「違法ダウンロード」対象の全面化 弁護士ら87人が緊急声明 「海賊版対策を超える規制を求める声はどこにもない」
違法ダウンロードの対象の見直しについて、海賊版を規制・刑罰化するなら必要な範囲に限定すべきだと訴えています。
政府が違法ダウンロードの対象を“著作物全般”に拡大する方針を固めたことに対し、法研究者と弁護士ら87人と1団体が2月19日、共同で緊急声明を発表しました。対象範囲の見直しについては「慎重な議論を重ねるべき」とし、海賊版に対策するなら規制・刑罰化の対象を必要な範囲に限定すべきだと訴えています。
ダウンロードの違法化は、映像と音楽を対象に2012年に始まったもので、「違法にアップロードされたものと知りながらコンテンツをダウンロードする行為」に罰則が設けられました。このとき静止画とテキストは「影響範囲が大きすぎる」として対象外となりましたが、その後出版業界の要望や海賊版サイト問題を受け、静止画やテキストのダウンロード違法化を文化庁が検討。2018年10月から文化審議会著作権分科会小委員会が審議を重ねてきました。
しかし同委員会が12月の会議で「著作物の種類・分野による限定を行うことなく、広くダウンロード違法化の対象範囲に含めていくべき」という方針でまとめていたことが明らかに。日本マンガ学会が「一般ユーザーの萎縮を招き、研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となる」と反対声明を出すなど批判を集めていました。
さらに2019年2月13日の会議で、ダウンロード違法化の対象を漫画、小説、雑誌、写真、論文、コンピュータプログラムなど“著作物全般”へ拡大する方針が決定したと報じられ、「ネットの利用を萎縮させる」「誰が頼んだよ、こんなの…」など、ネットユーザーやクリエーターから新たな問題を懸念する声が相次いでいました。
今回の「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する緊急声明を出したのは、知的財産権の研究の第一人者である高倉成男氏(特許庁審判部長、明治大学知的財産法政策研究所長)、中山信弘氏(弁護士、東京大学名誉教授)、金子敏哉氏(明治大学法学部准教授)。賛同者は研究者や弁護士、ジャーナリストなど84人とクリエイティブ・コモンズ・ジャパン1団体です。
声明では同委員会の見直しについて、検討会議が3カ月で5回開催という異例のスピードで行われたこと、クリエイターやネットユーザーが海賊版対策を超える広範な規制を望んでいない現状をあげ、「拙速な法改正は、私的領域における情報収集の自由に対して過度の萎縮効果を及ぼすとともに、著作権制度の妥当性について国民の信頼を失わせるものともなりかねない」と提言。立法措置を図るのであればさらに慎重な議論を重ねることが必要だと訴えています。
“過度な萎縮”が懸念される情報収集とは、著作権者に深刻な経済的打撃を与えていないような、知的生産活動のために資料を収集・保存するダウンロード行為など。
違法にアップロードされた著作物とは原作をそのままコピーしたものばかりでなく、漫画の一コマだけを切り取った画像、書籍のうちごく短い数行の文章の転載などさまざまなものがあります。国民はこれらを情報収集やコミュニケーションの一環として、日常的にSNSやWebサイトでスクリーンショット撮影やコピー&ペースト、ダウンロードなどを行っていますが、現状の方針通り違法ダウンロードの対象が広がった場合、訴訟や刑罰を恐れてこれらの行為を控えてしまうことが懸念されます。
「海賊版対策を超える広範な規制を求める声は我が国においてどこにもないと言わざるを得ない。政府は、こうした国民の声に耳を傾け、『誰のための法改正か』を十分に考える必要がある」(補足資料「『ダウンロード違法化の対象範囲』の具体的制度設計のあり方について」より)
また声明では、実効的な海賊版対策を早急に実現するために2019年の法改正に向け検討を進めるのであれば、「あくまで被害が深刻な海賊版への対策に必要な範囲に限定されるべき」とも主張。少なくとも民事的規制・刑事罰ともに「原作のまま」および「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」の要件を定めることが必要であり、刑事罰については「さらに悪質な行為に限定する等の謙抑的な対応が求められる」としています。
声明文の全文は、明治大学知的財産法政策研究所の公式サイトなどで公開中です。
(黒木貴啓)
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