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「天才とはイっちゃってる人」「プロは思考を言語化しない」 『アオアシ』小林有吾×棋士・広瀬章人が語る、自分の世界を広げる方法(3/6 ページ)

将棋とサッカーと漫画、ジャンルを飛び越えて「世界を広げる方法」を探る。

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言語化能力と感覚

――アオアシには、先ほど小林さんが言われていた「言語化能力」というのが一つのテーマとして出てきます。プレイ中に考えていた内容を、常に言葉にすることを監督やコーチから求められる。

小林:最初の担当編集さんの影響ですね。その人は、思っている全てのことを、曖昧なままにせずに言葉にする人だったんです。

 アオアシが、選手だけじゃなく指導者側のことも描く作品であるとすれば、僕は「こう教えたから急にチームが強くなった」というのは、いかに漫画の中だといってもちょっと違和感があって。

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 やっぱり、なんで強くなったかっていうのを言葉として当てはめていかないと。そしてそれは実際、「当てはめられる」んですよね。だから、自分が(漫画家として)通ってきた道、教えてくれた人たちの影響があって、もし自分が教えるとしたらこういう風に言うだろう、ということを考えながら描いています。

――取材の中で実際の選手たちと触れ合って、気づいたことはありますか?

小林:取材した選手たち、みんなめちゃくちゃ考えてて、めちゃくちゃサッカーを愛してて。試合中も、「偶然あそこに立ってる選手はいないんだ」って思いながら見るようになりました。

 後からプレイを見ながら解説してもらうんですけど、エグいくらいみんな考えてるんですよ。あのスピードで。そんなこと考えながらできるんですか? って思って。頭脳戦をしながら曲芸をやってるような感じなので。ちなみに将棋って言語化とかは……?

広瀬:将棋でいうと、感想戦などで読み筋を披露するということなのかなと思いますが、難しいですよね。プロ同士だとあんまり細かく言わなくても、数手後のこの局面がどうなのかっていうのは分かっちゃうので、言語化する必要がないんですよ。

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 もちろん新聞などの観戦記者の方のために言語化することはありますけど、むしろ(レベルが高くなる)プロのほうが言語化するというのは少ないと思いますね。

――アオアシでは、BチームからAチームに昇格したアシトが、凄まじいスピードでパス回しをする先輩たちを見て、「(言語化して)考えてなんかなくねえか?」と気づくシーンが出てきます。

広瀬:そうですね。プロ棋士は、Aチームの集まりってことなのかもしれないですね(笑)。

小林:だから、そこまでいくと必要なくなるんですよね。でも言語化するっていうのは、育成の段階では間違いなく必要なことだと思います。中には最初からずーっと感覚で行ける人もいるんですけど、それは一握りのすごい人。安定した実力を身に着けるためには、やっぱり言葉としてストックしていったほうが良いのかな、と。

 ちなみに漫画家だと、『ボールルームへようこそ』を描いている竹内友先生とか、『恋は雨上がりのように』の眉月じゅん先生なんかは、その“一握りのすごい人”で、完全に感性の人だと思ってます。広瀬さんは理論派と感覚派、どちらですか?

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広瀬:昔は感覚派だったんですけど……いや、今でもそうですね。コテコテの理論派ではなく。でも、その感覚も棋士によって微妙に違うので、だから勝敗を分けるのはそういうところなんだと思いますね。感覚のちょっとした違い。

小林:『将棋の渡辺くん』(※)を読んだら、渡辺明さんは理論派と書かれていたんですけど、そうなんですか?

将棋の渡辺くん

広瀬八段とも親交の深い、プロ棋士の渡辺明棋王の日常を描いた漫画。作者は渡辺棋王の妻である伊奈めぐみさん。

広瀬:渡辺さんは典型的な理論派です!

小林:そうなんだ、理論派と感覚派。……それは話……合うんですか?

広瀬:(笑)。普段、棋士同士はあんまり将棋の話はしないんですよ。トッププロ同士では特に。「こないだのタイトル戦、こうだったねー」くらいはちらっと話したりしますけど。ある(盤面の)テーマ図を基に議論する、みたいなことは若手同士のほうがやってると思います。

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――言語化と言えば、棋士の方って文章がお上手な方が多いですよね。

広瀬:戦術書とエッセイなんかではまた全然違うと思いますが、自分の考えを人に説明するのには慣れてる人が多いかもしれないですね。

――アオアシも、絵の迫力だけでなく、セリフ回しが素晴らしいと感じることが多々あります。

小林:自分の理想のネームは、絵が入ってなくても文字だけで面白いと思えるもの。そういう意味で自分の作品は、文章の比重が大きいのかもしれないです。

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