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天才が言う正論は、どうしようもない暴力だ 「剣姫、咲く」戸狩姫咲というキラープリンセスあのキャラに花束を

貴女を私の好敵手(仮)にしてあげる!

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 武は強いものが勝ち。弱いものが負け。とはいえそこには「礼儀」があるから、ケンカではなく勝負が成立する。

 武道から礼儀を抜いて、相手への敬意を全部なくした時、武は相手の心に無邪気に傷をつける暴力になる。

「剣姫、咲く」は、ちょっとまっとうな剣道マンガじゃないぞ

 戦って勝つことは楽しい。だからこそ、武は人を傷つけるためではなく克己のためのもの、という根本的思想がどこの国にもあります。特に日本の武道は礼儀重視。人を傷つける武器を得るための武ではない。

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 マンガ「剣姫、咲く」のヒロイン、戸狩姫咲(とがり・きさき)は、そのへんのネジが全部吹っ飛んだ、狂える天才少女。「剣道」が好きすぎて、「道」部分がゼロになった彼女、人間を平気で踏みにじるキラープリンセスです。

私を楽しませてほしいな!

容姿端麗眉目秀麗、スラリとした長身が目立つ、姫咲(1巻16ページ)

 剣道部に訪れた新入生、姫咲。いい笑顔で、背が高いゆえに目立つ美人さん。竹刀を持って、目をキラキラ。一見とてもいい子。

 ところがその本質は、話を聞かないわがまま放題の性悪プリンセス

 「大事なのは貴女の剣が私を斬れるか、私の剣が貴女に斬られるか、だよ」「私と試合しよ!」

 道場でいきなり主将に食って掛かる姫咲。まるで道場破りのようなセリフだけど、これ単に駄々をこねているだけ。最初のうちは赤ん坊のごとくギャーギャー泣いているものの、試合を見ていて彼女の様相は一変します。

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これは後輩ではない、捕食者の顔(1巻32ページ)

 彼女のキラキラした瞳は、目の前の「人間」を全然見ていない。先輩たちの剣道を「ヒドイ剣道」と切り捨てる。

 姫咲が見ているのは「剣道」だけ。眼前の相手がどのくらい「剣道」を愛しているのか、自分がだいだいだーい好きな「剣道」の相手をしてくれるのか。だから彼女は、つまらないヤツだと思ったら切り捨てます。冷酷非情なのではなく、子どもが壊れたゴミを捨てる感覚に近い。

 自分のプラスにならない、面白くないとわかったら、人に平気で「邪魔」だと言う。相手をけちょんけちょんに負かすのみならず、防具を捨てようとまでする。彼女は笑顔で、先輩たちを罵倒します。

彼女のセリフは全部ひどい。でも悪意はない、本音なだけ(1巻71ページ)

 「貴女達には剣道愛がない。愛が無い人は弱い。弱い人は愛が無い。それは邪魔だからいらない」

 言っていることは、間違っていない。天才が言う正論は、どうしようもない暴力だ。

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礼儀と武道

 彼女は別に、敗北が知りたいわけではないです。サディストでもありません。確かに中学時代に一試合平均7秒で全国制覇したというめちゃくちゃな強さではあります。けど彼女が好きなのは「勝利」じゃなくて、遊戯としての「剣道」です。

 だから基本、悔しがりません。勝ったからと喜びません。歯ごたえがあった時だけ、ニヤニヤします。

 彼女がぶっ壊れている原因の一つは、共感力のなさ。ひどいことを言ったら相手がどんな気持ちになるのか。人に迷惑をかけているという自覚。自分に向けられる敵意。全部分かってない。

 剣道はものすごく礼儀に厳しい武道です。試合中に相手や審判に非礼にあたるよう言動をしたら反則。試合で一本とった時、ガッツポーズを取ったため反則で一本取り消しになった事例は有名。

