盛り上がってきました「品川新駅大喜利」 そもそも駅名ってどんな言葉が選ばれる?:月刊乗り鉄話題(2018年6月版)(1/3 ページ)
新品川、南田町、港南、品田、芝浜……。落語由来の駅名があってもいいじゃない。
鉄道のお話を一席申し上げます。
東京は港区、田町駅と品川駅の間に、JR東日本が新しい駅を作っておりまして。ここはもともと車両基地があった場所でした。ミドリとダイダイ色のカボチャ色の電車とか、白い車体で斜めに緑の三本線が入った「踊り子号」なんて艶っぽい名前の電車がね、夜になると仕事場から帰ってきて、きれいに並んで寝てるんでございますよ。そりゃあもう、鰻よりずっと行儀がよろしい。
もうちょっと時代をさかのぼりますと、昼間は奥の方に青い客車がズラリ。ブルートレインなんて呼ばれた寝台車です。博多、鹿児島、大分、長崎、佐世保、宇野、出雲市、紀伊勝浦、あっちこっちから上京して、ここで昼寝して、夕方になったら東京駅までお客さんを迎えに行って、それぞれの遠いところへ旅立っていくんです。それを引っ張る機関車もいましたっけ。東京機関区ってね。客車と合わせた青い機関車がならんでおりました。
ところが偉い人はこれが気に入らなかった。都心の一等地に、こんな平べったい土地をおいとくなんて持ったいないってんで、電車はどけちゃって、国府津やら大船やら、北の方にもやっちゃった。で、空いた土地に街を作るんですな。街を作るなら駅も作らなくちゃ不便でしょうがない。じゃあってんで駅を作ることに決まりまして、品川駅と田町駅の間に新しい駅を作ります。地下鉄の泉岳寺駅の隣くらいの所です。
「おいおい熊さん」
「なんだい八っつぁん」
「いつまでも慣れない落語調はやめなよ。読みづらいったらありゃしない」
「ああそうかい、じゃ、やめようか」
JR東日本は2018年6月5日から、この品川新駅の駅名を公募しています。ハガキの場合は6月30日までの消印有効、ネット応募は6月30日の23時59分まで。駅の名付け親になれるかもしれません。
この駅については、ずっと昔から建設のウワサがありました。正式発表は2014年6月でした(関連記事)。その頃から「品川新駅」という仮称で呼ばれており、ネットでは駅名予想合戦で盛り上がりました(関連記事)。正式発表はまだかと、特に不動産業方面が待ちかねているようです。
京浜東北線で品川から田町へ向かうと、山手線の内回り線をまたぐため高架になります。そこから品川新駅の様子が見えます。新駅は地上3階、地下1階とのこと。プラットホームを包むような躯体です。デザインは新国立競技場を手掛けた隈研吾氏です。
駅名公募の発表があって、やっと1歩先に進んだ印象です。JR東日本でも駅名の公募は珍しいとのこと。またネットでは駅名予想が大喜利のように盛り上がっています。そもそも駅名はどんな言葉が選ばれているのでしょうか。パターンを整理しながら駅名予想をしてみましょう。
地名から
地名、所在地です。駅はその地域へ行く人にとって分かりやすいことが大事。東京駅は東京にあり、大阪駅は大阪にあります。品川新駅の所在地は「東京都港区港南二丁目」ですから、「港南」が素直かもしれません。ただし、付近にもっと名前が知られた地名があれば、その地名を使うこともあります。品川新駅付近ですと「高輪」「芝浦」などです。
ちなみに近くに類似の駅名があり、混同されやすい場合は地名にならないこともあります。「芝浦」は、鶴見線に「新芝浦」「海芝浦」が既にあります。「高輪」も付近に「白金高輪」がありますね。でも区別はしやすそうです。
方角+隣の駅名から
街の規模が大きく、1つの地域に幾つも駅がある場合、あるいは地域名が無名過ぎて分かりにくい場合は、近隣の駅に関連付けます。「東○○」「北○○」などです。品川新駅は田町駅の南だから「南田町」という声があります。でもこれは東急田園都市線の「南町田」と混同するかも?
