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「空気を読みすぎたOL」の限界、退職、そして―― アラサー女子マンガ『凪のお暇』に男たちもハマる理由(1/3 ページ)

作者のコナリミサトさんにいろいろ聞いてみました。試し読み付き前後編でお届けします!

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 誰よりも空気を読む能力に長け、仕事も恋愛もつつがなく行っていたOL・大島凪(なぎ)。しかし空気を読みすぎるあまり、自分を押し殺していた彼女は、心の支えとしていたはずの彼氏・慎二の言葉がきっかけで過呼吸に。限界を迎えた凪が選んだのは、仕事をやめ、家を出て、人生をリセットする「お暇(いとま)」に入ることだった――。

 秋田書店『エレガンスイヴ』で連載されるやいなや絶大な支持を得て、単行本累計150万部を突破している人生リセットコメディ『凪のお暇』。10月16日にオープンする秋田書店のサイト「Souffle(スーフル)」を記念して、著者のコナリミサトさんをインタビュー。試し読みもあわせてお届けします。

「空気を読む」という言葉に抱いた違和感

――「空気を読む」というキーワードをきっかけに、人間が日々かかえているモヤモヤやストレスを、主人公・凪の目をとおして明らかにしていく同作。着想のきっかけを教えてください。

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コナリミサト(以下、コナリ):ある時期から「空気を読む」という言葉が、すごく流通するようになりましたよね。お笑いのコントとかで使われはじめたんだったと思うんですけど。

――「KY(空気読めない)」って言葉が流行ったのが、2000年代の後半ですね。

コナリ:みんなが使い始めた当初から、違和感を覚えていて、なんかモヤモヤしていたんです。一方で、「わかる」って相づちがすごくラクで、自分自身が多用していた。誰かが何を言っても「わかる」と言っておけば、その場がおさまる! すごい! とバンバン使ってたんだけど、「いや、でも自分、全然わかってないな?」「これでいいのかな」と、ゆらぎに悩んでいました。「空気を読む」「わかる」にまつわるモヤモヤが心のなかにずっとあって、担当編集の菅原さんから「連載しませんか?」と提案いただいたときに、凪というキャラクターにまとまった流れですね。

担当編集・菅原(以下、菅原): 読み切りやオムニバスではなくて、毎話ヒキでつづいていく話を描いてほしいと思ったんですよ。ちなみに、コナリさんと出会ったときのこと、よく覚えてます。デザイナー事務所の主催するキャンプで初めてお会いしたんですけど、川のほとりにたたずんでいて、後ろ姿がさみしげだった……。

コナリ:あのときお互いに誰が誰だか全然わからずに話していましたよね。菅原さんのことも、他のマンガ家さんの奥さんだとばかり思い込んでいた(笑)。

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菅原:今日はちょうど原画展の準備をしていて、連載開始前の資料も持ってきています。

貴重な資料

企画書の冒頭

ずっと仕事人間だった主人公の女の子(30歳前後)がある日ぷっつり糸が切れ、都内高級マンションから4畳半に都落ちして、今まで仕事に忙殺されてやっていなかった「やってみたかったこと」をひとつずつ体験していくショートストーリー

――「お暇」をとるのは、今と共通してますが、凪のキャラクターが全然違う! 髪の毛も、現在の凪はもともとが天然パーマなのを一生懸命ストレートにしていますが、逆だったのか。

コナリ:「節約小ネタ」や「やってみた」というような豆知識を入れ込むのが好きで、当初のアイデアではそこが重視されています。「うどんをこねてみる」とか「活版印刷してみる」とか。タイトルをつけるなら、「1人で生きるもん!」というイメージです。

――「MMD(※)やってみる」まである(笑)。

※キャラクターの3Dモデルを操作しコンピュータアニメーションを作成する3DCGソフトウェア「MikuMikuDance」の略。転じて、3Dキャラクターを制作したり動かすこと全般も言う。

コナリ:まさに自分がハマっていたんですよね(笑)。でも、菅原さんから「小ネタは排除したい」といわれ、さらに先ほどお話した「空気を読む」「わかる」に対してのモヤモヤが重なって、凪の見た目や性格が現在の彼女になっていきました。

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――現在の『凪のお暇』でも、凪が豆苗を栽培していたり、ウィッシュリストを作成してみたり、「節約小ネタ」「やってみた」も残ってはいますよね。

菅原:コナリさんにも読者にも、キャラクターの描写に集中していただきたいなと思ったんですよね。今はちょうどよく挟まっているのではないかと。

――4巻おまけの「オフィスでできるストレッチ」のエピソードも、めちゃくちゃ面白かったです!

女たちが「写真見る?」と言ってしまうタイプの元彼

コナリ:タイトルもいろいろな案が出ていました。『凪暮らし』『凪さんのおいとま』『暮らしの凪』『モラトリアム凪』など……。「凪」という名前がかわいいから主人公につけたいなと思っていて、それをタイトルにも組み込みたかったのですが、試行錯誤していた。

――「お暇」って言葉、とてもしっくり来てますよね。

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コナリ:「なぎのおひま」「かぜのおひま」と読み間違えられることが多いのだけが悩みです(笑)。

――実は私、『凪のお暇』のことを誤解していて、読むのが遅くなってしまったんです。

コナリ:どういうことですか?

