【展覧会ができるまで】まさかの借用料! 世界的美術作品を借りるにはいくらかかるのか?
モナリザとか、いくら払ったら借りられるんだろう。
日本では毎年多くの展覧会が開催されていますが、実はそれら展覧会の観客動員数は世界でも有数だということをご存じでしょうか。
『The Art Newspaper』というロンドンの専門誌の発表によると、2017年の“世界”展覧会入場者数ランキングは1日に1万1268人を動員した興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」(東京国立博物館)がなんと第1位。ほかにもトップテンまでに、日本の国立新美術館で開催された「ミュシャ展」と「草間彌生 わが永遠の魂」がそれぞれ3位と5位にランクインしています。
また美術手帖が発表している「2018年美術展覧会入場者数 TOP10」によると、2018年だけでも日本国内で30万人近い入場者を動員した展覧会がこれだけあったことが分かります。
仏像や絵巻物といった日本古来の美術はもちろんですが、展覧会として人気を博すのはやはり「印象派展」や「ゴッホ展」といった、高い評価が確立された海外の人気作品を集めた展覧会です。普段は国内で見ることのできない作品が集うだけあって、1枚の絵を見るためだけに美術展に訪れるような方もたくさんいます。
しかし、そういった海外の人気作品を、どうやって日本に集めて展示しているのでしょうか。莫大な借用料を海外の美術館に払っているのでしょうか。
今回は、そんな展覧会の裏側について解説します。
まずどうやって企画するの?
国立新美術館のような一部の例を除けば、多くの美術館はその美術館の収蔵品としてのコレクションを所蔵しています。これら収蔵品を展示した展覧会はその美術館の「常設展」であったり「コレクション展」と呼ばれます。それとは別に期間やテーマを定めて特別に催されるのが企画展です。
例えば何か企画展を開催しようとすると、1つの美術館のコレクションだけではテーマに沿った作品を十分に取そろえることは難しくなります。その場合には、日本または海外のほかの美術館、美術品を収集するコレクターなどから作品を借りてくる必要が生じます。
そうした作品貸し出しの交渉に加えて、「展示をどういった意義のあるものにするか」というコンセプトの設定、作品に合わせた展示環境の設計など、1つの美術展を実現するまでには多くの時間が必要になります。もちろん美術館によってそれにかかる時間には差がありますが、東京都・上野の国立西洋美術館の場合には、1つの美術展の開催まで平均しておよそ4年もの月日がかかるそうです。
さて、いくらかかるの?
貴重な絵画が並ぶ展覧会、どうしても気になるのはそこにかかるお金です。印象派の作品をはじめとして日本には毎年多くの貴重な美術品がやってきますが、そうした名画と呼ばれる作品を借りてくるのには、やはり莫大な借用料が必要になるのでしょうか。
この答えは実は「ノー」です。
借りる相手が公立の美術館である場合、作品の借用料はゼロ、つまりタダであるケースが多いです。それを聞くと「じゃあモナリザでも借りてきて家に飾ろうか」とでも思うかもしれませんが、そう都合よくいくものではありません。
借用料ではなく保険料がかかる
借用料がタダであるのは美術館が作品の持つ文化的価値を独占せずに、展覧会の際にはお互いに作品を貸し合おうという国際的な理解の下だからこそ成り立つルール。もし突然名画を借りようとしても、信頼がなければ取り合ってもくれません。
そして借用料自体ががタダであったとしても、作品を借りる際には莫大な「保険料」がかかることになります。名画と呼ばれる美術品の多くは代えの効かないものですから、万が一作品が破損や盗難にあった場合の修復費用・損害賠償金を保証する制度がどうしても必要になるのです。保険料率は国際的な事情に応じて変動しますが、近年ではテロや大規模な災害を理由として、作品評価額に対して約0.25%程度の保険料が課せられます。
例:《サルバトール・ムンディ》
2017年に美術品として過去最高額で落札された、レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる《サルバトール・ムンディ》を例にとって考えてみましょう。この作品はおよそ4億5000万ドル、日本円にして500億円超で落札されました。
落札額と評価額とは正確には異なるのですが、この価格から考えるともし《サルバトール・ムンディ》を借りてくるならば保険料だけで1億2500万円の費用がかかることになります。もっとも、このレベルを保証してくれる保険会社はそうそうないでしょうからあくまでもしもの話ですが。
ほかにも重要な作品の場合、美術品の輸送に立ち会ってその展示作業を監督する「クーリエ」と呼ばれる専門のスタッフを雇う必要もあります。保険料に関しては2011年以降、展示作品の総評価額が50億円以上であれば国からの補償が受けられるようにはなりましたが、これにまた別途で輸送費、展示会場の設営費、宣伝などの広報費もかかるわけですから、展覧会1つ開催するのには多大なお金が必要となります。
おわりに
費用もさることながら、美術館で働く学芸員や作品に関わる多くの人の力によってでき上がる展覧会。上野の森美術館の「フェルメール展」では作品がルイ・ヴィトンのトランクでやってきたことが話題になるなど、展示そのものだけでなくどのように展示ができあがるかにも物語はあります。
展覧会に足を運ぶ際には、目にした作品が自分の前にやってくるまでどんな道をたどったのか、ぜひ想像してみてください。
おまけ:展覧会に行こう!
さて、2019年5月26日まで、兵庫県立美術館で「不思議の国のアリス展」が開催中です。
『不思議の国のアリス』の挿絵をはじめ、世界中のあらゆるクリエイターが手がけた「アリス」に関する創作物など、たくさんの展示品があり、『不思議の国のアリス』の「不思議な魅力」を感じられる展覧会となっています。
こちらの展覧会で、筆者が所属するQuizKnockが「会場限定オフィシャルブック」「音声ガイド クイズ・バトル編」を制作いたしました。
7月からは長野県・松本市美術館で開催。今後も各都市を巡回、全7会場での開催となっております。ぜひ、お近くの会場に足を運んでください。
制作協力
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