「鹿にチラシを食べさせないで」 行政と愛護団体に聞いた観光地の鹿との付き合い方
鹿が人に依存しない環境づくりを。
観光地の鹿にチラシを食べさせている人がいる――観光客が取った無責任な行動について、SNS上でさまざまな議論が行われています。人間と野生の鹿が観光地で共存するためにはどのような心掛けが必要なのか、行政と鹿の保護を呼びかける愛護団体を取材しました。
きっかけとなったのは8月下旬に投稿されたあるツイートで、観光客らしき親子が野生の鹿にチラシを与えていたというもの。投稿者はその場で注意したものの「紙は草だから問題ない」という認識の親子が行動を改めることはなかったとされてます。
しかしこうした問題は今回だけに限ったものではなく、ネット上ではしばしば観光客の身勝手な行動が問題視されてきました。主に話題に上がるのは、奈良公園(奈良県)と宮島(広島県)で、現地には鹿に食べ物を与えないようにという注意喚起の看板(※)があるものの、それを無視する人の数は少なくありません。
(※)奈良県では、販売されている鹿せんべいに限って食べさせることができます。
「奈良の鹿愛護会」に聞く、鹿との付き合い方
まずお話を伺ったのは、奈良県で鹿の保護を呼びかける「奈良の鹿愛護会」です。
――ネット上で鹿にチラシを食べさせる行為について批判の声が上がっています
担当者:鹿は食べられるものを食べるのではなく、興味のあるものをかじってしまう習性があります。チラシには印刷の薬液が含まれていることや、紙自体が鹿にとって害になる素材ということもありますから、故意に与える行為については絶対に止めていただきたいです。
――鹿の方からチラシなどを食べに来てしまうケースもあるようですが
担当者:カバンなどからはみ出たチラシや、観光客の方が持っている紙袋などを、鹿が自ら引っ張りに来て食べてしまうというケースももちろんあります。鹿のいるところでは手荷物はカバンの中にしっかりとしまっておいていただきたいと思います。
――チラシ以外にも観光客が食べ物ではないものを与えているということはあるのでしょうか
担当者:故意かどうかは分かりませんが、鹿がビニール袋などを食べてしまい、それが胃の中で石灰化してしまったということなどはあります。また食べ物であったとしても、鹿にとってはそれが害になるということがあります。
――食べ物であってもとはどういうことでしょうか
担当者:良かれと思って、キャベツや人参などを持ってくる方がいらっしゃいます。そうした方がいると個人単位で見れば少量であったとしても、積み重なれば鹿が消化しきれないような量の餌を与えていることになってしまいます。すると結果的に鹿が体調を崩してしまうんです。また野菜の味を覚えることによって、「また食べたい」と思った鹿が畑に現れるといったことも考えられます。
――奈良公園では「鹿せんべい」を販売していますから、それをあげれば触れ合えますしね。そういえば鹿せんべいの巻き紙を食べさせている人も見たことがありますが、あれは大丈夫なのでしょうか
担当者:あの紙は鹿が食べても大丈夫なようにパルプ100パーセントでできていて、印刷も大豆インクを使用していますから問題ありません。
――最後に、鹿と接するうえで気をつけたいポイントはありますか
担当者:最近は写真撮影のために鹿にまたがろうとしたり、過度に触ろうとしたりする方もいらっしゃいます。鹿はあくまでも野生の大型獣ですから、びっくりして走り出したりすると危険です。節度を持って接していただければと思います。
廿日市市農林水産課に聞いた、鹿の「飢餓問題」
つづいてお話を伺ったのは、宮島の鹿を管理する廿日市(はつかいち)市の担当者です。宮島については数年前からネット上で「宮島の鹿は痩せている」「宮島の鹿が餓死」「廿日市市は鹿の頭数を減らそうとしている」などのウワサが流れるなど、何かと鹿と行政との関係性が話題となっています。
――鹿にチラシを餌として与えている方がいると話題になっています
担当者:鹿が人間からチラシや紙袋なんかを取ってしまって食べたという話は聞いたことがあるのですが、故意に餌としてというのは聞いたことがありません。ただ「チラシが食べられない」という認識がなく、悪気のない形で与えてしまった方がいらっしゃるのかもしれません。
――どういうことでしょうか
担当者:年配の方などに多いのですが、「草食獣は紙を食べる」と思っていらっしゃるんです。しかしそれは紙の原料の主流がパルプだったときの話で、現在普及しているチラシの多くは鹿にとって有害なので与えないでいただきたいです。
――ネットでは「市がきちんと鹿に餌をあたえていない」「鹿が飢餓状態でかわいそう」「(餌をきちんと与えないのは)虐待なのでは」、といった声もあるようです。中にはそれが原因で鹿がごみ(チラシ・ビニール袋など)を食べてしまうのではという指摘もありました
担当者:宮島の鹿は人馴れはしているものの野生生物です。基本的には人間が介さない形で暮らしてほしいと考えていますので、現在は鹿への餌やりは行っていません。フェリー乗り場などにも「鹿に餌を与えないでください」という看板を掲示しています。
――人間が介さない形、というのは具体的にどういう状況なんでしょうか
担当者:過去の取り組みなどを踏まえたうえで、鹿が山のものを食べて、山で暮らすということを推進しています。鹿が暮らす原生林で何を食べているのかなどは調査中ですが、市街地にいた鹿が徐々に山へ戻ってくれるようになってきています。
――鹿が常にお腹を空かせているのではという声についてはいかがでしょうか
担当者:鹿が食べ物を探し続けたり、口をもぐもぐさせたりする姿を見て、「お腹を空かせてるんじゃないか」と心配される方もいらっしゃるのですが、鹿は牛などと同じように食べ物を胃におさめてから反すう(※)することで、食べ物を消化します。ですので、常に口を動かしているものなのです。
(※)反すう……咀しゃくして胃におさめた食べ物を、また口に戻して咀しゃくする、ということを何度も繰り返す消化すること。
――ということは飢えているわけではないということなのでしょうか
担当者:そうです。調査により一定個体数が減じないまま維持されていることが分かっていますので、餌が足りないことによる飢えが原因で個体数が減少しているといったことはありません。鹿が人間に依存しない環境を作っていくためには人間が鹿に餌を与えないことが重要なので、ご理解いただければと思います。
愛らしい表情で人間になついている鹿を見かけると、「何かあげよう」と思ってしまう気持ちも理解できますが、それによって鹿の生活を脅かしてしまっては本末転倒です。鹿に限らず、野生生物への干渉については十分な注意が必要です。
(Kikka)
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