「北品川」は残念ながら、既に京急電鉄にあります。品川駅の隣、品川駅の南にあるのになぜ北品川なのか。これは北品川も正解、品川駅も正解。品川駅は付近にあった品川湊や、計画当時の行政区域「品川県」が由来。北品川は品川宿の北に当たります。
ちなみに埼玉県の浦和駅は東西南北が全てそろっていて、中浦和、武蔵浦和もある。そのため、無印の浦和を白として、武蔵浦和を「発浦和」にすれば麻雀の役がそろうなぁというジョークもあります。似たような名付けとして「新」も多いですね。新横浜、新大阪……。それなら「新品川」もアリなのかな。いや、新幹線の駅と間違えやすいかな。
旧国名+駅名から
武蔵浦和が出たところで、旧国名と地名という事例も多いです。肥前山口、会津川口、越後湯沢など。これらは「所在地の地名を駅名にしようとしたら同じ駅名が他の地域にあった」ときに同名駅の紛らわしさを解決するための手法として使われます。特に国鉄時代の駅が多いです。JRが発足する前は、日本国有鉄道という全国組織でした。東北と九州で同じ名前の駅があると、切符の売り間違いを起こす恐れがあったわけですね。
JR西日本、可部線の「あき亀山」駅 亀山駅は三重県の関西本線にあるため、旧国名を付けた「安芸亀山」駅がありました。その後可部線の一部区間廃止とともに安芸亀山駅も廃止されます。ところが再び可部線が延伸開業することになって、旧亀山駅とは離れた場所に「あき亀山」駅が誕生しました(ややこしいな)
そこで「武蔵品川」「武蔵田町」とか。ちょっと古くさく感じるような……。
鉄道会社名+駅名から
これも同名駅を解決する方法です。京急蒲田、京成津田沼、近鉄名古屋、名鉄名古屋など。名鉄名古屋駅は新名古屋駅からの改名です。新岐阜も名鉄岐阜になりました。ブランド戦略かも。JRの駅の近くだけれど、屋根がつながっているわけではない、という場合が多いようです。
ただし「JR品川」「JR田町」は、現在も品川駅や田町駅を指す場合があるので紛らわしいです。ちなみにJR西日本のおおさか東線には「JR長瀬駅」「JR俊徳道駅」などがあります。JRも含めて正式な駅名です。
施設名から
ランドマークになる施設名は分かりやすい駅名の代表例です。例えば、成田空港駅、羽田空港駅、後楽園駅、大井競馬場駅、国際展示場駅。お寺の名前も多いですね。国分寺駅など。品川新駅のすぐそばには都営地下鉄の「泉岳寺」駅があります。
ところがこの泉岳寺駅の名前、当の泉岳寺から駅名の使用差し止めを求めて裁判を起こされた過去があります。駅と間違えて寺に問い合わせの電話が頻発して困っていたそうです。結局、最高裁判所まで争いましたが、駅名には公共性があるとして泉岳寺が敗訴。2018年6月現在も泉岳寺駅のままです。
品川新駅も泉岳寺駅にしたら、乗り換えるときに分かりやすいと思います。でも、いわく付きですよね……。地下鉄の泉岳寺駅は、品川新駅開業までにプラットホームの拡幅など改良工事を実施する予定とのこと。いっそ、新駅名に合わせて泉岳寺駅を改名したらどうかな?
観光地名から
地名にも分類できそうですが、有名な観光地のそばの駅には気を付けましょう。河口湖駅や三浦海岸駅、江の島駅は観光地に近い駅です。しかし、九頭竜湖駅でレンタサイクルを借りて九頭竜湖に行ってみたら、約2キロの急な上り坂でした。辛かった……。富士山駅も富士山頂にはありません。富士山にもっとも近い駅です。
変わり種
JR中央線に国立駅があります。この駅は地名の国立市が由来ではなく、その逆、駅名が国立市の由来になった例です。では駅名は何が由来か。国分寺駅と立川駅の間にできたので、隣からそれぞれ1文字ずついただいたのでした。2018年現在は国分寺駅との間に西国分寺駅がありますが、この駅は国立駅のあとにできました。西国分寺駅ではなく、東国立駅にしたらややこしかったですね。ということで品川新駅も、品川駅と田町駅の間だから「品田」駅、「田品」駅の意見は多いようです。
人名に由来する駅もあります。例えば炭鉱付近の駅は炭鉱の所有者から、JR北海道はアイヌ語の地名由来の駅がたくさんある中で、開拓者に由来する駅も多いです。JR鶴見線は産業に貢献した方々の駅名がそろいます。「大川」駅は多数の製紙会社を経営した大川平三郎氏から。「安善」駅は安田財閥で鶴見線建設に貢献した安田善治郎氏から。ちなみに安田善治郎氏は芸術家オノ・ヨーコさんの曾祖父です。
新興住宅地付近には、ひばりヶ丘、たまプラーザ、あざみ野、ユーカリが丘といった変わり種の駅名もあります。駅名のイメージに沿った街並みを作ろうと計画されたもので、今では違和感がない駅も多いです。
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