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“メシ”を通して危険な相手を取材する 「ハイパーハードボイルドグルメリポート」と「ウシジマくん」が描く“ヤバいやつらの世界”(2/4 ページ)

「個人がSNSで訴えても届かない声を伝える力が、自分達にはあるじゃないですか」

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ロケ中は防弾チョッキ着用! 危ない目にあったらどうする?

――「ハイパー」のロケは、かなり危険に見えます。

真鍋: 衛生面に関しては抗生物質とか持ってけばある程度大丈夫じゃないですか。でも人に物を盗られたりするのって対処できないですよね。そういうのってどうしてるんですか?

上出: 言えない話もあるんですよ。ひた隠しにしてるのもあって。この番組やる前から何件かあるんですけど……。

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――書けそうなとこだとどんなことがあったんでしょうか……?

上出: リベリアのが一番分かりやすいですよね。もみくちゃにされてカメラぶんどられるっていう。

真鍋: ボールペン盗られてましたよね。

上出: びっくりしましたね。拍子抜けも甚だしいというか。

――リベリアのスピンオフでも脅されてましたよね。あれも、「自分だったら絶対帰るな」と思って見てたんですが。

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上出: 帰れないですよね、ああなったら。逃げるのが一番危ない。揉めそうになったら目を見てちゃんと喋らないとやられるっていう。でも走れる靴を履くことと身軽であることはいつも意識してて、あとはこっそり防弾チョッキ着てます。服の内側に着られるケブラーの薄いやつですけど。本当に撃たれたら骨は折れるけど、穴は開かない。刺されても一応大丈夫です。

リベリア国営放送局を訪れたときのこと(スピンオフより) (C)テレビ東京
精神力が求められる (C)テレビ東京

――どこで買った防弾チョッキなんですか?

上出: コロンビアです。コロンビアって銃社会で、えらい人はチョッキを常に着ていたいんですけど、ごついやつだとダサいじゃないですか。僕が持ってるのはミゲル・カバジェロ社のやつなんですけど、そこのはオシャレなんですよ。着てるのはインナーのタンクトップタイプで、これはオススメです。

真鍋: いくらくらいですか?

上出: 10万円しないくらいです。高いは高いですけど、大統領とかも着てて、かっこよく守れる。ダウンジャケットタイプのやつとかあるんですよ。

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――やっぱりそれって、現場で分厚い防弾チョッキを着てると距離ができちゃうっていうことなんでしょうか?

上出: そうですし、かっこ悪いからそんな自分を撮りたくない。自分だけ安全圏でいようっていうのが嫌ですね。

――真鍋さんは取材時に危ない目にあったりしたことはないんですか?

真鍋: 誰かの悪口をぽろっと言っちゃって「それ、どういうこと?」みたいなテンションになると本当にシャレにならないです。そこは気をつけてますね。

上出: ブン殴られることとかあるんですか?

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真鍋: それはないです。

上出: 胸ぐらつかまれることくらいは?

真鍋: 俺はないですけど、一緒に行った編集者が歌舞伎町で首根っこつかまれて引き摺り回されたことがありました。ヤクザの人がいろいろ喋ってるのに足と腕組んでるから態度が悪く見える。緊張してそうなったのが俺は分かるんだけど、相手はそう捉えないじゃないですか。ある格闘技団体の幹部の実家の近くで取材させてもらったことがあるんですけど、深い時間になると相手が話してる途中で寝ちゃったりして。一瞬でジュッ! とタバコの火を手に押し付けられて起こされてました。うわぁ! と思いました。

上出: 後から「お前こんなん描いてんじゃねえよ」って怒られることとかありました?

真鍋: 裏パチスロのことを描いた際、後で摘発されたグループがいて、それが俺のせいだっていうことになってて、ラブホテルの取材時にホテルのオーナーの人から「なんか探してるらしいよ」って言われたことはありましたね。

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――実際にそれで詰められたことは……。

真鍋: それは全然ないです。

――何か危険を避ける秘訣があるんですか?

真鍋: 紹介してもらうときに上の人からつないでもらうというのがありますね。下から行くと本当に大変なんで。

――紹介してくれた人の顔をつぶせない、ということになるんですね。

上出: ボスに話を通すと危険度は下がりますね。ただ「ハイパー」だと、上から行くと面白くなくなるというか。全部用意されてウエルカムになっちゃうんですね。それだとハラハラしない。

真鍋: 確かにヤカラ方面は上から紹介してもらいますが、生活保護やゲストハウスの取材だと立場を明かさずにやったりしますね。

長い人間関係を築く、真鍋昌平の取材術

――真鍋さんは事前の準備ってどうしてるんですか?

