コラム

犯罪者の顔写真を使った指名手配ポスターが、肖像権的に問題にならない理由

本人に掲載許可をとっているとは思えませんが……。

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 街中を歩いていると視界に飛び込んでくる、指名手配犯のポスター。普段は何の気なしに見ていますが、いくら犯罪者とはいえ、顔写真を使用することで肖像権的な問題は発生しないのでしょうか。

そもそも肖像権とは?

 肖像権は法律に明文化された権利ではありません。

自己の容貌,姿態をみだりに写真,絵画,彫刻などにされたり,利用されたりすることのない権利。人格権ないしプライバシーの権利の一種とされる。

(引用元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

 人格権は憲法13条から導かれる基本的人権の1つで、自分の人格の本質的な部分が守られるという権利です。例えば生命とか自由とかですね。

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 さらに、ここには私生活をみだりに公開されないというプライバシー権も含まれており、肖像権はこのプライバシー権の一部として位置付けられます。

犯罪者にも、肖像権はあるはずだけど……?

 当然ではありますが、警察が「犯人さん、あなたの顔写真を指名手配犯として公開していいですか?」と許可をとったうえでポスター制作をしているとは考えられません。そんなことができる状況だったら、きっとポスターを貼り出して情報収集しなくても逮捕できるでしょうから。

 つまり、警察は指名手配犯に無許可で、その人物の写真を公開しているはず。しかし、「それが許されているということは、犯罪者には肖像権がないのか?」というと、そんなことはありません。

 日本国憲法では全ての国民に基本的人権が保障されています。先ほど書いた通り、肖像権は人格権の一部ですから、基本的人権に含まれます。

 では、なぜ指名手配犯の肖像権を侵害することが許されるのでしょうか?

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公共の福祉

 そもそも、基本的人権の保障の根拠となる憲法13条では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされています。

 簡単に言えば、「全ての国民は基本的人権を保障されますよ(ただし、公共の福祉に反していいとは言っていない)」「公共の福祉のためなら、多少人権が制限されてもOK」ということです。

 ここでいう公共の福祉とは、

社会の構成員の権利,自由や利益の相互的衝突を調節し,その共存を可能とする公平の原理。

(引用元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

 を意味します。

 極端な例になりますが、「殺人を禁止することは自由権の侵害である」としましょう。

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 個人の自由な行為の1つが禁止されているわけですから間違いではないかもしれませんが、現在の日本では殺人は禁止されています。なぜかというと、殺人を許容することは公共の福祉に反するから。「多くの命を守るためには、殺人という個人の自由な行為を禁止しても仕方ないよね」と考えているわけです。

 これを今回の話に当てはまると「公共の福祉という観点から、指名手配犯を逮捕するためにはその肖像権が侵害されても仕方ない」ということになります。

逮捕のために“犯罪者トランプ”が作られることも

 海外の事例を取り上げると、米軍はイラク侵攻の際、「イラクのお尋ね者トランプカード」なるものを配布。これはフセイン政権のお尋ね者などを、米兵に覚えさせる目的で作られたものでした。中国でも、指名手配犯の顔写真を使ったトランプを作成して、公安局が住民に無料で配布したという話があります。

2003年、アメリカ国防情報局は「イラクのお尋ね者トランプカード」を制作

 これらの第一目的は、物騒なデザインのトランプで遊んで楽しんでもらうことではありません。ポスター同様、あくまでも犯罪者の逮捕を狙いとし、公共の福祉に基づいて作られているのです。

 ちなみに、日本ではこのようなトランプは作られていませんが、パチンコ店のチラシに指名手配の欄があったり、指名手配犯の写真入りティッシュを配布したりすることがあります。ポスター以外のアイテムも使って、より多くの人にアプローチをかければ、犯人についての情報が得られる可能性が高まりますからね。

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参考文献

芦部信喜(2015)「憲法 第六版」

制作協力

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