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この10年間で“歌い手”という存在はどう変わったのか 歌い手「そらる」に聞く“歌ってみた”の可能性歌い手「そらる」インタビュー

10代・20代から圧倒的な支持を集める“歌い手”、そらるさんにインタビュー! 「歌い手を始めたきっかけ」「歌手との違い」「顔を隠す理由」など、徹底的に聞きました。

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 「歌い手」とは、主に既存の曲に自分の歌を載せた動画を投稿する人たちのこと。活動場所はニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトが中心で、最近では短めの動画をTwitterに投稿する人も増えています。またこれらの活動を指す「歌ってみた」という言葉は、動画のカテゴリやタグ付けなどにも使われます。

 元々は歌い手のほとんどが、個人で活動するアマチュアシンガーでした。しかし今やメジャーデビューを果たす人も珍しくなくなり、武道館や幕張メッセ、埼玉スーパーアリーナでワンマンライブをする人まで出てきています。ボカロ(=ボーカロイド)やSNS、YouTuberなどさまざまなムーブメントを推進力にしながら拡大を続け、もはやプロの音楽業界も無視できない存在となった歌い手。NHKやYahoo!ニュース 特集でも取り上げられ、その認知度は急激に高まっています。

 もともとは趣味や同人活動の範囲内で盛り上がっていた「歌ってみた」の世界は、どのようにしてここまで発展したのでしょうか。今回は歌い手の最前線でシーンを牽引する存在であり、3月6日にニューシングルの発売を控えたそらるさんにインタビューを行いました。

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3月6日発売のニューシングル「ユーリカ」(通常版)
初回限定盤A(左)と初回限定版B(右)にはそれぞれ異なる特典が付属

そらる(@soraruru

初投稿は2008年。投稿動画の総再生数は2億回を突破、Twitterのフォロワー数は128万を超える大人気の歌い手。2017年、横浜アリーナ単独ライブを開催。今年3月6日にはシングル「ユーリカ」(ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」OP)をリリース予定、自身で作詞作曲も担当している。さらに同じく歌い手でありマルチクリエイターのまふまふとのユニット「After the Rain」ではアルバム「イザナワレトラベラー」がオリコン週間ランキング2位を獲得、ゴールドディスク受賞。5月3日公開の映画「賭ケグルイ」では、まふまふと共作の主題歌を歌う。

歌手と歌い手の違いって?

――初めて歌い手を見るときって、やっぱり「歌手やアーティストとどう違うの?」という疑問が浮かぶと思うんです。こちらについてそらるさんのお考えを伺えますか?

そらる:基本的にはボカロ曲やポップスのカバーや、二次創作としての歌を中心にやっていることが歌手との違いだと思います。もともと「歌い手」という言葉自体、「歌手ではない」「そんなに大それたものではない」という意味で使われ始めたんですが、もはや忘れ去られていますね。最近は、やっていること自体はメジャーで活躍している人とそんなに変わらない人も増えてきたかなと思います。ただその中でも、動画投稿や、配信などが活動の根幹にあるのは変わっていない人が多い印象です。

――歌い手を取り上げるメディアや記事を見ていると、名前の前に「歌い手」とつくこともあれば「アーティスト」「ボーカリスト」とつくこともあって、まだまだカテゴライズに悩む存在なのかなと思います。

そらる:自分自身も「アーティスト」とか「シンガーソングライター」とか、いろんな呼び方で呼ばれるようになりました。別に何と呼ばれても良いですが、大切なのは何ができるか、何をするか。むしろ歌い手の中では曲も自分で作って動画も作って、歌ももちろん自分で歌って、さらにミックスやマスタリングまで自分で、という人もいますし、ダンスや声優に挑戦している人たちもいる。本当に多岐にわたって活躍する人が増えていて、それは良いことだなと思います。そういう風にいろんなシーンで活躍する人は、これからも増えていくんじゃないかなと。

――「顔を出さない」のも、歌い手の大きな特徴かと思います。そらるさんも新曲「ユーリカ」のMVで「ほとんど顔出し」と話題になりましたが、SNSやインタビューなどでもまだ顔の一部または全てを隠す方が多いですよね。

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そらる:そうですね、もはや出してる人も結構いますけど。自分が出さなかった理由としては、最初はアーティスト的な仕事をしていくつもりがなかったからなんです。いつかは歌い手活動を辞めると思っていたので、その後普通に就職したとして「お前、昔そらるって名前で活動してただろ」とか言われるのは嫌だなと思って出していませんでした(笑)。

 でもその後、まふまふとユニットを組んだことや自分自身の活動規模が大きくなったことで、音楽が生活の大半を占めるようになって。「これはもうやるしかない」「自分は音楽をやって生きていくんだ」と思うようになったんです。だから顔を出さない理由はもはやないといえばないんですが、でもここまで出さずにやってきたのにあえて出す意味もなくて……悩んでいる部分ではありますね。イケメンに生まれていたら出していたかもしれません。

3月10日からは10周年記念ツアー「SORARU LIVE TOUR 2019 -10th Anniversary Parade-」もスタート

――歌い手は仕事や学校と並行して活動していることが多いぶん、“身バレ”のリスクがあるんですね。

そらる:そもそも僕が活動を始めた当時のネットって、今のように顔を出したりするのが当たり前じゃなかったんですよ。それどころか個人情報を知られること自体がすごく怖いことでした。最近はYouTubeとかTikTokとかでみんな当たり前のように顔を出しますけど、当時はもっと怖いものだったので、顔を出すだけで広まったり悪用されたりする恐れがあって。だから当たり前のように出していなかった感じですね。周りにも、当時から顔を出していた人は少なかったと思います。

