ニュース

卒業とはからだを売る魂の汚れない部分に触れること――大人の定義を教えて痛みを感じる光だけが君を救う光になる

今はまだこのままがいい、なんて。

advertisement

Illustration by ふせでぃ

 卒業式の胸の痛みを、
 愛おしいと思えるようになることが、
 大人になるということであるのなら、
 私はまだ、思春期を卒業しきれていないままだ。

 過去を振り返る、
 或いは時間を遡ると云う行為に対して
 「弱い」とか「後ろ向きだ」とか野次を飛ばす人間が
 意外と多いこの世の中だが、
 しかしその誘惑には誰一人として逆らえないと、
 むかしとある作家は述べたが、

 その考えは、
 半分だけ正しく、
 半分だけ間違っている。

advertisement

 過去を振り返り、
 決して取り戻せないものを愛おしい、
 と感じることは、痛みと表裏一体で存在する、
 世界の生々しさを奪っている。

 失われた過去を美化することによって、
 退屈で怠惰で報われない日常を肯定し、
 閉ざされた可能性に想いを馳せる、
 そんな「誘惑」は、
 偽物以外の何者でもなくて、
 本当の胸の痛みを感じる機会を、
 奪っている。

 それは初恋を諦めるときの感覚に似ている。
 それは初体験に幻滅するときの清々しさに似ている。

 大人の定義は、
 セックスを覚えることでも、
 年齢を重ねることでも、
 過去を美化することでも、
 みずみずしかった肌がグズグズに爛れていくのを、
 諦めや虚しさとともに眺めることではなくて、

 汚れた自分を肯定する勇気をもつ心のなかにある。

advertisement

 世界の美しさを信じること。
 世界の美しさを信じて傷だらけの手をのばすこと。

 醜さのなかに、
 一見すると汚れた都市の掃き溜めのなかに、
 時給でからだを売って汚れていく魂の、
 決して汚れない部分に、触れること。

 それが甘い疼きにも似た胸の痛みをかかえながら、
 大人に近づくことではないだろうか。

 世界は残酷で美しく、それでも大人になりきれない私は美しい。

 そんな風に人の目を見て言える、
 そんな私に、私はなりたい。

advertisement

 

 

 ―鏡征爾

         ずっと 仲良し だよ

(Illustration by ふせでぃ/Novel by 鏡征爾

痛みを感じる光だけが君を救う光になる

第2回:散る花は朽ちる花より美しい――きみは、完璧な存在

advertisement

第1回:初めて誰かを愛して、初めて憎んだ<前半>/<後半

ふせでぃ

イラストレーター・漫画家。

武蔵野美術大学テキスタイルデザイン専攻を卒業。

現代の女の子たちの日常や葛藤を描いた恋愛短編集『君の腕の中は世界一あたたかい場所』(KADOKAWA)は発売即重版が決定。

最新作――『今日が地獄になるかは君次第だけど救ってくれるのも君だから』(KADOKAWA)

SNS:TwitterInstagram

東京(3月8日〜13日)、大阪(3月23〜24日)に個展「さよならの言葉が痛くなくなるおまじない」を開催

鏡征爾

小説家。

白の断章』が講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。イラストも務める。

ほか『群像』や『ユリイカ』など。東京大学大学院博士課程在籍中。魚座の左利き。

最近の好きはまふまふスタンプと独歩。

SNS:TwitterInstagram

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  4. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  7. 高2のとき、留学先のクラスで出会った2人が結婚し…… 米国人夫から日本人妻への「最高すぎる」サプライズが70万再生 「いいね100回くらい押したい」
  8. 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」
  9. 「2度とライブ来るな」とファン激怒 星街すいせい、“コンサート演出の紙吹雪”が「3万円で売買されてる」 高値転売が物議
  10. “膝まで伸びた草ボーボーの庭”をプロが手入れしたら…… 現れた“まさかの光景”に「誰が想像しただろう」「草刈機の魔法使いだ」と称賛の声