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「冨樫との付き合い方がわかった」「好きなキャラは山王の松本」 般若×R-指定×背川昇のフリースタイル漫画談義(1/3 ページ)

百合ラップ漫画『キャッチャー・イン・ザ・ライム』を世に送り出した3人が漫画とMCバトルについて語った。

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 「般若とR-指定監修の百合ラップ漫画」……え、何それ? こんな漫画が出てくるなんて、今まで誰も想像していなかったに違いない。背川昇『キャッチャー・イン・ザ・ライム』は、人前でうまく話すことのできない主人公・皐月がひょんなことからラップバトル部に入り、仲間と共に成長していく青春物語だ。

 ただの美少女ものだと思うならそれは大きな間違いである。あるいはひびだらけの団地の一室、自室のドアをたたいて怒鳴る父親から逃げたくて助けを求めるスマホの光の先に。あるいは、顔を上げられないまま見つめ続ける教科書の『山月記』のページに。あるいは、初めて足を踏み入れた屋上で、あの子の笑顔に目を奪われる瞬間に。言えない気持ちを抱える少女のエモーションから、言葉が押韻を伴って立ち顕れてくるのだ。ポップと生々しさ、ゆるさと緊張、明るさと暗さを奇妙なバランスで行き来しながら描かれるスクールライフに、誰もがはっとさせられる。

父親から逃げてスマホで会話するレン

 「HIPHOPの近寄りがたいイメージを払拭するために、女の子がラップする話にしました」――驚異のジャンル融合についてあっさりとこう話す背川昇は、ライムスター「ONCE AGAIN」の「誰のせいにも出きねえししたくねぇ、『夢』別名『呪い』で胸が痛くて」というリリックに励まされながら連載を勝ち取った22歳の新鋭だ。さらに今作のラップを監修するのは、なんと般若とR-指定。ともにテレビ番組「フリースタイルダンジョン」のレギュラー出演、UMB(ULTIMATE MC BATTLE、MCバトルの全国大会)の優勝経験など、バトルMCとして並外れた経歴を持つラッパーである。今回は『キャッチャー・イン・ザ・ライム』の単行本発売を記念し、ラップと漫画という言葉で編まれる2つの世界について話を聞いた。

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(聞き手・文:正しい倫理子、聞き手・編集:高橋史彦

R-指定さん(左)、背川昇さん(中央)、般若さん(右)

……はい、真面目な概要は以上になりますが、要は漫画とMCバトル談義です!

漫画はずっと読んできた

――まず、背川先生の作品に対する第一印象はいかがでしたか。

般若:絵の割には闇が深い。

――確かに。重い過去、生きづらさを持ったキャラクターが多いですよね。

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背川:欠点やコンプレックスを含めて、他人と違う自分を誇るというのが生き方としてのHIPHOPの素晴らしさだと思ったので、キャラクターが自己肯定できるようになっていく過程を描けたらなと思い、主要人物に暗いバックボーンを持たせています。

――R-指定さんと般若さんは、具体的にどのような形で作品に関わっているんでしょうか。

背川:自分の描いたネームを元に打ち合わせをして、バトルの展開やキャラクターのラップのスタイルなどについてアイデアをいただいたり、参考になりそうなラッパーやMCバトルを紹介していただいたりしています。お二人とも漫画にも精通しているので、物語の展開に関してのアドバイスをいただくこともありますね。

――般若さんは大の漫画好きだという話を伺っています。

般若:昔から大好きですね。今も月曜日は漫画を読むのに忙しいです。

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――みなさんの漫画読者としての歴史を伺いたいのですが、大体いつ頃から漫画読み始めましたか?

般若:俺は小1ぐらいから読み始めて、それ以降もジャンプ、ヤンマガ、マガジン、ヤンジャン、サンデー……その辺は継続して読んでます。

背川:小学校ですね。兄の影響で『サイボーグクロちゃん』や『鋼の錬金術師』を読んでいたんですが、中学入ってから『なるたる』とか『ぼくらの』とか、鬼頭莫宏先生の作品にはまりました。今でも読み返します。

R-指定:僕は小学校の頃にバスケを始めて、その影響で『SLAM DUNK』を読んだのが最初にちゃんと漫画にふれた経験ですね。最近はライブ後にコンビニで総集編や新刊を買って読んだりします。

――R-指定さんは『SLAM DUNK』ではどのキャラが好みですか?

