コラム

経済制裁するとレストランが増える? 北朝鮮の「外貨獲得」のカラクリ

なぜ外貨獲得に力を入れるのか。

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 ミサイル開発で物議を醸す北朝鮮。同国が「外貨獲得」のために、中国や東南アジアでレストランを経営しているのはご存知でしょうか。

 近頃は国際的な緊張の高まりのためか、中国で店舗撤収が命じられ、その他の国でも採算が悪化しているもよう。利益を本国に送金できなくなり、北朝鮮にとって痛手だろうといわれています。

 ところで、なぜ同国は外貨獲得をしなければならないのでしょうか。われわれが海外旅行に行くときのように、両替するだけではいけないの……?

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国際決済

 どの国も、他のさまざまな国と取引しています。例えば、日本が貿易するときに、相手の国によって必要な通貨が異なったらどうでしょうか。アメリカとの貿易ではドル、フィリピンとはペソ、ロシアとはルーブル、タイとはバーツ……。

 こんな風に貿易相手国すべての通貨を用意するのは、とても面倒です。相手国が日本円を用意してくれれば、われわれは楽になりますが、それは別の国に手間を押し付けているだけ。「相手に合わせて通貨を持たなければいけない」という問題は変わりません。


全部の通貨を用意していないといけないのは面倒

 これを回避するため、国際貿易の場ではなるべく同じ通貨(基軸通貨、国際決済通貨と呼ばれる)を使うのが慣行となっています。世界的に取引額が大きく、信用力が高い通貨が選ばれ、現在は米ドルがこの役割を担っています

 米ドルは圧倒的なシェアを誇り、アメリカ以外の第三国同士の取引でも使われていますが、ユーロや英ポンド、日本円なども決済通貨になっています。特に、日本とアジアの国々の貿易では日本円もよく使われていて、日中貿易では日本円か人民元を使う流れにあります。


産経ニュースの記事を参考にグラフを作成。主にヨーロッパではユーロが、旧イギリス植民地圏などではポンドが多くなっています

北朝鮮はなぜ「外貨獲得」に躍起なのか

 「北朝鮮ウォン」を使っている北朝鮮が、モノを輸入するとします。国際決済通貨には信用力が求められるため、北朝鮮ウォンを使うことはほぼできません。だから、何とかして外国の通貨、すなわち外貨を獲得して支払う必要があるのです

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為替取引じゃダメ?

 「持っている北朝鮮ウォンを外貨に両替すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、そのためには、自分の持っている通貨と北朝鮮ウォンを欲しがる人がいなければなりません。

 皆さんは日本円を北朝鮮ウォンに両替したいですか? なかなか「はい」と答える人はいないでしょう。しかも、弱くて価値の低い通貨は「通貨安」になることが多く、少しの外貨を得るためには高額な北朝鮮ウォンが必要になります。

輸出すればいい?

 逆に、北朝鮮からモノを輸出することを考えましょう。支払いに使われるのはやはり外貨ですから、このやり方でも目的が果たせます。実際、一般的な国は輸出で得た外貨を使って、輸入を行っています。

 ところが、北朝鮮は何を輸出すればいいのでしょうか。技術力が不十分なので、北朝鮮の製品を買いたい国は少ないでしょう。また、そもそも多くの国は経済制裁の一環として、北朝鮮の物品の輸入を規制しています。

じゃあどうやって外貨獲得しているの?

 両替は難しい、輸出も大変。じゃあ、どうすればいいのか――そこで浮かび上がってくるのがレストランの経営なのです。

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 他の国に店舗を開けば、支払いは該当の国の通貨で行われ、その利益を本国に送ることで外貨を獲得することができます。また、各地の工場に労働者を送り込み、収入を送金させているともいわれています。

 しかし、これらから手に入る外貨だけでは立ち行かないらしく、北朝鮮は「飢餓輸出」も行っているといわれています。つまり、本来なら国内で消費されるべき食糧などまで輸出に回し、その分国民が飢餓に陥ってしまうほどの事態だということです。

 先ほど「北朝鮮の製品を買いたい国は少ない」と書きましたが、それは工業製品などの話。技術の必要ない食料などの一次産品なら買ってくれる国があり、主に日本海の豊かな環境で獲れる魚介類を輸出しているとされています。

外貨が足りないとどうなる?

 北朝鮮レストランは必ずしもうまくいっていませんし、飢餓輸出にも限度があります。万策尽きて外貨が足りなくなると、何が起きるのでしょうか。

 そもそも外貨がある分しか輸入できませんから、国外から仕入れていた分の物資や食料が不足するようになります。また、財政が悪化すると、国債の発行が増えたり自国の通貨が安くなったりして、物価が上がる「インフレーション」が起こる可能性が高まります。最近ではベネズエラやジンバブエなどが、外貨不足によるインフレに見舞われ、生活必需品の不足などが起こっています。

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 先行き不透明な北朝鮮をめぐる情勢。当面は各国が足並みを揃えて経済制裁を行い、お金の面で軍事を抑え込んでいくことが大切になるでしょう。しかし、他方で罪のない北朝鮮国民が貧困に苦しむ可能性もあります。

 自分が生きているあいだに、独裁から脱却した平和な北朝鮮を見てみたいものです。

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