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Amazon“デリバリープロバイダ”問題、ヤマト撤退で現場は破綻寸前 「遅延が出て当たり前」「8時に出勤して終業は28時」

実際に現場の声を取材しました。

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 6月末ごろからネット上で騒がれるようになった、Amazon.co.jpの「デリバリープロバイダ」問題。当日お急ぎ便などが指定日に届かず、また多くのケースで配送業者が「デリバリープロバイダ(※Amazon.co.jpと提携している地域限定の配送業者の総称)」になっていたことから、ネット上ではこの「デリバリープロバイダ」が配送遅延の原因なのでは――と推測する声が多くあがっていました。

日本では過去最高の注文数を記録したという「プライムデー2017」。しかし裏では……

 アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は10日の会見で、「配送遅延は実際に発生していたが、現在は解消した」と語りましたが(関連記事)、利用者からは依然として「荷物が届かない」といった声があがっている状態です。

 果たして「デリバリープロバイダ問題」とは何なのか、なぜ配送遅延は起こるのか――。実際に現場で働くスタッフに取材したところ、想像以上に過酷な実情が浮かび上がってきました。

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デリバリープロバイダ勤務、Aさんの声 「遅延が出るのは当たり前の環境」

 最初に話を聞いたのは、実際にデリバリープロバイダで配送業務に携わっているというAさん(仮名)。勤務場所は関東にある配送拠点(デリバリーステーション)の1つで、主に配車や仕分けなどを担当しているとのこと。また、人手が足りない時にはドライバーとして自ら配送を行うこともあるそうです。

―― 最近になって注目を集めていますが、「デリバリープロバイダ」というのは以前からあった仕組みなのでしょうか。

Aさん:私が所属する会社は比較的最近参入したのですが、仕組み自体は以前からあったと認識しています。ただ以前は荷量が今ほど多くはなかったので、あまり問題にならなかったのだと思います。

―― そもそもデリバリープロバイダとは何なのでしょう?

Aさん:簡単に言えば、地域限定の配送業者の集合体です。ヤマト運輸や佐川急便といった大手だけではカバーしきれない配送を、地域の配送業者が請け負うシステムだったのですが、大手企業の撤退などがあり、当日配送が手薄になったことで、デリバリープロバイダによる配送が一気に増えました。

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デリバリープロバイダとして公開されている5社

―― Amazonのサイトによると、TMG、SBS即配サポート、札幌通運、ファイズ、丸和運輸機関の5社がデリバリープロバイダとされていますが、実際はこの5社以外にもあるのでしょうか。

Aさん:デリバリープロバイダと呼ばれているのはこの5社ですが、この5社がさらに小さな地域の運送会社をまとめている形です。

―― ネット上では、配送の遅延や再配達依頼ができないといった声が多数見られましたが、こうしたトラブルは実際に起こっているのでしょうか。

Aさん:日常茶飯事です。弊社はTMGという会社にコールセンター機能を外注しているのですが、そこがパンクしてしまい、各デリバリーステーションに連絡が来ないということが毎日のようにあります。また、再配達の連絡もTMGから配信されるのですが、再配達時間の終了10分前に来たりするので対応しきれないというのが実情です。

―― 編集部内でも「終日家にいたのに、日付が変わってから『不在のため持ち帰った』というメールが来た」といった声がありました。

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Aさん:十分あり得ると思います。例えば建物名が書いてなかったり、分かりにくい場所に家があったりすると、ドライバーによってはすぐに住所不定で持ち帰ってしまうことがあります。また配送時間があまりにも遅くなった場合、訪問せずに持ち帰る事例もあります。

実際に配達遅延に遭ったケース。「当日お急ぎ便」で商品を注文し、その日は終日在宅だったにもかかわらず、「不在のため持ち帰りました」との連絡(不在票もなし)

―― 現場から見て、他にどんなトラブルがありましたか。

Aさん:やはりどうしても配送しきれないケースが発生してしまいます。弊社の配送対応時間は22時までですが、それでも配送できない場合は上から「24時を越えても配送しろ」と指示が来たこともあります。また、それでもダメな場合は電話連絡を行い、出ない場合は不在票のみを投函して、不在扱いで持ち帰ったりしています。