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R-指定:そうですね、中学校ぐらいだと自分もバスケ部で試合に出られなかったので、試合出てない奴が生理的に好きですね。木暮先輩の活躍には胸が高鳴りました。ヤスも好きです。あと、山王の松本

般若:ははははははは!(大爆笑

R-指定:他のチーム行ったら絶対エースやったのに……。

【他のチーム行ったら絶対エースやったのに】山王工業にはエース・沢北がおり、松本は沢北がいなければどこのチームでもエースを張れると評価されている。松本は強いのだ。ただ、山王には沢北がいるのである。

――作中の「助演男優賞」的なキャラが好きなんですね。

R-指定:そうですそうです。ディフェンスの一之倉も好きです。

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――我慢の男・一之倉ですね。

【我慢の男・一之倉】一之倉は試験中に猛烈な腹痛(急性盲腸炎)に襲われた際に気絶するまで我慢した。山王工業の厳しい合宿からも逃げたことがない。

――般若さんは新幹線で見たジョジョ5部の夢が曲になったという話もありますが、作品に漫画が影響を与えたことはありますか?

【ジョジョ5部の夢が曲になった】5枚目のアルバム「HANNYA」収録曲「のぞみ」のこと。

般若:漫画の影響は……大体みんな受けてるんじゃないですかね?

R-指定:僕はそれこそ『SLAM DUNK』の話を曲に入れてたりするので、影響は確実に受けてますね。

般若:自分で一番わかりやすい所入れたつもりでしょう?

R-指定:そうです、助演男優賞という曲で「田岡が見逃した不安要素」という「これはSLAM DUNKの話です!」っていうラインをがっつり入れてます。

【田岡が見逃した不安要素】陵南高校バスケ部監督・田岡は桜木と木暮を“湘北の不安要素”と決めつけるが、結局この二人の活躍によって陵南は湘北に敗れることになる。

「ハンチョウ最高」「冨樫との付き合い方がわかった」

――最近注目している漫画はありますか?

般若:『1日外出録ハンチョウ』。あれ絶対実写化すべきだと思う。

【1日外出録ハンチョウ】協力:福本伸行、原作:萩原天晴、漫画:上原求/新井和也による『賭博破戒録カイジ』のスピンオフ作品。借金を抱えた人間が働く地下労働施設に収容されている大槻班長が、「1日外出券」を使ってシャバの暮らし(ご飯)を楽しむ。

R-指定:ハンチョウ最高ですね!

般若:「孤独のグルメ」と一緒だからね。見開きで班長の視点を出してたやつ、あれが俺の中では一番面白かった。

大槻EYEが捉えた世界(コミックス2巻「刮目」)

【見開きで班長の視点を出してたやつ】大槻班長が長年のカンで飲食店街の佇まいを判定し、うまい店を察知しようとするシーン。「店の前の盛り塩」「食品サンプルの日焼け具合」「看板のフォント」などを材料に飛び込み入店先を探す“大槻EYE”を通じた視界が見開きで描かれた。

R-指定:あれよかったですね! 食べログ調べてるカップルの横で「大事なのは自分の目」と言ってる。班長は絶妙にかわいいですもんね。風邪引きそうになって自分で治す描写とか最高です。

般若:ヤンマガでは『Back Street Girls』『ハレ婚』も好きです。

――スピリッツでは何を読んでいますか?

般若:『闇金ウシジマくん』『土竜の唄』『ジャガーン』あと『キャッチャー・イン・ザ・ライム』。その辺は押さえてますね。

――R-指定さんは雑誌の方は。

R-指定:僕は単行本になった際に買うタイプです。当然なんですけど、雑誌はいいところで終わるのがもどかしいんですよね。ただマネジャーが雑誌派なので、どうしても気になるときは「ねえあれ……どうなったんですか!?」ってちょっと聞いてしまう。

――『HUNTER×HUNTER』とかって我慢できますか?