 正直どこまで反則かというのはめちゃくちゃ難しい。というか相手の「剣道」に対して礼を重んじていくことが大事。だから、礼に始まり礼に終わる。

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 姫咲の剣道は、強い・弱い・面白い、しかない。相手への敬意もへったくれもない。平気で悪口三昧。つまんない、ひどい、いらない、とぼろくそ。

もう一人の愛の人、諸葉(1巻80ページ)

 彼女に唯一異を唱えたのは、剣道が大好きで、真面目で、小さくて、力もなくて、そこまで早くも強くもない、草薙諸葉

「人の数だけ違った愛がある。それはキミの物差しで計っていいものじゃない!」「人の『剣道』を軽々しく踏みにじるな!」

 これが、姫咲と諸葉のガール・ミーツ・ガールでした。

それぞれの武道

おもちゃを見つけたらニコニコ踏みにじるスタイルの姫咲(1巻124ページ)

 諸葉は人に劣る体躯を補うべく、ある部分に特化して動く、かなり特殊な剣士。極めればそれは強力すぎる武器ですが、使いこなすのは死ぬほど難しい代物。

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 もっとも2人が試合をした時、手の内全部見せても結局姫咲が勝っちゃう。

残酷という言葉も、悔しいという感情も知らない(1巻136ページ)

 負けた相手に、泣いている相手にかける言葉もオーバーキル。ここまでくると、礼儀作法どころか日常生活にも差し障りがあるよこの子。

 ただ、姫咲は全力でくってかかってくる、何もかもかなぐり捨てて剣道のためだけに動ける諸葉にめちゃめちゃ興味を抱きます。「今の諸葉ならいいライバルになってくれる」じゃない。この子ならいい好敵手(仮)になりそうだから私が育ててあげる

 なんという傲慢! でも、これって彼女の遊戯ではない「剣道」だと思うのです。

 このマンガにおいての「剣道」とは、その人がどういう姿勢で挑んでいるか、という個々の生き方そのもの。だから竹刀を交えることに究極の快感を求める姫咲が相手をバキバキに砕くのも、立派な「剣道」。諸葉が超生真面目に礼節を尽くし、自分の全てをぶつけ、大切な思いを守りたいとあらがうのも、「剣道」。

 姫咲は、自分の「剣道」に対して、諸葉の揺るがない「剣道」がぶつかってきたことに、強くひかれたんじゃないかな。竹刀を交える以上に、激しい感情と思想をぶつけ合える相手にワクワクしている。強さは二の次。

まだ(仮)ですが(1巻138-139ページ)

 自分の「好敵手」を見つけるのって、恋人を見つけるより難しいと思う。敵じゃないし、味方じゃないし、仲間じゃない。一生に一人出会えるかどうか。

 姫咲の「好敵手(仮)に任命してあげる!」発言の横暴さはすごいんですが、彼女のやり方を嫌う諸葉が案外姫咲を拒絶しないのは、彼女もまた「全く違う『剣道』の持ち主」として、姫咲の在り方に歯ごたえを感じているからに見えます。

 姫咲はヒールじゃない。人とは違う価値観で、みんなを刺激する存在。

剣道着とノーパン理論

 ちなみに姫咲は、ある方法で相手の剣道愛をチェックします。それがこちら。

袴って横から手入るよねー(もっとやれ!)(1巻82ページ)

 奥義、剣道着の下のパンツチェック。和服の習慣だし動きの邪魔になるのだから、そんなものつけてるようでは愛が足りない……ほんとに??? 話によると男子は履かない人もおり(通気性と歴史の問題)、女子は大抵履いている様子……ですが地域や道場で違うと思うのでなんともはや。

 普通はそこで「剣道愛」とか言われた「あほかー!」ってなるとこですが、姫咲の目がマジすぎて、そうなのかなって思っちゃう。とりあえず今後は諸葉のノーパンチェックを定期的に行っていただきたい所存。

(C)山高守人/KADOKAWA

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