レビュー

「腐女子、うっかりゲイに告る。」腐女子とゲイは偏見を乗り越え理解し合えるのか?「世界を簡単にしたくない」腐女子の願いが響いた

「おっさんずラブ」+QUEEN+「黒子のバスケ」!? 話題性全乗っけスタート。

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 のっけから金子大地と谷原章介の特濃なベッドシーンでスタートして度肝を抜かれた、よるドラ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」(NHK総合・土曜23時30分~)第1話。

 冒頭のベッドシーンに乗せた「摩擦がゼロになる、空気抵抗がなくなる」というナレーションで、「まさか、男同士のまぐわいのメタファーか!? いっくらなんでも攻めすぎだろッ!」とザワついたが、まったく違う意味合いだった。

クラスメイトの女子がBL漫画を買っている現場を目撃してしまった男子はゲイだった イラスト/北村ヂン

第1話のあらすじ「普通」を手に入れたい

 高校3年生の安藤純(金子大地)はゲイで、一回り以上年上の恋人・佐々木誠(谷原章介)と付き合っている。誠が世間体をつくろうため、ゲイであるのに妻子をだまして結婚生活を続けているように、純も将来は家庭を持ち、世の中の男性が持つ「普通」を手に入れたいと考えていた。

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 純はある日、クラスメイトの三浦紗枝(藤野涼子)がBL漫画を買っている現場を目撃してしまう。中学時代、BL好きがバレて「三浦って気持ち悪かったんだね」と、友達を全部なくした経験のある紗枝は、このことを黙っているよう純に頼み込む。

 何だかんだで紗枝のペースに乗せられた純がBLイベントに連れて行かれたり、水族館デートに巻き込まれたりする中で、ふたりは急接近していく。

紗枝も純も、学校で見せる顔とは違う人間関係がある、双方は交差していく? イラスト/北村ヂン

世界を簡単にして分かったつもりになる

 ゲイのことをあくまで「非日常的な存在」として捉えている紗枝と、日常的におっさんに抱かれているが故に、BL漫画を読んでも「完全にファンタジー。はじめてなのに簡単に入って、メチャクチャ感じててさ……」なんて、くそリアルなことを言ってしまう純。ゲイと腐女子は近いようで遠い存在だ。

 BL自体には理解を示しつつも、「腐女子バレ」を極端に恐れる紗枝のことを不思議に思っていた純をたしなめたのは、チャット仲間であるミスター・ファーレンハイト(声・小野賢章)。純と同じように年上の彼氏がいて、しかもその恋人はHIV闘病中という、なかなかワケありの人物だ。

 「君がゲイぐらいバレてもいいと言われたらどうする?」

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 「単なる趣味と人生の根幹を支える性志向を一緒にしないでよ」

 「同じさ。真に恐れるべきは人間を簡単にする肩書きさ」

 物理の問題で「ただし摩擦はゼロとする」「空気抵抗を無視してよい」と計算を単純化してしまうように、人間は世界を簡単にして、自分が理解できないことを分かったつもりになるものだとファーレンハイトは主張する。

 単純化された世界で個人は「腐女子=気持ち悪い」「ゲイ=気持ち悪い」などと、肩書きや属性で判断され、それ以外の側面はないことになってしまうのだ。

 「『腐女子って面倒くさ~い』って顔してる」

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 「腐女子がみんな三浦さんみたいな子なわけじゃない。だから『腐女子めんどくさい』じゃないよ。『三浦さん面倒くさい』だよ」

 ファーレンハイトの話を受け、純は「腐女子の紗枝」ではなく、「腐女子という個性を持った紗枝」と向き合うようになる。

ゲイと腐女子の恋愛は成立するのか?

 一方の紗枝もBLが好きなだけに、同性愛者に対して理解ある態度を取っている。

 純の発した「ホモ」という言葉に対して、「軽々しくホモって言葉を使うのやめたほうがいいと思う」と注意したり、「現実のゲイなんて汚いんだし」と自虐的に言い放った純に「それは失礼だよ、現実のゲイの人に」と返したり。

 同性愛者に寛容な紗枝を見て「この子ならば自分の性志向のことを理解してくれるのでは?」と期待する純。自分のことを「腐女子」という属性で判断しない純が気になりだした紗枝。ものすごくいい雰囲気だ。

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 テンションが上がり過ぎた紗枝が、避雷針と雷、噴水と水、自転車のライトとペダル……などなど、無機物擬人化BLについて熱く語りだしたのには「無茶するな!」とは思ったが。

 ここまでくれば、どう考えても付き合うフラグなわけだが、純はゲイ。お互いに「好き」であることは間違いなさそうだが、純の「好き」は恋愛感情とは違う。「理解者になってくれるのでは?」という期待感からの「好き」だ。

 「もし、クラスの中に本当にそういうヤツ(ゲイ)がいたとしたら、三浦さんならどうする?」

 「どうしよう……まあ、ゲイなんて現実にそうそういないし」

 お互いの事を理解し合おうと前のめりになっているにも関わらず、根っこの部分では分かり合えないふたり。切ない!

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 「勘違いしちゃいけない。彼女が好きなのはBLであってボクではない」

純の恋人谷原章介、いろいろ特濃すぎてまいった! イラスト/北村ヂン

「おっさんずラブ」にQUEENに「黒子のバスケ」

 このドラマの原作は、小説投稿サイト「カクヨム」に掲載された浅原ナオトの小説「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」。原作では各章のタイトルにQUEENの曲名が付けられていたが、ドラマ内でも効果的に音楽が使われていた。

 主人公・純の好きな音楽もQUEEN、チャット仲間であるミスター・ファーレンハイトは、もちろんQUEENの曲「Don't Stop Me Now」の歌詞に登場する名前。着信音が「We Will Rock You」だったのにはさすがに笑ってしまった。

 ゲイの恋を扱った「おっさんずラブ」ブーム(金子大地も出演していた)。QUEENの「ボヘミアン・ラプソディー」ブーム。さらに、ミスター・ファーレンハイトの声優に「黒子のバスケ」の黒子テツヤ役・小野賢章をキャスティングするなど、狙ってなのか偶然なのか、話題性はバツグン。

 第2話以降、デリケートなテーマをどう扱っていくのか注目したい。

北村ヂン

文章からイラスト、漫画、映像まで、あの手この手でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうハイパーメディアライター

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