般若:俺、『HUNTER×HUNTER』は我慢してます。しかも超中途半端なところで止めてるんですよ。貯金みたいな感じでちょっと残しておくんです。俺わかったんですよね、冨樫との付き合い方が。多分マジで向き合っちゃダメで、冨樫と俺は距離がないとまともにやっていけないんですよ!

――(一同爆笑)

R-指定:僕は自分で曲を書くにも筆が遅いので、休載に関しては待たせる側に感情移入してますね。「それはあるやろ、いろいろ……」と(笑)。

――休載に理解がある……。

R-指定:なぜなら俺が今めちゃくちゃ人を待たせているから(笑)

『OUT-アウト-』と『バウンサー』の波

R-指定:ヤンキー漫画も大好きなんです。今ハマってるのは『OUT-アウト-』と『バウンサー』

【OUT―アウト-】“狛江の狂犬”と呼ばれた井口達也(※実在の人物)の体験を基にしたヤンキー漫画。みずたまこと作画で2012年から連載中

【バウンサー】みずたまことによるヤンキー漫画。バウンサーとはバーやクラブで不要なトラブルを弾き返す職業。日本語で書くと用心棒。

般若:あー、来ちゃった? あの波来ちゃった?

R-指定:僕はまだ雑誌連載の方読んでないんで、マネジャーに会うたびに「目黒死んだんですか!?」って聞いてます。

般若:あの作者急にエグくするからね。

R-指定:そうなんですよ!

――急に失明したり。

般若:鈴木とか。

R-指定:鈴木すごかったですよね!? グロかった。

【鈴木】犬のかぶり物をしたヤバい奴。“佐藤“と共に登場すると瞬く間に暴走族や駆け付けた警官を惨殺。主人公にも重傷を与えたため、その上司であり屈指の強キャラでもある虎井と壮絶な戦いをすることになる。

――『バウンサー』だったらどのキャラが好きですか?

R-指定:そうですね、実は『SLAM DUNK』だと仙道も好きなんですよ。ということはトライさんとか完全無欠系も好きなんですよね……。

般若:『OUT-アウト-』と『バウンサー』でキャラちょっと被ってるじゃん。あのナイジェリア人。

R-指定:足切られたやつですよね?

般若:あいつだったんだと思って。

R-指定:武器の仕入先とかね。「あ~そこでつながってくるんや!」って。

世界がつながっている(左:『OUT-アウト-』12巻、右『バウンサー』4巻)
(C)井口達也・みずたまこと(秋田書店)2012
(C)みずたまこと(秋田書店)2015

般若:あとあれさ、千葉県に対してのマイナスプロモーションがすごいよね? 西船橋とかあっちの方の話でしょ。

R-指定:そうなんですよね! 千葉通るたびに「ここやばいんちゃう」ってマネジャーと言い合ってます。あと何だっけ、あれ、あの不良が隠れ家に使ってる場所を何か違う名前で呼んでるんですけど、なんでしたっけ……(腰を浮かせてマネジャーを探す)あ~~っ今おらんな~!

――(笑)

般若:ヤードじゃなくて……。

R-指定:ヤード! ヤードです、ヤード。千葉の近くに行くたびにヤードのことを考えてしまうんですよね。

【ヤード】自動車解体作業所のこと。外国人が経営する違法ヤードでは盗難した車を解体して海外に流している。地元民も足を踏み入れない山林の奥にあり、24時間体制で解体できるようある程度の生活環境も整っている。場所によっては日本の病院に行けないメンバーのために専門の闇医者もいるというウワサ(※漫画内の話です)。

花山薫とザキトワ

――格闘系だと「刃牙」はどうですか?

