連載

水族館デート、このまま終わらなければいいのに 「やがて君になる」13話(1/2 ページ)

でも終わりはくるんだなあ。

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(C)2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作アニメは、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。

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今までのあらすじ

 超完璧優等生に見えて、実は頑張りすぎている部分がある七海燈子。後輩の小糸侑(ゆう)は彼女の支えになろうと考えて、生徒会を手伝うことになった。燈子は生徒会職務を忙しくこなすかたわら、侑と2人きりだと甘えっぱなし。激しくキスを求めたりと、少々暴走気味。

 侑はそれが嫌ではなく、むしろ心地良いと感じていた。ただ彼女は「私を好きにならないで」という燈子の願いに、縛られ続けてしまう。

 死んだ姉のように立派になりたいと願う燈子は、生徒会劇を完成させようと努力していた。ところが練習合宿の日、かつての姉を知る人から、姉と燈子は似ていないといわれ、困惑。侑は燈子の様子を見かねて、自分の家に誘う。ベッドでキスをしながら、燈子は「侑は私のこと好きにならないでね?」と再確認してきた。

燈子の哲学

 燈子と侑は「人を特別に思う」という感情を通じて、自己のありかたについて考える域に達しています。これって哲学じゃない?

燈子が難しいこと言ってる(5巻P55)

 侑から誘った水族館デート。イルカのショーで思いっきり水を浴びるなどしてはしゃいだ後、唐突に燈子が言います。

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 燈子「侑が好き」

 侑「……先輩ってよくそんなさらっと好き……とかいえますよね」

 もう散々言っているので、侑も揺らいだ顔は見せていません。

 燈子の「好き」は、文字通り侑への思い。ただ、彼女がわざわざ言葉にするのは、安心したいかららしい。

 燈子「ほかが全部にせものでも 侑のこと好きな部分は私だって言い切れる だから安心 かな」

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 燈子は、優等生を貫いて姉のようにならなければいけない、という思いと、そうしている自分への嫌悪、弱くて甘えてしまう自分、さまざまな主観と客観入り乱れて、自我を見失っていました。

 侑に出会い、恋をした燈子。自分の人格やありかたが今はわからないけれども、「侑が好き」という操作できない感情で、自分自身の真の自己を確認できる、という思考です。

 「我思う故に我あり」的感覚っぽいですが、侑に対しての依存がかなり大きめ。侑がいることで一筋の光があるとはいえ、いなくなったらまた自分を見失ってしまうような状況。これでは、いつまでたっても迷走が収まらない。侑の気持ちを考える余裕すらない。

 侑はその点、ちぐはぐな燈子の考え方に対して「矛盾しててもいいんじゃないですか べつに」と、客観的な考え方を持っています。肯定も否定もしていないのがミソ。

その手を握りしめて

 今回の水族館デート、リードしているのは完全に侑。動きがまるで王子様。楽しそうに笑う燈子はお姫様。今回は特に意図的に侑が、燈子の突破口を作るべく動いているので、なおのこと2人の関係が強調されています。

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デートというより、姉妹のよう(5巻P60~61)

 水槽の廊下を歩いているシーンは、完全に侑が燈子を引っ張っている形。しっかりと手を握って、導いているのが印象的です。そしてこの侑の顔! 王子!

このマンガの表紙はどれもこれも象徴的(5巻表紙)

 5巻の表紙が、別アングルになっています。侑は笑顔で、前に進むために手を力強く差し出しています。燈子は散々触れてきたはずなのに、ここでは侑に触れるのをちょっとためらっている。

 マンガ本編だと侑がガシッと燈子の手をつかんでいるので、行動の表現はちょっと異なっています。表紙の方は、自ら一歩踏み出そうとしている、燈子の心象風景に近いのかも。

変わることは失うこと

表情の入れ替わりが細かい(5巻P62)

 もっとも侑は、本当に王子様なわけではない。燈子が笑顔になっていくのと逆に、侑からは笑顔が消えていきます。

 侑は、燈子が自身を好きになってほしい、変わってほしいと願っています。でも変化するということは、何かを失い、時に痛みを伴うもの。侑はいろいろな読み取り方のできる、なんとも複雑な表情を浮かべます。燈子が変わるとして、侑は自分の感情をどうするつもりなのか、今のところ形にできていません。

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ここは人生の乗り換え地点(5巻P66)

 帰りの電車で、寝てしまった燈子を侑が起こすシーン。

 侑「このまま起こさないのも悪くなさそうだけど」

 燈子が侑の肩にもたれかかって寝ている状況は、わりと幸せ。このまま続けばいいのに。

 侑が燈子を起こす時、何かを決意したかのような表情になっています。電車を乗り換えるために、心地よさを捨てて行動を起こさなければいけないのと同様、燈子が新しい道を歩むためには、思い切りが必要。

沙弥香を見ているとすごくつらい(5巻P33)

 対称的なのが、燈子のことを密かに好きな、親友の佐伯沙弥香の思考。

 燈子「私が話せるのは 私から見た姉だけだよ それが本当かはわからない」

 沙弥香「でもそれも間違いじゃない 燈子が見ていたお姉さんも お姉さんの一部に違いないと私は思うわ」

 ものすごく親切だし、言っていることは何も間違っていない。ただし今の彼女を肯定したことで、現状維持の意思を遠回しに伝えたことになっちゃっている。

 毎回ではありますが、特に今回は侑・燈子・沙弥香の結んだ口の表現がものすごく繊細なので、注目してみておきたいところです。

 アニメは今回で最終回。生徒会演劇はどうなるのか、燈子は自分を見つけられるのか、侑の気持ちはどこにいくのか……。続きはコミックを是非チェックしてください。かなりハラハラするところまで話は進んでいます。

 こうなるとアニメ二期を、原作が溜まったら期待したいところ。企画があるのかどうか全くわかりませんが、BDが売れたら続きが作られるかも……と祈るばかり。スタッフさんお願いします!

 電撃コミックスNEXTから、「やがて君になる 公式コミックアンソロジー」も発売されました。「新米姉妹のふたりごはん」の柊ゆたかや、「あの娘にキスと白百合を」の缶乃、「たとえとどかぬ糸だとしても」のtMnRなどそうそうたる百合作家らが集まっています。なお、「桜Trick」のタチは、ちゃんとキスしていて安心しました。

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