―― 指定日に届けられなかった場合、Amazonから配送会社側に何かペナルティーや勧告などはあったりするのでしょうか。

Aさん:Amazon側からは特にペナルティーなどはありません。

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―― ネット上では、ヤマトが当日配送から撤退(関連:日経新聞の報道)したのも原因ではないかとも言われていますが、実際に影響はありますか。

Aさん:確かに目に見えて荷物が増えましたね。ヤマト以上の配達範囲をヤマト以下の配達人数(1~2人)で行っていますので、遅延が出るのは当たり前の環境です。

―― その後何か対策などは行われましたか。

Aさん:特に動きはありません。弊社は「限界まで配送しろ」という指示に変わっただけです。

―― アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「現在は解消した」とコメントしていましたが、解消したという実感はありますか。

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Aさん:残念ながら解消された印象は受けません。具体的な策を講じたわけでもないので、従来と変わっていないのではと思います。

―― ちょうど「デリバリープロパイダの中の者だが人手不足で配送の現場はもうヤバイ」という匿名のエントリが話題になっていましたが、これを見てどう感じましたか。

Aさん:まさにここに書いてある通りだと思いました。社風など異なる部分もありますが、労働環境が劣悪という点ではまったく同じです。デリバリーステーションに所属している社員は、8時に出社して終業は28時というのが基本的な労働時間です。そのようなセンターが高品質なサービスを提供できるわけがありません。物の流れの上流であるセンターがそんな環境では遅延やトラブルが起きるのは当然ですし、防ぎようもないと思っています。

―― 最後に、現状について率直な思いをお聞かせいただけますか。

Aさん:大手企業でさえ撤退するような事業を、地域の中規模運送会社が行うのはやはり無理があります。今の運営は遅配ありきの運用であって、決して利用者のためにはなっていません。上層部は「なぜ運べないのか」と言いますが、配送に携わっている人間は毎日毎日、汗だくになって配送しています。それでも何ら良い方向に転がっていかない現状をとても歯がゆく思います。

配送センター勤務、Bさんの声 「Amazon側に原因がある場合も」

 次に、Amazonの「フルフィルメントセンター」(FC:倉庫兼配送センターのようなもの)で働くBさん(仮名)にお話をうかがいました。Bさんの業務は、デリバリープロバイダへと荷物が送られるよりもさらに“前段階”にあたる部分ですが、Bさんによれは、今回の問題はデリバリープロバイダだけに原因があるわけではなく、もっと根深いものだと言います。

Amazonの物流拠点となっている「フルフィルメントセンター」。注文された商品はここで梱包され、各地へと出荷されていく仕組み。現在、日本には9箇所のFCが存在(Amazonの求人ページより)

―― デリバリープロバイダの仕組み自体は以前からあったのでしょうか。

Bさん:似たような仕組みが「ローカルキャリア」という名称で存在していました。大手運輸会社の負担を減らすために、FC近辺あての当日便や、通常便の一部を地域の中小運輸会社に振り分けるというものです。ただ、振り分け率はヤマトや日本郵便などと比べて圧倒的に少なく、事実上失敗と言えました。デリバリープロパイダの導入でローカルキャリアは廃止されましたが、TMGだけがデリバリープロパイダに組み込まれる形で存続しています。

―― なぜ最近になって問題が表面化しているのでしょうか。

Bさん:直接の要因はやはり、ヤマトの当日便撤退でしょう。そもそもAmazonの物量があまりにも多すぎるのです。私が勤務しているFCだけでも1日数万件~数十万件という注文を処理しています。今まではヤマトや日本郵便が膨大な物量のほとんどを黙って処理していたため、問題が表面化することもありませんでした。

―― 配送遅延や再配達依頼ができないといったトラブルが話題になっていましたが、実際にそういったことはあるのでしょうか。

Bさん:配達遅延はよくあります。再配達依頼ができないというのは、運輸側の人間ではないため詳細は分かりません。

―― こうしたトラブルはなぜ起こっているのでしょうか。

Bさん:デリバリープロバイダが特に問題視されていますが、Amazon側に原因がある場合もあります。その一例が、先のプライムデーや年末の繁忙期などに多く見られる“出荷遅延”です。膨大な物量ゆえにFC側の処理(ピッキング~梱包、出荷)が間に合わなかったり、機材・システムトラブルなどが原因で、出荷期限(翌日の午前中に届けるには前日18時までに出荷しなければならない、など)を守れなかったりといったケースが多々あります。そうなると、荷物を運輸会社へと引き渡す時間が遅れ、当然ながら配達も間に合わないという負の連鎖が起きてしまいます。実際、自分自身も消費者側として、この手の配達遅延に当たってしまったことがあります。その時はセールの真っ最中で、私が働いているFCでも大規模な出荷遅延が発生していました。