――世のアラサーマンガはいろいろと読んできましたが、「アラサー向けファンタジー」で終わることが多い気がしていたんですね。「仕事つらい! 恋つらい!」と主人公が言うだけ言って、結局白馬の王子様と結ばれて終わるというか……。

コナリ:ああー。

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――『凪のお暇』も1話のあらすじだけ読んだときには、そういう話だと思っていたんです。でも、あるとき電子書籍ストアの広告で、「凪の知らない慎二の胸のうち」のシーンが流れてきて。凪中心じゃなくて、男性側の心情もしっかり描いていくんだなと知って、読み出しました。

コナリ:電子書籍ストアのプロモツイートはかなり反響ありますよね。3巻の、凪の隣人・ゴンについてのエピソードを切り取ったものを見たときは、「すごい切り取り方するな」と著者の私も思いました(笑)。

――慎二とゴンのキャラは、どうやって生まれたのでしょうか?

コナリ:凪のキャラに対して慎二ができて、慎二の対としてゴンができて……という順番ですね。子どものころから「三角関係」が好きなので、男キャラを2人にするつもりではありました。最近のコンテンツだと「女1人にイケメンたくさん!」といった形式のものが多いですが、私は、三角関係の間に挟まれた女の子や男の子がアセアセした顔をしている描写に萌えるんですよね。

――確かに凪、いつでもアセアセしててそこがかわいいですね。しかし、絵柄がやさしげなので油断してしまうのですが、場面場面で見ると、凪と2人の間には、ものすごいことが起きてますよね。特にゴン、最初は「個性的な隣人」か「白馬の王子様」のどちらかになるのかと思ってたんですが、本当におそろしい男だった……。3巻を読み終わったときは、下手なホラー映画より怖かったです。

コナリ:ゴンにはね……、私が好きな要素をいろいろ詰め込んでますね。イエス・キリストのような風貌をしたヒゲのイケメンが好きなんです。しかも、こちらを好きになってくれない人(笑)

――こちらを好きになってくれない人、大半の女子が好きでしょう……。

コナリ:ゴンとのエピソードを描いているときに菅原さんから「うわー、ゴンみたいな元彼がいる人は、これ読んだら絶対連絡しちゃうと思いますよ」といわれていたのですが、実際3巻が出たら、「連絡しそう!」と叫んでいる読者さんが多かったですね。

――みんな、身に覚えが。

コナリ:私の周囲にも、ゴンのような男性にハマったことのある女性、それなりにいるんです。面白いのが、その子たちが必ず「写真見る?」と聞いてくること。写真、消してないんですよ

――この世にはそんなにたくさんのゴンがいるんですね……。

自覚のないひどい男にも、「言い分」はある

――そう、ゴンも慎二も「そばにいる」感がハンパないんですよ。

コナリ:「いる」タイプのやばさってありますよね。「こういうやばいやついるよね!」というのは、ゴンというキャラクターを考える当初から言っていました。お酒を飲みながら人の恋バナなどを聞くのが好きなので、そうした話を参考にしながら、「いる」感のあるキャラクターをつくってます。

――凪、白馬の王子様どころかそんなやばい人間に振り回されていて、本当に頑張っている……。「お暇」のはずなのに、ものすごく大変な目にあってますよね。

コナリ:主人公はどうしても、苦労させたくなっちゃうんです。女の子の主人公に対して、特に厳しくしてしまう。恥ずかしいというか、照れなのかな?

――それは読者に対して? キャラに対して?

コナリ:キャラに対してですね。好きだからこそいじめちゃうのかもしれません。『凪のお暇』に関しては、菅原さんからも2話目のプロットを出したときに「仏にはならないでほしい」「主人公は達観しないでほしい」と最初からいわれていて、その影響もあります。確かに、達観してる主人公が上から何か言っても、読者の方もムカついちゃいますよね。人は簡単には変われない。説教臭くならないようにするのは、気を付けています

――だからといって、ゴンや慎二サイドが悪者でもなくて。

コナリ:悪人じゃないけど、結構ひどいことをしていて、でも本人は自覚がないんですよね。でも、彼らが考えていることもいろいろあって

 描いていて特に楽しかったのが、慎二と凪がそれぞれ水族館でのデートを回想するんだけど、凪が慎二の言葉をこう受け取ったのに対して、実は慎二がこういうことを考えていて……というのを見せたシーンです。「双方の言い分」を描くのが好きなんですよ。一方的な被害者っていうのはいない、というのは意識して描いていますね。

――そうした男性サイドへの目配せもあるからか、周囲でも「胸に刺さる……」と言っている男性読者が出てきています。「自分、すごくゴンに似てる……」「俺は慎二派かも」と言っていたり。

コナリ:男性を都合のいい王子様として描きすぎない、というのも気を付けているので、共感いただけるのはうれしいですね。私のところにも男性からの感想は届いています。大成功している立場のように見える方々に「ぼくは慎二です」なんていわれることがあったり。センチメンタルがかおるコメントが多くて、すごく好きです。「昔大好きだった元カノがいて……」というように、過去の思い出とともに語ってくださるんです。

――男女ともに、うまくいかなかった自分の経験を投影してしまうのか(笑)。凪が最終的にどっちとくっつくかは、もう決まってるんでしょうか? あるいは、どちらともくっつかないか。

コナリ:ぼんやりとはあるんですけど……まだまだわからないですね。双方の言い分を解決してからじゃないと、くっついても意味ないですから。

(つづく)

出張掲載:第1話「凪、ドロップアウトする」

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