『とっても優しいあまえちゃん!』巨乳女子小学生あまえちゃんのバブみは、温かい天国か、無限回廊か:あのキャラに花束を
妄想が過ぎるぞ(褒め言葉)。
つい甘えてしまいたくなるような、幼い少女が持つ包容力を「バブみ」といいます。シャアに対するララァみたいなものです。
バブみを理解することができる教科書的作品であり、おそらく今後オタク文化を語る上での問題作になるであろう『とっても優しいあまえちゃん!』より、バブみの権化あまえちゃんをご紹介。
人をダメにするあまえちゃん
「おにーさん」は、挫折が続く漫画家志望の青年。しょんぼり人生の中、毎日マンションの隣の部屋に住む女子小学生がやってきて、いっぱい褒めてくれるというスーパー恵まれ生活を堪能中。
とにかくどんなことでも褒めてくれる。マンガが描けなくても、ラフを描いたら褒めてくれる。ご飯を食べるだけで褒めてくれる、飲み物を買えただけで褒めてくれる。うまく甘えたら褒めてくれたりする。多分、生きてるだけで褒めてくれる。
普段おにーさんの描いてる絵は、そもそも持ち込みや仕事用ではない。ネットにあげる用の絵です。
ようは、趣味ですら辛い。知らない人とのコミュニケーション何もかもが怖い。頑張っていない人間、という領域にすら入らないと思う、本当に何もしていないもの。
彼を全肯定してくれるのがあまえちゃん。心が痛んだ時(例・ネットで絵が評価されない)は必ず癒やしてくれます。そうじゃなくても抱きしめてくれます。
「人をダメにする○○」というネットスラングがあります。「人をダメにするソファ」は、心地よすぎて動きたくなくなる、という意味で使われます。そういう意味では、あまえちゃんは人をダメにする女子小学生。ほぼ無条件で受け止めてくれる彼女、成人男子を赤子に退行させてしまう。
あまえちゃんの胸は大きい
あまえちゃん自体は小学生なのですが、とにかく胸が大きいです。ゆっさゆっさと揺れます。彼女のたわわは、着ているTシャツをぱっつんぱっつんにします。
幼さを出すには真逆のベクトルの巨乳表現。作者いわく、自分が好きだかららしいです(参考・「小学生に甘えるという最高の甘えを味わって欲しい」『とっても優しいあまえちゃん!』作者・ちると氏が語るバブみへのこだわり)。
あまえちゃんは巨乳じゃなければ成立しないキャラです。例えば『風の谷のナウシカ』のナウシカは、おっぱいがとても大きいです。これは谷に住む人たちを抱きしめて受け止める、母のような存在だから、と宮崎駿は語っていました(ロマンアルバムより)。
あまえちゃんの胸も、母性の現れそのもの。おにーさんを抱きとめるのは、常に胸の中。もっとも慈愛の子というわけではないので、おっぱいに甘えさせるのはおにーさんだけです。
背が低いので、おにーさんがしゃがんで、あまえちゃんの胸に顔を埋めるのがこの漫画のベーシック構図。
事案ですね。気持ち悪いって言われたら、うん、そうだね。けれどもこのコマだけ見ていると、菩薩というか、マリアというか、聖なる感覚に襲われます。この包容力あふれる顔、幼いころに感じた親のぬくもりが頭の中にちょっとだけ蘇ること、否定できないと思うんですが、どう?
