漫画村との取引否定していた広告代理店、一転して「深く反省」 関係者は「海賊版と手を切れば仕事ない」と証言
社員への謝罪メールを独自入手し、広告代理店を直撃。
海賊版サイト「漫画村」などに広告を配信していた広告代理店・A社グループの幹部が、社員への一斉メールで海賊版サイトへの関与を認めていたことが分かりました。同社は2018年4月、ねとらぼ編集部の取材に対し「漫画村には関与していません」と回答していました(関連記事)。
海賊版サイトへの関与否定も全従業員に対して「深く反省」メール
社会問題となっている海賊版サイト問題では、運営者の責任はもちろん、サイトの運営資金を「広告収入」として間接的に供給していた広告代理店の責任やモラルを問う声もあがっています。
編集部はこれまでの取材で(関連記事)、A社およびグループ会社のB社が、漫画村やAnitubeといった海賊版サイトの広告案件を多数取り扱っていたことを確認。取材を申し入れましたが、同社グループはこれまで関与を否定していました。
ところが前述の記事を掲載してから間もなく、A社の常務取締役で、B社の代表取締役でもあるJ氏から、グループ社員に向けて「昨日晩に当社の海賊版メディアとの取組みについてのネット記事が出ています」とのメールが送信されていたことが編集部の取材で分かりました。
メールの中でJ氏は、「4/16までに海賊版と確認出来る媒体社・レップ(※)・SSPへ停止措置を行いました」「今回の事は責任者である私のコンプライアンスに対する認識のあまさ、未熟さであったと深く反省し、真摯に受け止め、早々に媒体の掲載基準・審査機能の設置・運用と再発防止に取り組んでいきます」と、海賊版サイトへの関与を認めるとともに、グループ社員に向けて反省の弁を述べています。しかしいまだA社として対外的な説明や謝罪は行われておらず、内情を知る関係者らは、「従業員を引き留めるためのパフォーマンスだろう」と冷ややかな目を向けているようです。
(※)レップ……インターネット広告の取引で掲載媒体と広告代理店、広告主などを仲介する事業者。メディアレップともいわれる。
関係者「全てを正したら会社として成り立たない」
複数の関係者によると、A社グループでは従業員に対し休日に無償出勤をさせるなど、労働環境の悪さから退職者が続出していたとのこと。そんな中、海賊版サイトと同社グループとの関係が複数のメディアで示唆されたことにより、さらなる退職者が出ることを危惧したA社グループが反省の姿勢を示すことで、従業員に理解を求めようとしたのではないかというのです。
確かにJ氏のメールには「従業員のみなさんはネット記事をうけ、心配と心労をおかけしてしまい申し訳ないと思っています。全力で問題解決・改善し、今後も働いてもらえる会社に向けて努めていきます」との文言が書かれていますが、関係者は「取引先のほとんどが海賊版サイトなのに、全てを正したら会社として成り立たない」と口をそろえます。
――前回の記事が掲載されて以降、A社グループ内で何か変化は起きているのでしょうか。
情報提供者1:最近テレビCMなどでよく見る電子コミックサイトなどから広告の配信停止を申し入れられました。表向きは「プロモーションの見直し」のための一時停止措置ですが、再開される可能性は限りなく低いでしょう。
情報提供者2:とはいえ社員に対しては表面的には何事もなかったかのようにふるまっているのではないでしょうか。
――海賊版サイトへの関与を認める社内一斉メールを送った後、本当にそうしたサイトとは手が切れているのでしょうか。
情報提供者1:実際のところ、海賊版サイトと手を切れば会社の運営は成り立たなくなりますから、難しいでしょうね。
情報提供者2:私も同意見です。A社グループには大きく分けて2つの営業部があり、片方の営業部は海賊版サイトや違法アダルトサイトの案件を、もう片方の営業部では誇張表現をしている化粧品や精力剤といった商品の広告を請け負っていました。もしも海賊版サイトや違法サイトに今後一切関わらないということになると、片方の営業部全体の仕事がほぼなくなってしまいますから、手を切るのは難しいのではないかと思います。
