「すごーい!」「たーのしー!」
Twitterやニコニコ、各種掲示板が侵食されました。「けものフレンズ」に。
事情が分からない人からみたら、朝起きた時にタイムラインが「すごーい!」に染まっている様子は、ちょっとしたホラーです。
「けものフレンズ」とは何か?
深夜アニメ「けものフレンズ」。ヒト化した動物たちと出会った主人公が、みんなと仲良くジャパリパークを楽しく巡る大冒険物語3Dアニメです。
以上です。本来は。これ以上でもこれ以下でもないはず、なんです。
「けものフレンズ」自体は、メディアミックスプロジェクトでした。最初はネクソンのソーシャルゲーム、キャラクターコンセプトデザインは「ケロロ軍曹」の吉崎観音でした。
2015年3月16日スタートのこの「新感覚動物RPG」、昨年3月31日から完全無料化。そして2016年12月14日にサービス終了しました。なぜアニメをやる直前に終わったのかは、不明。
他にはKADOKAWAからコミック版も出ています。不思議な現象で女の子になった動物が暮らす「ジャパリパーク」で、飼育員として菜々が奮闘する話。アニメとはつながっていません。
アニメ版は非常にゆるーいノリの作りで、早朝や夕方のキッズ枠でやっていてもおかしくないくらいにソフトな、優しい世界です。
しかし、この作品大きな2つの爆弾を抱えていました。
ひとつは、異常なまでに欠落した語彙(ごい)。もうひとつは退廃的すぎる世界観です。
消滅していく言葉
物語は、名無しの迷子がサバンナで目覚めたことからはじまります。ここがどこなのか、自分がなんなのか、全く覚えていない。サーバルキャットのサーバルちゃんは、かばんを持っているのを見て、「かばんちゃん」と名付けます。2人はかばんちゃんが何者なのかを調べるため、「図書館」への旅に向かうのでした。
このサーバルちゃんのメンタルが、ものすごく強い。
「すごーい!」「おもしろーい!」「たーのしー!」「大丈夫ー!」
目に入るモノすべて(家とか木とか穴とかでも)「すごーい!」。どんなこと(滑るとか走るとか)でも「たーのしー!」。
他のフレンズ(ヒト化した動物たち)も、思考レベルは動物なので、ほとんどセリフは変わりません。「すごーい!」。彼女たち、本気で「すごい」と思っていて、比喩や形容をせずただただ「すごい!」と口から出る。フレンズたちは基本的に超絶前向きなので、この「すごーい!」は聞いていて多幸感を産みます。
サーバルちゃんは、相手をおとしめることは決してしない。絶対全員を肯定する。何かができなくても、それぞれ他の何かができる。自分ができないことを見たら「すごーい!」って言う。なかなか褒められない社会で、褒められる状況を見られるのはとても心地よい。サーバルちゃん、ありがとう。
「みんなちがって、みんないい」金子みすゞ精神が満ちると、こうなるんだなあ。いやどうかな?
フレンズ・オブ・ザ・デッド
あまりにもいろんなキャラが、複雑な思考を一切せずに「褒める」。ひたすら純粋な「すごーい!」は、脳に染み渡って行きます。これがネットにおいてのフレンズ化を招きました。
(関連・すごーい! 「けものフレンズ」の主題歌がフレンズ爆増によりiTunesで総合3位に ねとらぼ)
加えて「あなたは○○なフレンズなんだね!」というフレーズも大人気に。
そもそもこのフレーズ、作中にないです。「ご注文はうさぎですか?」で「あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜」というセリフが流行りましたが、そんなの誰も言っていないのと同じです。ネットスラングとしての使いやすさ、という意味では「ガルパンはいいぞ」の亜種かも。
「知能指数が下がる」と話題のフレンズ化。会話が全部「すごーい!」「そうなんだー!」で成立しちゃう。しかもなんか平和になる。単語ひとつで完成する、統制の取れた疑似ユートピア。
「ご注文はうさぎですか?」や「きんいろモザイク」の、合法ドラッグ感と非常に似ています。しかしこの2つは、箱庭の外側から、キャラクターたちを愛でてうっとりする方に近い。作品そのものが柔らかく完成されているからです。
しかし「けものフレンズ」は、完全に作品の中に入り込んでフレンズ化するか、割り切ってネタとして波に乗り切るか。あるいは大分離れた位置から俯瞰して現象と作品を考察するかになりやすい。
内容に不安要素が、あまりにも多いからです。ごちうさ的に安らぐには、ちょっと裏が黒すぎる。
主人公「かばんちゃん」とは何者?
