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実写版「人狼」 押井脚本からの唯一にして最大の改変とは

硝煙に揺れるブレードランナー。

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 Netflixで10月19日に配信開始された映画「人狼」。脚本・押井守、監督・沖浦啓之による和製アニメ映画「人狼 JIN-ROH」のリメイクであり、押井のライフワークである「ケルベロス・サーガ」の一作に位置する。

 武骨なプロテクト・ギアと紅く光る瞳のデザインが印象的なビジュアルポスターがたびたび話題となった本作、メガホンをとるのは日本統治下の朝鮮を舞台にしたポリティカル・サスペンス「密偵」、復讐映画の傑作「悪魔を見た」のキム・ジウン。

話題を読んだ実写版のポスター

★以下、「人狼」のネタバレを含みます

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舞台は近未来 原作を再現しつつ、より陰鬱に

 舞台は原作版の「さきの大戦に敗北し、経済的疲弊から治安の悪化した日本」から「世界情勢の緊迫に伴い北との統一を目指している近未来の韓国」へと置き換えられている。反政府テロ組織・セクトとそれに対抗するための特機隊という立ち位置は変わらず、物語は広場での警察とデモ隊の大規模な衝突から幕を開ける。

アニメで描かれた警察とデモ隊の衝突が実写でも再現される(画像はNetflixの予告編より

 ここ数年ではヨン・サンホの諸作品や「タクシー運転手」でもみられたとおり、韓国ではデモが活発に行われている。市民が放水や催涙ガス等によって亡くなることも少なくない。国が進める南北首脳会談や、半島の統一に反対するデモもたびたび行われている。ブレードランナーを思わせる暗闇の中にときおりネオンが光る近未来の韓国は、原作の空気を緻密に再現しながらも、より陰鬱で歪である。

 シナリオはほぼ原作を緻密になぞる。特機隊に属するイム(カン・ドンウォン)は過去のトラウマからセクトに属する爆弾の運び屋・赤ずきんと呼ばれる少女を撃つことができず、目の前での爆死を許してしまう。

 元特機隊の盟友である公安警察のハン・サンウ(キム・ムヨル)は少女の遺族に遺品の日記を渡すようイムに促し、イムは少女の姉を名乗るイ・ユンヒ(ハン・ヒョジュ)と出会う。規模が縮小していくセクト、それに伴い存在価値を失い始めている特機隊、彼らを疎ましく思う公安警察、隙を見せれば喉笛を噛みちぎられる権力闘争とそれぞれの組織の軋轢の中、各々の思惑が交差するバイオレンス・アクション・ロマンスである点をしっかりと継承している。

バイオレンス・アクション・ロマンスになっている

唯一書き変えられたラストシーン

 背景美術、プロテクト・ギアは圧巻のビジュアル再現度となっている。画面の緊張感は黒沢清リスペクトが垣間見えたジウン過去作の「Memories」に通ずるものがあり、傑作「箪笥」に代表されるホラー映画を数多く手がけた技も光る。この手の突き抜けた設定や強烈なビジュアルは、画作りから少しでも手を抜けば一分の隙から説得力がかき消えてしまう。その点は抜かりなく、素晴らしいの一言だ。

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プロテクト・ギアの完成度は非常に高い

 また近年の韓国映画(特にマフィアもの)にありがちな近接武器による過度なバイオレンス描写が比較的抑えられているのも新鮮だ。とはいえアクションが少ないというわけではなく、ジウンがハリウッドで監督したアーノルド・シュワルツェネッガー俳優復帰作「ラスト・スタンド」で見られた車と銃を使ったアクションシーンの手腕が惜しみなく発揮されている。

 同時に欠点も決して少なくない。キャラクターの弱さや、物語上挟み込まれている赤ずきんの寓話がうまく機能していない点(北との統一=赤化に進んでいるのが韓国政府である以上、その反勢力が「赤ずきん」であるのは疑問がある)、そして物語の決着点がク・ミギョン(ハン・イェリ)といった原作不在キャラクターの登場によりぼやけており、少々長めな尺を持て余してしまっているのは気になる。

 また組織の中で生きる犬の悲哀を突き放して描いた原作版のラストは改変されており、賛否が分かれる。だがそこに違和感は覚えない。それは本作が架空歴史ものでありながら、近年多く作られるようになった韓国民主化前後を描いた映画作品群に連なるからである。そしてジウンが間違いなく押井守作品から強い影響を受けており、それでもあえて改変したのが理解できるからだ。

韓国版予告編

 オムニバス映画「人類滅亡計画書」にジウンは「天上の被造物」という短編作品で参加している。悟りを開いてしまったロボットが修験者に説教を始め、自分は何者なのかと仏の前にひれ伏す。それを故障として「回収・解体」しようとする修理業者のエンジニアとロボットとの会話を中心とした哲学劇である。「人狼」とは全く異なるジャンルだが、「イノセンス」の押井を思わせる作風に脱帽した。そして「人狼」の舞台は2029年。「攻殻機動隊」1作目と時間を同じくしている。押井を、そして原作を尊敬しほぼ完璧なビジュアル化を手掛けながら、批判を恐れずに唯一書き変えたラストシーン。そこに今の韓国映画が訴えるものを見てほしい。

将来の終わり

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