酒好き酔っといで~ しなの鉄道「ろくもん」に新コース、信州の冬を楽しむ飲んべえ列車!:月刊乗り鉄話題(2018年11月版)(1/3 ページ)
ほろ酔い、満腹、良い気分~。旨飯と女性杜氏さんのお酒で酔える「雪見酒の旅」に乗ってきた。真田幸村も(たぶん)びっくり。
長野県のしなの鉄道が、2019年1月から観光列車「ろくもん」(関連記事)の新コース「北信濃雪見酒プラン」「姨捨夜景と利き酒プラン」を運行します。その試乗会が10月24日に開催されました。私はお酒に弱いけれど「ろくもん」が大好き。もちろん参加してきました。
しなの鉄道は、軽井沢~篠ノ井間の「しなの鉄道線」と、長野~妙高高原間の「北しなの線」を運行しています。どちらも北陸新幹線の並行在来線だった信越本線の区間です。
「しなの鉄道線」は北陸新幹線が長野行き新幹線として開業した1988年にJR東日本から継承しました。列車はJR東日本区間の篠ノ井~長野間に直通して、ほとんどの列車が長野駅発着です。もう1つの「北しなの線」は2015年の北陸新幹線金沢延伸開業時(関連記事)にJR東日本から継承しました。
しなの鉄道の保有車両は国鉄時代に製造された115系電車です。JR東日本から譲受したときに同社のオリジナルカラーに塗装されましたが、最近は国鉄時代の「湘南色」「横須賀色」などのリバイバル塗装を実施しています(関連記事)。11月15日からは台湾鉄路管理局と締結した「友好協定」による交流事業の一環として、台湾鉄路管理局の車両「EMU100型電車」をイメージした塗色も加わるなど、鉄道ファンを喜ばせています。
ろくもんは、しなの鉄道が2014年7月から運行している観光列車です。列車名は信州出身の戦国武将、真田幸村の旗印「六文銭」に由来します。車両は列車デザインの第一人者、水戸岡鋭治氏が手掛けました。
115系電車の内外装をリフォームして、外観は真田幸村の「赤備え」をイメージした濃い赤に金色で「六文銭」「結び雁金」「州浜」の模様を入れています。内装も水戸岡氏が得意とする難燃化木材を使って大幅に変更されました。長野県産の床、椅子、テーブルなどに長野県産の木材を使った和モダンのしつらえです。
しなの鉄道はろくもんを、長野~軽井沢間を中心に金曜から月曜まで運行しています。食事付きプランと乗車のみのプランがあります。
食事付きプランは洋食コースを提供する「ろくもん1号 軽井沢 長野コース」、懐石料理を提供する「ろくもん2号 長野 軽井沢コース」、信州ゆかりのワインと料理を楽しむ「信州プレミアムワインプラン ろくもん3号 軽井沢 長野コース」があります。不定期で特別企画「姨捨ナイトクルーズ」もあります。
これまで、これらの列車は全て「しなの鉄道線」つまり、長野駅から南側の運行でした。しかし2019年はさらにファン待望の新コースが加わります。今回の試乗では、長野駅より北側の「北しなの線」のうち、長野~黒姫間を運行しました。長野駅を13時46分に発車して、約1時間の走行で黒姫駅着。約30分の休憩の後、長野駅に16時15分に戻る行程です。
試乗会が行われたのは初秋。しかし実際の運行日は真冬です。雪の深い地域とのことで、雪見酒列車になります。晴れていれば信濃富士とも呼ばれる黒姫山も臨めることでしょう。では乗車します。
沿線の女性杜氏が競演
乗車すると、座席はテーブルセッティング済み。重箱に酒肴が整えられていました。
お水とリンゴジュース2本、ブルーベリージュースが1本。日本酒をいただくときは水分を補給してほしいという配慮でしょう。そして、アテンダントさんが足のないワイングラスと小さなグラスを置いていきます。列車の中とは思えないシャレた空間です。
最初のお酒はワイングラスの方に注がれます。あれ、今回は「北信濃雪見酒プラン」の試乗。日本酒がテーマのはずでは……?