主人公のかばんちゃんの存在は、1話からどうにも妙でした。いったん整理します。
- 自分が何なのか理解出来ていない(人間という言葉を知らないし、人間かどうかも現時点では不明)
- 知能が他のフレンズに比べてずば抜けて高い。また手が器用
- ジャパリパークにいるBOSS(LuckyBeast)と呼ばれるロボットが、唯一話しかけてくれる
- 性別不明
- かぶっている帽子はゲーム版のガイド・ミライと同じで、声優さんも同じ。2枚だった羽根が1枚になっていて、ボロボロに
- 持ち物はかばんだけだが、これも何なのかはっきりしない
- 扉のある家が好き(他のフレンズはあけっぴろげ)
- かわいい
物語が進むにつれてほのめかされ度合いが増しているのが「フレンズはもともと動物であり、習性を持ったままヒト化している」という点。
かばんちゃんは、その中に含まれていない。サンドスター(砂の星)で産まれた、とサーバルちゃんは言っていますが、これも詳細不明。
異物なのです。フレンズたちが幸せに暮らす「ジャパリパーク」において、全く戦う能力がなく、移動手段も持っておらず、けれど飛び抜けて知恵と知識に長けている。なんのフレンズか、誰も知らない。
かばんちゃんの存在、物語においてあまりにも危うい。加えて2話め以降、エンディングで廃墟の写真が使われたことで、この世界のディストピア感が一気に増しました。しかも終了したソシャゲのアニメで、です。
けものフレンズ考察班
「けものフレンズ」の「すごーい!」のノリと真逆に、Twitterの「#けものフレンズ考察班」がものすごい勢いで知識を総動員しはじめました。いくつか特徴的な説を拾ってみます。
・人類絶滅後の世界説
4話目でツチノコさんが「あいつ絶滅していなかったのか」と言っているため、かばんちゃんは残されたごくわずかな人間の1人、またはタイムリープしてきた存在の可能性大。廃墟化したアトラクションの出入り口が溶岩で塞がれている。人間絶滅どころか、もっと大きな天変地異があったのかも?
・ジャパリパークは人間向けに作られた廃墟説
BOSS(LuckyBeast)が、仮に人間であるかばんちゃんだけを認識して動いているとしたら、ジャパリパークは人間が作ったもので、現在は廃墟。彼女たちがたどり着いたカフェ(なおゲームでは拠点の一つ。アニメでは珍しく太陽電池で、無人のまま施設は生きていた)や園内バスやゲートは、当時使われていたもの。人間向け案内図も残っているが、フレンズのサーバルちゃんはふたを開けて取り出すことが出来ないため、人間専用のモノの様子。
・イントロダクションの謎
「この世界のどこかにつくられた超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。そこでは神秘の物質「サンドスター」の力で、動物たちが次々とヒトの姿をした「アニマルガール」へと変身――! 訪れた人々と賑やかに楽しむようになりました。しかし、時は流れ……。」
「訪れた人々と賑やかに楽しんでいる」痕跡がどこにもない。「時は流れ」とあるがどのくらい流れたのかは明記されていない。動物からフレンズに変化するのは、トキなどのセリフから確定。
・ジャパリまんとジャパリコイン
元はゲーム内での回復アイテム。アニメではフレンズが食べている。これによってどうやら肉食獣が草食獣を食べなくて良くなっているようだが、サーバルちゃんは習性として「狩りごっこ」をしている。アルパカが草を食べず、草むしりをしているあたりからも、食生活は全般的に変わっている様子。4話ではツチノコがジャパリコインを見つけている。アイテム交換用のコインで、サーバルちゃんがこれを知らないとなると流通そのものがストップしているため、ジャパリパークが一切機能していないことになる。ジャパリまんが買えない。
・死と繁殖の考え方
動かないバスを見て「死んじゃったの?」というセリフがあるので、一応この世界でも死ぬらしい。サーバルちゃんたちが不老不死なわけではないっぽい。セルリアン(ゲームにも出てくる正体不明の青い敵)にフレンズは食べられちゃうことがあるらしい(1話)。フレンズは基本女の子の姿。もしメスしかいないとしたら、繁殖のしようがない。一方でBOSSが「オス」の存在の話はしているので、見た目女の子なだけ(アニマルガールだけど)かもしれないが、そもそも群れが存在せず、個体しかいない。
・フレンズ以外の動物
鳴き声や足跡など、ジャパリパークにはフレンズ以外の動物もいるもよう。これはコミック版でチンアナゴがフレンズ化していないので、可能性は高い。
どこまで深読みになるのかとんとわからない。少なくとも「ただの楽園」設定ではなさそう。「ハカセ」と「図書館」の存在が明らかになったとき、大きく概要が見えてくるかもしれません。見えないかもしれません。
アニメを見ていて不安になる心は、「すごーい!」で埋めるか、考察で埋めよう。かばんちゃん、このあとセルリアン倒す武器とか作り出したらどうしよう。ぼくは怖いよ。
(たまごまご)
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