R-指定:僕の先輩に学生時代に刃牙を全部真に受けて格闘やってる人がいたんですよ。

般若:ははははははは! あれギャグでしょ。

R-指定:そうですね、ギャグ部分も多いんですけど……MCバトルという格闘の場、ライブっていう人と対峙する場で役に立つ心得も詰まっているんですよ。バトルやライブを生業(なりわい)にして戦っていると、刃牙に出てくるぶっ飛んだ精神論ぐらい極端なことを考えていないと一歩踏み込めない時期が出てくるんですよね。バトルの前に刃牙を読んでいたこともありました。特に花山は、自分と全然違うキャラクターだからこそ見本にしたくなるっすね。スペック戦もいいんですけど、何より花山は負けるところがかっこいいんです。花山の存在は自分の中ででかいですね。

空手界のリーサルウエポン・愚地克己によるマッハ突きを侠客立ちで受け止める花山(『グラップラー刃牙』28巻) (C)板垣恵介(秋田書店)1992

【花山は負けるところがかっこいい】日本一の喧嘩師こと花山薫は強い。とにかく強いが、地上最強の生物・範馬勇次郎や伝説の剣豪・宮本武蔵をはじめ何度か負けたことがある。しかし、その負け様もかっこいいのである。初登場時は15歳で、その後20歳前後へ成長。

般若:いや、あれで15歳とかでしょう? すごすぎる。15歳ってザギトワと一緒だよ

――ザギトワ……。

※15歳のころ(『グラップラー刃牙』13巻) (C)板垣恵介(秋田書店)1992

ジョジョの名言

――漫画のセリフで、気に入っているものはありますか?

般若:ジョジョ5部のディアボロはすげえ名言しか吐かないんですよ。「過去はバラバラにしてやっても石の下からはい出てくる」とか……ひたすら帝王学みたいなセリフが出てくるのが最高ですね。でもジョジョで一番の名言は「根掘りはわかるが葉掘りは何だ」です。

【根掘りはわかるが葉掘りは何だ】「ヤツらを探し出すために……『根掘り 葉掘り 聞き回る』の『根掘り 葉掘り』……ってよォ~~ 『根を掘る』ってのは わかる…… スゲーよくわかる 根っこは土の中に埋っとるからな… だが「葉掘り」って部分はどういう事だああ~~っ!? 葉っぱが掘れるかっつーのよーーーーーーーッ! ナメやがって この言葉ァ 超イラつくぜェ~~~ッ!! 葉っぱ掘ったら 裏側へやぶれちまうじゃあねーか! 掘れるもんなら掘ってみやがれってんだ! チクショーーッ」のこと。(『ジョジョの奇妙な冒険』文庫版34巻)

――まさかのギアッチョ……。ちなみに自分が1つスタンドをもらえるとしたら何がいいですか。

般若:それはその時の状況によって変わりますよね

――そうですね(笑)。

般若:シルバーチャリオッツもらっても使い道ないじゃないですか。でもそう思うとしげちーのスタンドって超便利じゃないですか?

――確かにハーベストは汎用性が高いですね。背川先生はスタンドもらえるとしたらやっぱりヘブンズ・ドアーですか?

背川:それは本当に夢ですね……。むしろ露伴先生の漫画描く早さが欲しいです。あまり筆が早い方ではないので。

【岸辺露伴の執筆スピード】露伴先生はアシスタントなしの週刊連載原稿を4日で描き上げる。

――作業工程の中では、どれが一番時間がかかりますか。

背川:最初に形を決めなきゃいけないので、下書きですね。ペン入れはなぞるだけで気持ちよくさっさとできます。

――『キャッチャー・イン・ザ・ライム』のコマ割りは4コマあり見開きありで、独特の盛り上がりが魅力的ですね。

背川:日常シーンをテンポ良く描くために4コマ形式を基本にして、ラップシーンなど盛り上がるところで大ゴマを入れて緩急をつけるという意図でこの形にしています。読者の方から「四小節からのサビの大ゴマ、みたいなラップミュージックのリズムを意識してるのでは」という意見をもらって、なるほどなあと思いました。

日常シーン
ざわっ
バーン
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