求人広告とは異なる会社に所属させられる従業員
――情報提供者2さんはなぜ今回情報提供を決心されたのでしょうか。
情報提供者2:私が思うにA社グループは絶対に裁かれなくてはいけません。しかしこの集団を裁くためには、法整備が追い付いておらず、的確に動いてくれる方の手助けが必要だと考えました。
――労働条件についても問題があると聞きました。
情報提供者2:これに悩んでいる従業員は多いのではないでしょうか。例えば営業職で採用されたとしても、会社都合で別の部署に異動になる方もいますが、その際、事前になんの告知もされずにいきなり異動にされていたり。この他にも休日に無償出勤している人もいると言いますし、会社行事への参加も断れません。どれからあげれば良いのか考えてしまうぐらいです。
情報提供者1:求人については本当にひどいですね。ハローワークから面接にいって採用になったら、A社とは別の社名の会社に所属させられているなんてことはざらにあります。ペーパーカンパニーだらけですから。
――一番ひどいなと思うのはどういうところなのでしょう。
情報提供者2:人がどんどん入れ替わることに慣れてしまっていることではないでしょうか。あのような何の生産性もないどころか社会に悪影響を及ぼしている集団が企業として存続できないようにするための法整備、そしてこうした企業が「犯罪のほう助をしている」という明確な認識を世間に広めることが今は一番必要だと思います。
ねとらぼ編集部では一連の取材内容を踏まえ、4月下旬から再度A社への取材を申し入れましたが、担当者の不在を理由に5月上旬まで回答はありませんでした。しかし、5月14日にA社の顧問弁護士より「A社として回答をする用意がある」との連絡があり、5月21日夜に回答書が届きました。
広告代理店A社、ついに取材に応じる
――A社グループおよびグループ企業のB社は海賊版サイトに関わっていたのではないですか。
A社:当社は、「漫画村」等の海賊版サイトが2018年4月13日に政府によりブロッキングの対象として明示されたことを受け、当社が海賊版サイトに関与していないかの社内調査を開始すると同時に、4月16日までに海賊版サイトに関与しているおそれのある取引先等との取引を停止するよう措置を行いました。
社内調査の結果、当社のグループ会社であるB社の運営するアドネットワークの一部配信先として海賊版サイトが存在したことが確認できました。もっとも、B社と海賊版サイトは、レップ社を介した間接的な関係であったことも同調査により判明しており、B社と「漫画村」は直接の取引関係にはございませんでした。
――直接的な取引関係にはないとのことですが、漫画村に対して、グループ全体で月にいくらの広告掲載費を支払っていたのですか。
A社:「漫画村」に対する取引の広告掲載費に関しては、直接取引ではなく、レップ社を介したB社のアドネットワーク上の取引であるため、純粋に「漫画村」に対して支払った広告掲載費を区別して算出することは不可能です。
なお、「漫画村」との関係が確認されたレップ社に対しては、「漫画村」以外の掲載先を含め2017年4月から13カ月間で月平均250万円、総額で3200万円の取引実績がございました。
――4月にA社に対して取材した際には「A社は漫画村には関与していません」と回答していました。しかし実際には取引があったということで、実情と回答に齟齬(そご)が生じています。
A社:ねとらぼ編集部が当社に対して電話取材を行った2018年4月17日は、まさに当社としても社内調査の最中であり、電話回答をした責任者(※編集部注:既出の記事の名無し氏のこと)もある程度当社と海賊版サイトとの関与の事実を把握していたものの、社内調査のとりまとめ前に先行して外部に回答するわけにもいかず、会社を守るために反射的に拒絶反応を示し、否定してしまったとのことです。
もっとも、当社としてはレップ社を介した取引とはいえ、海賊版サイトに広告を掲載していた事実が確認できたことから、今後に向けて深く反省し、この事実を真摯に受け止め、早々に媒体の掲載基準・ガイドラインの設定や審査機能を持った機関の設置・運用などの再発防止策に取り組んでまいります。