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そらるさんが歌ってみたを始めた理由

――それでは、そらるさんが歌ってみたを始めたころのお話を伺えますでしょうか? 初投稿は2008年とのことでしたが……。

そらる:大学生になったときに初めてパソコンを手にして、ニコニコ動画を知りました。それまで音楽って大人たち、特にプロの人たちが集まって作っているものだと思っていたんです。でもニコニコ動画を見ていて個人で曲を作ったり、自由に歌ったりして楽しんでいる人たちがいると知って、自分もそれに混ざってみたいと思いました。正直、最初は「素人の歌なんて良いわけがない」という意識もあったんですけど、いざ聴いてみたらそれがすごく自由で、魅力的なものに感じたんですよね。

――今でこそ歌い手のなり方や機材・動画投稿について紹介する記事もたくさんありますが、当時はそんなに情報もなかったと思います。どのようにして勉強されたんでしょうか?

そらる:すでに活動していた歌い手さんのブログを読んだり、自分で調べたり……本当に手探りでした。1000円くらいの安いマイクをパソコンに直接つないで録音して、ニコニコ動画に投稿したのが最初でしたね。本当に何も知らない状態で始めました。

――当時歌ってみた活動を通して、将来的に音楽の仕事をしようという意識はあったんでしょうか?

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そらる:いや、当時は歌ってみた界隈の規模もすごく小さかったですし、「やってみたいならやってみよう」ぐらいの意識でした。今でこそ歌い手がCDを出したりライブをやったりするのも珍しくなくなっていますが、当時はそんなことをしている人はほぼゼロぐらいなもので。同人界隈はありましたが、「動画が伸びたらメジャーでどうこうしよう」なんて考えはありませんでしたね。だから純粋にただ「やってみたい」「聴いてもらえたら良いな」くらいの気持ち。むしろ「ここで人気になってライブをやるんだ」と考える人は、当時はいなかったんじゃないかな。

シーンの発展を振り返る

――歌ってみたの世界に商業の可能性が出てきたのはいつ頃だったんでしょうか?

そらる:いつだろう……自分が始めた当時は、マイリスト登録が10いかなくてもランキングに入れるぐらい狭い世界でした。そこから界隈全体でリスナーが少しずつ増えていって、CDを発売したりデビューをしたりする歌い手が出てきたんです。ちなみに始まったばかりのニコニコ動画は視聴者の大半が男性だったこともあって、女性の歌い手じゃないと伸びづらい文化でした。それがだんだん女性のリスナーも増えてきて、男性の歌い手も聴いてもらえるようになっていったという印象です。

――リスナーの年齢層も、ここ数年でかなり若くなっている気がします。

そらる:世の中的にネットが当たり前のものになっていったから、というのはあると思います。10年前って今と比べてネットはもうちょっとアングラなものだったし、みんなが当たり前に使っているものではなかった。通信制限とかの関係で、添付して送り合えるものもせいぜい写真くらい。それが携帯でも動画を撮れるようになって、今では中高生でも気軽に動画投稿ができる。TikTokもそうですし、なんなら小学生のYouTuberもいるような状態ですよね。

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 当時は動画を投稿するってすごくハードルの高いものだったし、そんなに多くの人が気軽にネットを見るわけでもないし、どちらかというとオタクっぽい遊び場だったと思うんです。昔って「ネットを使っている=オタク」っていうイメージがありませんでした? でも今はみんな使っていて当然、そういう風にネット全体の流れが変わってきたなと。

――他にも、歌ってみた界隈の発展を後押しした要素はありますか?

そらる:やっぱりボカロと一緒に大きくなってきた文化だと思います。ボカロ曲に興味を持った人が歌ってみたも聞いて。逆に歌ってみたが注目されたことで原曲のボカロが伸びて。そんな風に相互に作用して大きくなってきた文化じゃないかなと思います。

――確かにボカロ曲のヒット作を振り返っても、最初は機械らしい曲が多かったところにだんだんと人間も歌いやすい曲が増えていった、そんな変化もあるような気がします。

そらる:それは歌ってみたとの相互作用というより、単なる音楽の流行だったんじゃないかなと思います。例えばずっと早い曲ばかり聞いていると、そろそろ音数が少ないゆったりとした曲も聞きたいな、という風になるだろうし。バラードばっかりだったら今度はアップテンポな曲も聞きたいな、となるものだと思うんですよ。音楽業界にあるようなシーンとしての流行り廃りが、同じようにボカロをはじめとするネットの音楽シーンにもあったんじゃないかなと思います。次に流行る曲はやっぱり前とは少しずつ違ったものになっていくので。

歌ってみたの魅力とは

――いわゆる一般的な音楽と比べて、歌ってみたにはどんな魅力があると思いますか?

そらる1つの曲をいろんなボーカルで楽しめること。特にボカロは人間が歌うことを考えずに作っている曲も多くて、「こんな曲普通歌えないよ」というものなど、普段はなかなか耳にすることができないような歌も聞くことができます。

 あとは売ることを考えずに、好きな曲を好きなように歌えること。商業と違って価格や納期といった縛りにとらわれずに、無限に時間をかけて、自分の「好き」「楽しい」をそこに詰め込むことができるんです。

――歌い手一人ひとりの創意工夫ややりたいことをぎゅっと詰め込んだ歌、それらを楽しむこともできるんですね。

そらる:音楽って優劣じゃないと思うんです。厳密にはクオリティが高い低い、音が良い悪いというのは多少なりともありますけど、結局は好み。うまい歌が良い歌なわけでは決してないし、下手でも魅力的な歌が必ずある。そういうものを無限に探せるという魅力はありますね。

(了)

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