あまえちゃんとおにーさんには性欲がない
ものすごく「女性」を意識したデザインのあまえちゃん。ところがこのマンガ、性的な要素は極端に少ないです。胸に顔を毎回埋めて入るものの、そこからえっちな展開になることが一切ない。作者のポリシーのようです。
「甘える」という行為への賛歌を描くことが大事で、ロリコン性癖は重要視されていない。おにーさんは「結婚したい」という思いはあるものの、あまえちゃんに性的視線を向けませんし、許可されない限り自分から触れることもしません。
あまえちゃんも同様です。おにーさんを子どものようにあやすけれども、一人の男性として意識は全くしていない。
二人の関係は、限りなく母と息子に近づいていきます。
「バブみ」「あまえ」への憧れは、閉じた世界での心の昇華から起きるものだと思います。堕落したいのではない。二人だけの秘密として心の内を吐き出せる関係がほしい。信頼関係で結ばれたおにーさんとあまえちゃんのつながりは、ギャグを通り越して美しさすらあります。
というわけであまえちゃんは、次の日頑張るために全てを浄化する、癒やしの究極形態キャラ……だと思ってたんだけどねえ。なんか違うっぽい。
あまえちゃんと共依存
実に都合よくできた、至高の妄想キャラクターに見える彼女。ところが読み返すと、ところどころ違和感があります。
あまえちゃんは、おにーさんが頑張っていると「ちょっと頑張りすぎじゃないかな……」と休ませようとします。おかしい。その分褒めてあげるならまだわかるけど。その時の彼女の感想は「おにーさん……かわいいなぁ……」
どうもあまえちゃん側も「自分を必要とするおにーさん」にかなり依存している様子。だらしなくて甘えん坊なおにーさんには、私がいないといけないんだ。甘えさせてあげることが、自分の喜びなんだ、と。
時折彼女は、おにーさんの逃げ場をなくす発言をすることもあります。
「甘えてるときのおにーさん……すっごくかっこ悪かったね」「あんなこと言う人のもらい手……もう私くらいしかいないよね」
あまえちゃんは、「イエスセット」と呼ばれる会話効果を無意識に使っています。相手に繰り返し「イエス」と言わせるうちに、自分への好意が強くなっていく、というテクニック。
これだけだと相手(おにーさん)が自己肯定へも心が動いていくのですが、あまえちゃんは巧み。おにーさんの自尊心を徹底的にこそぎ取ることで、自分にひたすら甘えることしか考えられないようにしています。おにーさんの周りの視界を閉ざし、自分しか見えないようにする誘導。正直、催眠だと思う。
「大人だとか小学生だとか、関係ないよ。大人だって、小学生に甘えたいときあるもんね」
なんてステキな言葉なんだろ……ん? この作品は端々に、いいのか悪いのかわからなくなるパワーワードが散りばめられています。あまえちゃんのこういう、飲み込んでいいのかわからない発言の数々が、いつの間にかおにーさんの自尊心を奪っていきます。「甘えてくれる」じゃなくて「甘えさせるように振り回している」という、サディスティックな面がちらっと見えます。
おにーさんは「こんな僕でも受け入れてくれる……あまえちゃん好き~~!!」と、許容してくれたことに大喜び。赤ちゃん人間な彼のちっぽけなプライドは雲散霧消。
他の作品だと、『NHKへようこそ!』の岬ちゃんが、自分より下だと感じている年上の青年に、同じような教育プログラム手法を使っています。気になる方は小説・アニメ・コミック全てオススメ。
まともなまともちゃん
あまえちゃんが聖母なのか悪魔なのかわからないところに、するっと登場するあまえちゃんの友達、安貝まともちゃんの存在が、この作品を絶妙なバランスで救っています。
砂糖菓子の牢獄にこもったまま死にかねない二人を、ズバッと第三者視点で斬る、唯一のキャラクターです。
「大人なのに女子小学生に甘えてるんだって? それってすっごくキモいよね」
このあたり前の発言を言ってくれる人間がいてくれて本当によかった。あまえちゃんにもきちんと友達がいたんだ、よかった。
おにーさんもあまえちゃんも、お互いがいないと生きていけない状態なのが現在。それは共依存だ。基本的に舞台はおにーさんの部屋だけで、二人きりの時間しか描かれていない。だから一見優しく、一見不気味な関係が成立してしまいます。
けれどもまともちゃんの登場で「それはおかしい」とリセットしてくれる。読者側を「妄想が過ぎるぞ?」という気持ちに引き戻してくれます。
ギャグ漫画だし、閉じた二人のまま結婚して幸せになってもいいんじゃないの?と感じるのだけど、おにーさんがところどころ人間の負の側面(絵を描かない、など)を反映するキャラクターなので、どうにも引っかかってしまう。少しでも共感すると、「バブみ」の暗黒面が見えてくる。
あまえちゃんとなら、堕ちてもいい、くらいの覚悟が必要そうです。
(たまごまご)
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