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映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」レビュー ゲームを、フィクションを、人生をここまで愚弄する作品を私は他に知らない(1/2 ページ)

ネタバレレビューです。

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 公開初日の六本木ヒルズ。ほぼ満員の客席、20代から30代と思しき方々がパンフレットを手に「ドラクエ映画」を談笑しながら待ちわびていた。

 「ビアンカとフローラどっちを選ぶのか」「どこまで忠実にドラクエができるんだろう」「ピエールは出るかな?」。本作はシリーズ屈指の名作でありながら、幼年期・青年期・その後と主人公の人生そのものを追体験するかたちで描かれる「V」の映画化ということもあり、観客、すなわちプレイヤーそれぞれの個人体験が根付いてしまっているような作品である。そのため公開前に語りたいことも多かっただろう。自分もその1人だ。

 「1時間40分でアニメ化するなら幼年期はほぼカットだろうな」とか、「ほぼダイジェストにはなるだろうけど、結婚には時間を割いてくれるんだろう。原作のこのネタがあったらうれしいな」という淡い期待を持ちながら(監督・脚本スタッフの名前にものすごく嫌な予感を抱えてはいたが)上映開始を待ち続けていた。そして映画が始まり、終わった。すべての客は動きを止め、静まりかえっていた。

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※以下、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」のネタバレを含みます

映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」は絶賛上映中

あさっての方向への説教

 既にご存じの方も多いと思う。本作では終盤も終盤、物語の全てをひっくり返す”超展開”がいきなり起こる。

 パパスの死、モンスターたちとの旅、ビアンカとの結婚、子供の誕生、母親の奪還――これら映画内の出来事はプレイヤーが体験しているVRゲーム版・ドラゴンクエストVの中での出来事であり、「ラスボス」であるコンピュータ・ウイルスによりゲーム画面(つまり作中時間)が完全に停止。主人公を除く主要キャラクターやダンジョンのテクスチャが剥がされ、「これはただのゲームだ。現実と向きあえ」といきなりあさっての方向への説教が始まるのだ。

 そして主人公と共に旅を続けてきたスラりんが突然「私はワクチンだ」と名乗り尻からロトの剣を出す。ゲーム世界での体験を肯定する主人公はウイルスに一太刀を浴びせ「ラスボス」を撃退。これはゲーム世界である、という記憶を持ったままゲームは花火と共にエンディングを迎え、「あなたの冒険は続く」というメッセージと共に映画は終了する。

 寄せられている多くの批判から分かるように、この“オチ”は受け入れられているとはいえない。なぜこのような結末になったのか。脚本の山崎貴は4年前からたびたび本作の映画化を持ちかけられ、「これぞというアイデアが出るまでは映画化はできない」と答えている。単にゲームの副読本になったり、ゲームのシナリオをなぞるだけの映画化であればやる必要がない、と。つまるところこのオチがその“かいしんのアイデア”であったわけだが、正直納得し難い。

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使い古された「かいしんのアイデア」

 まずは作中世界が非現実である、というオチ自体が全く珍しいものではない。近年の作品では「レゴ・ムービー」というレジェンド級の傑作の名がまず挙げられる。CGのクオリティーは言わずもがな、現実世界の子供の感情を元に製作されたレゴブロック・ワールドの危機と、現実の「おしごと大王(=ラスボス)」である父親との関係を描いた同作はレゴ=完成されたジオラマを飾るものでありながら、子供が好きなように知的創造を行う玩具であることの特徴を生かす巧みなつくりになっていた。

 フィクション世界と現実世界のメタ的な構造における争いに関していえば20年以上前、スーパーファミコン版ドラクエVの発売からわずか4カ月後に放送されたアニメ「勇者特急マイトガイン」が既にある。主人公が物語内のキャラクターと一体化し、「おはなし」、すなわち物語を肯定するというプロットは、原作読者からは悪名高い映画版「ネバーエンディングストーリー」が「V」の発売7年前に日本公開されており、権利者から訴えられるところまで先行されている。もしも製作陣が本作をして「今までになかった結末」と本気で考えているのであれば、それは傲慢か単なる無知だ。

 何よりこのオチは、「ドラクエ」となんの関係もない。ゲームが原作であろうとなかろうと、どんなフィクションに対しても使用することができる。好きな作品で思い浮かべてみるといいだろう。「これまでの全ては作り物だ」「それでもここまで進めてきた俺の気持ちは本物だ」というテンプレートを貼り付けるだけで、あっという間にあなただけの物語が完成する。2時間と1900円をドブに捨てる必要もなければ、不愉快な思いをすることもない。

ファンに甘えた構造的欠陥

 更にいえば本作には構造的な欠陥があげきれないほどある。批判されることが少ないドラクエ部分の描写についても同様だ。

 幼年期をまるまるカットしたことや娘が不在であるのは時間の都合上なんとか目をつむるとして、パパス=グランバニア王である設定をオミットするのであれば映画冒頭、スーパーファミコンでのオープニング・玉座のパパスを流す理由が分からない。しかし主人公の名前にはグランバニアの名が入ったままで、原作を知るファンほど混乱することになる。ファミコンドット文字、スーファミ文字が混在するオープニングにも首をひねらざるを得ない。

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 次に没入ゲームであるはずのプレイヤー視点では分かるはずがないシーンが多々あること。例えば占いババの正体や、石化している主人公が知る由もないゲマ側の動きなどである。これらの問題点はほんの少し脚本を見直し、工夫を入れれば即座に解決できるものだ。

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