7月10日から開催されたビッグセールイベント「プライムデー」

―― 現場で働いていて、他に問題に感じた点などはありましたか。

Bさん:自分が特に感じたのは、“Amazonの協力会社への無責任さ”です。配達遅延に関しても、明らかにAmazon側に非があるケース(出荷期限ギリギリになって大量の荷物を出荷し、仕分け業者が時間内に仕分けきれないなど)であっても、「自分たちはちゃんと時間内に完了したから」の一点張りで、協力会社に罪をなすりつけようとします。こういう体質になってしまったのは、絶対に破ることのできない“出荷期限”が多数存在することが原因であると自分は考えています。

―― その後何か対策や体制改善などは行われましたか。

Bさん:ヤマトの当日便撤退が報道された時、自分は当日便からの撤退、あるいは縮小を期待していたのですが、Amazonの答えは「ヤマトがダメなら他を使おう!」でした。これが今回の「デリバリープロパイダ」開始につながります。そもそも当日便なんて本当にその日にならないと物量が分かりませんから、FC側も運輸会社側も仕事量を予測できません。根本的な解決はなされていないと言っていいでしょう。

―― 「デリバリープロパイダの中の者だが人手不足で配送の現場はもうヤバイ」というエントリを読んで、どう感じましたか。

Bさん:あ然としたのと同時に、自分のいる会社のしていることに腹が立ちました。Amazon自体はめちゃくちゃもうけているのに、そのAmazonを支えている会社はこんなに苦しい思いをしているのかと。ネット通販=配送料無料、注文すればすぐ届くのが当たり前……こういうイメージを創り上げてしまったことが、今回のような事態を招いてしまったのだと思います。しかし、Amazonとしてはそのイメージこそがブランド力ともいえるので、なかなか手放せないところなのでしょう。

―― 労働環境について不満はありますか。

Bさん:自分はあくまでもAmazon直雇用のスタッフなので、FC勤務のAmazon社員の労働環境についてお話させていただきます。まず、Amazonそのもので言えば、労働基準法に違反するようなことは本当に一切ありません。どうしても残業が必要な場合であればちゃんと残業代は出ますし、激務に見合った諸手当や福利厚生(社員割引、ドリンク無料など)は充実しています。ただ、現場の実情で言うと、やはりその限りではありません。特に顕著なのは“悪化”です。

―― 例えばどのように変わりましたか。

Bさん:これもやはり、物量の増加が関係しています。1時間だった昼休憩時間が45分になったり、物量によっては15分も取れない場合があったり。入社時に月1回(4連勤で1セット)という契約だった夜勤も、物量の増加によって追い付かなくなり、月2回に増えたりしています。もちろん、運輸会社さんに比べたらはるかにマシであることは十分承知しています。FCの人間から運輸会社まで、本当に誰1人として得をしていないというのが実情ですね。

「配送料無料、注文すればすぐ届くのが当たり前」をいつまで維持できるか

 質問の中でも触れましたが、この取材の少し前に、はてな匿名ダイアリーに「デリバリープロパイダの中の者だが人手不足で配送の現場はもうヤバイ」という匿名エントリが投稿され、大きな話題になっていました。

 はてな匿名ダイアリーの内容は以下のようなもの。立場は多少違いますが、大筋ではAさん、Bさんから聞いた内容と合致しています。

  • これまで無茶な即日配送をこなせてきたのはヤマトだからこそ。一般的な配送業者が同じサービスを提供するのは不可能
  • ミスやトラブルは日常茶飯事だが、クレーム電話すら受けられないほど人手不足
  • Amazonは外注任せにせず、自社の配送業者を作り、まともな労働環境とヤマトレベルのサービスを提供してほしい etc.

 先日のプライムデーでも、Twitterではデリバリープロバイダ問題について不安視する声が多く見られました。「ネット通販=配送料無料、注文すればすぐ届くのが当たり前」というイメージを今後も維持できるかどうか、Amazonの地力が試されています。

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