真鍋: 自分は割と長期間取材するから、1回で全部撮らなきゃいけないってことはないんですよ。一度付き合うようになったら何回も会って、友達も連れてきてもらうみたいな。

――しっかり人間関係を築く感じなんですね。

真鍋: 10年以上前に取材した人とまだ付き合いがあるパターンもありますよ。というか、縁を切らせてくれないんですよ(笑)! 人によっては表の人と付き会えない人もいるし。利害抜きで話聞いてくれる人がいなかったりする

――そういう人とはまず楽しく話すっていうのが大事になってくるんですね。

真鍋: 知り合って10周年記念で相手の実家に行って、親に紹介されたこともありました。通ってるラーメン屋とか八百屋でサイン書いて(笑)。あの人たちの道理だと、一番弱い部分を見せたら仲間だって感覚があるんですよね。家族がいる人は子どもを見せたら……とか。家族で会おうって言われたりするんですよ。腹を割ってる感があるんでしょうね。

――真鍋さんは取材対象から「飯食いに行くから来いよ!」って言われることもたくさんあると思うんですよね。

真鍋: そうですね……でもさすがに「この人めんどくさそうだな」って思ったらあまり関わらないようにしてます。ガサツで上からくるタイプの人とか、得になるところだけ取ろうとする人とか。こっちを取り込もうとする人もいるんですよね。それに寄ってっちゃうと危ない。

――取材相手と飯を食って、何か印象的なことはありましたか?

真鍋: ごちそうしたがる人が多いですね。ウナギ食ってから焼肉行こうとか(笑)。どっちかにしたい! 「おいしいです!」って食べるんですけど。

上出: 取材の現場って、半分は食事だったりするんじゃないですか?

真鍋: 話を聞くことが多いから飲むのは多いですね。それで仲良くなって、例えば金融屋さんだったら取り立てが見たいとか、債務者の人とのお金のやりとりが見たいっていう感じになっていく。

――でも、そういう現場に真鍋さんがいたら「この人誰ですか?」ってならないんですか?

真鍋: 何も言われないんですよ。お金借りにきた人は金融屋さんが怖いし、下手なこと言ってお金借りられなくなると困るから、ずっとけげんな感じでこっち見てるけど、特に何にも言われないです。

上出: そういうところに足を運んでるんですね。

真鍋: 一応行くようにしてます。ウソつく人が多いんですよね。こないだも南米から来た日本人でキャバクラの店長をやってるっていう人に会ったんです。そしたら「銃を突きつけられたことがある」みたいな武勇伝を語るんです。本人を見ると「本当にそんなことしてんのかな?」って感じの人なんですよ。

――ちょっと本当かどうか分からないですね……。

真鍋: でも事実だったとして、それを描けって言われても具体的な情報がないと無理ですよね。そのときにその人がどう思ったかとか、もっとディテールが知りたいんですよ。だからその人の友達に「本当にそんなことしたの?」みたいなことを誰も傷つかないように聞いて、本当かどうか調べますね。

――話を盛られている可能性があるんですね。

真鍋: 詐欺師とウソつきが多いんで。でもたとえウソでも面白かったら、それは真実として扱います。もともと俺が描いてるのはフィクションですし。でもディテールが凝ってないウソはつまんないじゃないですか。

細かく話を聞いて描いた強盗シーン(34巻収録)。取材相手はその後、強奪事件の犯人として逮捕され「テレビ画面越しで姿を見ることになった」とのこと (C)真鍋昌平/小学館

上出: そういう現場的なディテールもウシジマくんってたくさんあるんですけど、内面的なディテールというか、人の中身の描写がすさまじいじゃないですか。もう一回その人になりきってるとしか思えない。

真鍋: 初期に関していえば、例えばゲイの話だったら新宿二丁目に赴いて、実際に男の人とホテル行ったりとかしてました。その空気感を感じながら自分だったらどうかなって考えたりして。今はもう取材しながらどんどん描かないといけないから、そこまで余裕なくなっちゃったけど。

上出: ウシジマくんって15年やってたじゃないですか。自分の中でこれはいつものパターンだなって思うことはありませんでした?

真鍋: ありますよ。人倒すときに車で轢きがちとか(笑)。これ前にもやったな~っていう。人の心の描き方なんかも、癖がついちゃってるところはありますね。今は次の連載の準備中なんですけど、そのまんまやるべきか考えます。


車で倒す(C)真鍋昌平/小学館

上出: 難しいですよね。そのパターンが真鍋さんの色だったりするし、新しいことをやろうとしたら「今までの方がよかったのに!」と言われることも十分ありますよね。

真鍋: そのときは「帰ってきたウシジマくん」をやります(笑)。

――そうやって集めた情報の扱い方って、どういう風に気を使っていますか?

真鍋: 相手が今稼いでる内容については描くのをやめてます。そこで稼いでる人たちって、それが表立っちゃうと後々何か言ってくるかもなっていうのがあるんですよね。自分はジャーナリストみたいに新しい情報を提供するっていうより、その人たちの暮らしや葛藤にシフトを置いてるから、新しい情報を出すことには重点がないんです。

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