに存在する作画監督のタッチなどを統一するために存在する作画の総監督。基本的には1人で担当することが多い。

――具体的にはどういうことなのでしょうか

小谷全てのカットに目を通し、主にキャラクターに対して修正が必要なところに修正指示を出すというのが総作画監督の仕事です。ただし制作会社や監督の意向によっては最初からカット数を制限している場合もありますし、手や足などの体のパーツのアップや小物しか映っていないカットでも全てチェックするという場合もあります。アニメを制作する場合は「1班は第1話担当」「2班は第2話担当」といった感じで、5~6班のチームが同時進行で動いています。これを1人の総作画監督が全カットをチェックするとなればボトルネックになってしまいます。

――ボトルネックになると、どういう作業進行になるのですか

小谷やはり放送が差し迫っているものから優先で作業することになりますので、後ろの作業はさらに詰まっていくということになります。

――アニメの放送落ちに関しては最近増えているという印象ですか

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小谷そうですね。ただ私が把握しているだけでも2000年代の時点で「総集編を流す」という手法は存在していました。しかしアニメ作品の急増や制作会社の急増によって人手不足に陥り、物理的に作業が間に合わないということが増えてきた印象です。

――制作会社が増えればスタッフも増えるのではないのでしょうか

小谷実は新規で増えている制作会社の多くは、既存の制作会社で動いていた班が独立したものや、子会社、兄弟会社などです。会社はどんどん分裂して増えていきますが、人間は教育期間も必要ですし、スタッフを増やすことは容易ではありません。ですから制作会社は増えてもスタッフは増えないため、最終的に少ない人数で無理をしてギリギリのスケジュールを守りながら作品を制作するということにつながっていくのだと思います。

――どうすればアニメの放送落ちが防げるのでしょうか

小谷お金と人を増やして、作品の本数を絞ることでしょうか。あとは「反省」をすることです。私が関わったものでも、一時スケジュールが詰まっていて制作が大変な作品がありました。しかし、そのスタッフたちはきちんと反省し、後半では体制の立て直しに成功しました。

――なぜ反省を生かせない制作会社が多いのでしょう

小谷恐らく放送を落としてしまう会社は悪い状態に慣れているスタッフが多く、きちんとスケジュールを守って制作するといった「成功体験」ができていないと思います。状態の悪い会社からは優秀なスタッフが抜けていってしまいますから、残るのはちゃんとした制作が分からないスタッフたちですし。

――だから最終的に放送が落ちてしまうことがあるんですね

小谷そうです、無理してその場その場を乗り切ったとしても状況が良くなっているわけではありませんからね。制作会社の多くは放送中の作品に加えて、新規作品の準備も同時に行っているため、反省する時間すらないのではないかと思います。

女性スタッフの増加と活躍

――近年女性アニメーターが増えているというお話を聞きました

小谷作品にもよりますが、私の周囲では女性アニメーターが増えてきています。特に性別は仕事に関係ありませんが、最近は新規採用のアニメーターの比率が女性8割、男性2割になっていたという制作会社もあります。

――女性アニメーターの活躍にはどういった背景があるのでしょうか

小谷私はフリーランスなのですが、制作会社に送られてきた履歴書を見せてもらうこともあります。すると女性は就職を見据えてポートフォリオなどを準備する傾向があるのに対し、男性は記念受験なのかなと思うような人も少なくありません。制作会社としては、基礎がきちんとできている人を取りたいはずですから、自然と女性の比率が増えているのではないでしょうか。

――小谷さんから見て、男性アニメーターと女性アニメーターでは得意分野に違いはありますか

小谷アニメーターという仕事は特に性別に左右される仕事ではありませんが、個人的には男性は得意なところをどんどん伸ばして特定の分野に特化する傾向があると思います。女性は満遍なく基礎的なことを一通りできるという人が多い印象です。

――アニメ業界は結婚や出産のあとでも働きやすい環境ですか

小谷結婚に関しては同業者さん同士での結婚が多い印象なので、特に何もマイナス要素はないと思います。女性の場合は旧姓をペンネームにしてそのまま仕事を続けるアニメーターもいます。ただ出産となると、少し話は変わってきます。

――例えばどういうことでしょうか

小谷同業者間で子どもを授かった場合、やはりどちらかが育児をしなくてはいけません。なかには保育園の入園を見据えて妊娠中にいろいろと手続きを行うご家庭もありますが、私たちアニメーターの多くは自営業者ですから制作会社が特別な応援してくれるということはほとんどありません。

――そうするとやはり以前の仕事量をこなしていくのは難しいと

小谷なかなか難しいと思います。私の周りでは出産後はアニメーターをやめて一般職に就いている方もいますし、カット数を絞ったり、アニメ誌などに掲載するための版権もののイラストをメインにしている方もいます。

――そういう働き方もあるんですね。なんとなくアニメ業界は男社会のようなイメージがあるのですが

小谷十数年前までは男性が多いと言われたアニメ業界ですが、女性の制作進行も増えてきていますし、男性社会ということはないと思います。

――女性の制作進行が増えたというのは

小谷制作進行はアニメーターの原稿を回収するというのが大きな仕事なのですが、昔はセルと呼ばれる重い板を運ばなくてはなりませんでした。しかし時代と共にセルが使われなくなり、現在は肉体労働的な側面が減ってきています。そうした背景から女性が増えてきたように思います。

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