「こちらはボー・ミッシェルといいます。ライスワインと呼ばれています」
なんとこれは、お米で作られたワイン! いや、日本酒? 含んでみると、スッキリとした甘み。本当に白ワインみたい。でも原料は米と米麹だけ。アルコール度数は9%。日本酒のアルコール度数は15%前後だそうで、ちょっと低め。なるほど、ボー・ミッシェルはワインに近い新体験の飲み物でした。佐久市・伴野酒造さんの作品だそうです。
長野県は約80の酒蔵があります。新潟県に次いで全国で2番目の数。また、長野県には女性の杜氏が7人もいらっしゃるそうです。他県は1人か2人とのことなので、とても多い。そこで「北信濃雪見酒プラン」では、ろくもん沿線の6人の女性杜氏にフォーカスしました。
自分の席で待っていればアテンダントさんが次のお酒を持って注いで回ってくださるのですが、筆者はあえて展示している場所へ飲み比べに行ってみました。
お酒のコーディネーターは長野の地酒専門店、宮島酒店の店主で利き酒士の宮島国彦さん。お酒を注いでくれたのは……あ、しなの鉄道の社長、玉木淳さん! うわ、恐縮です。いただきます。
しなの鉄道の玉木淳社長(右) 玉木社長「ろくもんはこれまでも季節によってメニューを変えていました。夏には鰻、秋には栗ごはんという感じです。でも、とくに季節感をアピールしなかったんです。これからは季節ごとの特色を出していきたいですね。長野の冬は寒いですけど、ろくもんは温かですよ」
では飲み比べしてみましょう。
「川中島幻舞」は、長野県最古の酒蔵・酒千蔵野さんが造りました。2000年に長野県初の女性杜氏が就任したそうです。最古にして最初。伝統と新取の気鋭。県内の女性杜氏誕生に影響を与えました。純米吟醸の無ろ過生原酒。フルーティな香り。とろみのなかにスッキリとした甘みを感じるお酒でした。
「豊賀」は小布施町の高沢酒造さんから。純米吟醸の火入れ原酒です。小布施は栗菓子で有名なところですね。もちろん栗ではなく、美山錦という酒米で作られています。ごはんを長く噛んでいると出てくるような優しい甘味を目指したといいます。
私は早食いで、ごはんを甘くなるまで噛みません。でも、とてもおいしいおにぎりを頬張ったような風味を感じた……気がしました。これからはごはんをよくかんで食べることにしよう。
「十九」は長野市の尾澤酒造場さんが作った純米吟醸、無ろ過生原酒です。長野県で最も小規模な酒蔵とされ、1年間で1升瓶100本しか作れないそうです。とても希少な銘柄です。
十九の名前は「一人前の二十歳の手前の未熟者、お客さまの一杯を加えて二十歳の一人前にしてほしい」という思いで付けたのだそうです。ちなみにお店は国道19号線沿いにあるそうです。こちらは辛口のスッキリクッキリという印象。甘みのあるお酒との違いが、ふだんは飲まない私にもハッキリと分かります。飲み比べは面白いですね。
隣の車両にも3種類のお酒がありました。しなの鉄道でただ1人、利き酒士の資格を持つ女性社員さんからお話とお酒をいただきます。
「浅間嶽」は小諸市の大塚酒造さんが作った純米吟醸の火入れ酒。酒の香りは穏やかで、スッキリした飲み心地。しかし味はしっかりしています。私のように日本酒に飲み慣れていない人は、このお酒から始めるといいかもしれません。お酒に強い人はどんどんいけちゃうかな。
このお酒を造った杜氏さんは20代。女性杜氏では最年少とのことです。そう聞くとますますフレッシュな気がしてます。あへあへ、かなり酔ってきたかも。
「信州亀齢」は上田市の岡崎酒造さんから。蔵元の三姉妹の末っ子が杜氏に、お婿さんが蔵人になってから評判が高まり、2015年の関東信越国税局酒類鑑評会で金賞を取りました。でも、ほとんど流通することのないお酒で希少。宮島さんのお誘いならばと「ろくもん」に入れてくれたとのこと。うれしいですね。
味わいは穏やかな香りでほんのり甘め、しかしのどを過ぎると後味さわやか。食事に合うお酒だそうです。えぇ、そうかもしれらいれすれぇ(訳:そうかもしれないですね)。
「月吉野」は上田市の若林酒造さんから。上田電鉄別所線の仲間の駅付近にあるそうです。この酒蔵は、洋酒ブームの頃に日本酒の自社製造をやめていたところ、娘さんが「せっかく設備があるのにもったいない」と奮起して杜氏になりました。50年ぶりに日本酒製造を復活したのです。
ひらがなを大胆に配したラベルも女性杜氏自らがデザインしたとのこと。特別純米、火入れ原酒は、スッキリとしてちょっと辛口。のどの奥からフワリと甘みのある香りがきます。前述した利き酒士アテンダントさんによると、この女性杜氏さんはイケイケノリノリなタイプだそうです。あれ、それはここだけの話だったっけ。まーいいや。よっぱらっていておぼえてないや。
酒米は浅間嶽が「ひとごこち」、月吉野は「ひとごこち」と「美山錦」。ほか4種類は「美山錦」でした。どちらも長野県で開発されたお米。長野の米、長野の水で造られたお酒なんですね。
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