――今後も海賊版サイトとの取引は続く予定なのでしょうか。
A社:当社としては、今後海賊版サイトおよびこれに関連する会社との取引は行いません。前述の通り、当社は既に2018年4月16日までに海賊版と確認できる媒体社・レップ社・SSP社へ取引を停止する措置を行っております。
――取引を停止した取引社数を教えてください。
A社:本件措置に伴い、取引を停止した取引先は28社(個人含む)です。また広告掲載を停止したメディア数は71メディアとなります。なお、掲載を中止したメディアのうち直近3カ月の取引実績のあるメディア数は48メディアあり、その内訳は、平均月取引高1万円以下の掲載先が26メディア、平均月取引高1万円以上10万円以下の掲載先9メディア、平均月取引高10万円以上の掲載先が13メディアでございます。
――漫画村騒動以降、海賊版サイトへの広告配信停止を申し出た出稿主はどの程度いますか。
A社:複数の出稿主様より海賊版サイトに該当するサイトへの広告があれば、配信を停止するよう指示をいただいております。
――「漫画村」の運営主を知っていますか。また編集部がA社グループと「漫画村」との窓口になっていたのは、どの会社なのでしょうか。編集部では都内の広告代理店X社であるとの情報をつかんでいます。
A社:当社は「漫画村」の運営主について一切面識がございません。また本件はあくまでも当社のコンプライアンスの問題であることから、当社は他の企業様に関してお答えできる立場にございませんので、出稿主様を含む取引先に関する個別の質問には回答いたしかねます。
――A社グループではアダルトサイトとの取引もあるようですが、違法アダルトサイトについては今後どう対応する方針なのでしょうか。
A社:当社としては、アダルトサイトか否かに関わらず違法サイトは掲載停止の方針でございます。
――間接的とはいえ、海賊版サイトに資金を供給していたことについてどう考えていらっしゃいますか。
A社:本件は、当社のコンプライアンスに対する意識の低さを深く反省し、真摯に受け止めております。当社としましては、本件を踏まえ、今後早々に媒体の掲載基準・ガイドラインの設定や審査機能を持った機関の設置・運用などの再発防止策に取り組んでまいる所存です。
――漫画村騒動を受け、今後社内の方針を転換する予定はありますか。
A社:これまでの回答と重複いたしますが、当社としては、今回の騒動を踏まえ、社内のコンプライアンスに対する認識を高めると共に、媒体の掲載基準・ガイドラインの設定や審査機能を持った機関の設置・運用などの再発防止策に努めてまいる所存です。
漫画村騒動が持ち上がった際、「どうすれば海賊版サイトを撲滅させられるのか」が大きな議論を呼びました。運営者を特定して処罰を受けさせること、利用者に海賊版サイトを利用しないように呼び掛けること、権利者が運営者に対して削除を依頼すること。しかしそのどれもが何らかの壁に阻まれ、いまだ抜本的な解決には至っていません。
そんな折、編集部では「海賊版サイトに資金を供給している広告配信事業」に注目し、広告主、広告代理店への取材を続けてきました。そのうえで見えてきたのは複雑化された広告配信の実態と、一部広告代理店や広告主の責任感のなさです。現行法上では、海賊版サイトに広告を出稿したとしても何らペナルティを負うことはなく、それどころか海賊版サイトとの取引で莫大な利益が生まれている場合も少なくないため、海賊版サイトに関与していることを把握していながらも、手を切ることができない企業が多いのが実情のようです。
お金は「社会の血液」とも言われます。それは海賊版サイトにとっても同じで、広告配信費が得られなければ海賊版サイトの運営は立ちいかなくなることは目に見えています。今、この瞬間にも新たな海賊版サイトが生まれているという状況の中、今回取材に応じたA社グループを含め、広告代理店や広告主がもう一度モラルについて考え直すことが、海賊版サイト撲滅への大きな一歩になることは言うまでもありません。
(Kikka)
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