「クッキークリッカー」ガチ勢に聞く、ババアと過ごした6年間 「クッキーを焼くのに感情っていらないんです」(2/2 ページ)
ブームが去ってなおクッキーを焼き続ける2人のガチ勢にインタビュー。
「楽しいとか、うれしいとか、もう感じない」
全力でゲームを楽しむプレイヤーがいる一方で、やり込みの果てにクッキークリッカーが日常と化してしまった人も。6年間にわたりクッキーを焼き続ける銅銭(@dosen601)さんです。
銅銭さん ただひたすら無感情にクッキーを焼いています。楽しいとか、うれしいとか、もう感じなくて。クッキーを焼くのに感情って要らないんですよ。
――では、なぜクッキーを焼き続けているのでしょうか?
銅銭さん 「焼き続ける」の定義が難しいですね……。僕の場合、常にゲームを起動してはいますが、張り付いてクリックしているわけではないので、能動的に「焼き続けている」という感じではないかもしれません。
まだクッキーを焼くのが心から楽しかったころ、クッキークリッカーのためにPCを自作したんです。このゲームって結構メモリを食うから、FPSみたいな重いタスクと同時に起動するのは難しくて……。どんな状況でもクッキーを焼けるように、16ギガのメモリを積みました。
だから常に起動しっぱなしでも全く邪魔にならないんですよね。焼いても焼かなくても一緒なら、焼いたほうがいいかなって。
――16ギガってガチの動画編集にも使えるレベルじゃないですか。当時はそれだけハマっていたということですか?
銅銭さん 楽しかったですね。1が10、10が100、千、万、億、兆、京……と、どんどん桁数が増えていって、気づけば見たこともない量のクッキーが焼き上がっている。数字を眺めているだけなのに、それが逆に新鮮でした。
クッキーを巡って母とケンカしたこともあります。クッキークリッカーには、虫の体内にクッキーを貯金するシステムがあるんですが、初期のバージョンではこの虫を無限に増やせたんです。おそらくバグなんですけど。
――ババアポカリプス中に発生するキモい虫ですよね。懐かしい。
ババアポカリプス:全宇宙のババアの思念が統合され、やがては肉体までもが1つに溶け合っていく状態。初期から存在したシステム。
ババアポカリプス中に発生するキモい虫(Wrinkler):せっかく増やしたクッキーを食べてしまう害虫。が、撃退することで食べた量以上のクッキーを獲得できる。
銅銭さん 頑張って200匹くらいの虫がクッキーに群がっている状態を作ったんですが、母がそのPCをシャットダウンしてしまって……。
――苦労が水の泡に……。
銅銭さん 思わず「なんで消したんだ!」と母を怒鳴りつけてしまいました。冷静になってすごく反省しましたね。
――改めてゲーム画面を見るとめちゃくちゃキモいですね。そりゃ消すだろうと思いました。
銅銭さん はい。でも、それくらい本気で楽しんでいたんです。
――それがなぜ現在のような心持ちに?
見たことのない数字が見たことのない数字に増えたあたりから、何のためにクッキーを焼いているのか分からなくなってしまって……。恒河沙(ごうがしゃ)が阿僧祇(あそうぎ)になったところで、何も感じないんですよね。
――先日ver2.019の実績をコンプリートした際は「苦節数年」とツイートしていましたが、これも特にうれしくはなかった……?
銅銭さん あ、それは久々にめっちゃうれしかったです! クリアに年単位で時間がかる実績もあって、その分達成感がありました。「作者は正気じゃないな」とは思いますが。
実は実績全解除を達成したのは初めてではないんです。アップデートで少しずつ増えていくんですけど、やっぱり一度コンプリートしたら次もコンプリートしたくなるじゃないですか。そういう一種の義務感で頑張っていたんですけど、今回は義務感だけじゃどうにもならないくらい大変だったので。うん。うれしかったですね。
――感情を取り戻したんですね。ちなみに、以前のバージョンで印象に残っている実績はありますか?
銅銭さん あー。「ゴールデンクッキーを7777枚クリックしろ」ですね。クッキークリッカーって基本的には放置ゲーなんですけど、たまに画面上に現れるゴールデンクッキーというアイテムだけは手動でクリックしなきゃ手に入らないんです。これを7777枚集めろと。
――めちゃくちゃキツい。
銅銭さん おっしゃる通り、めちゃくちゃキツいんです。だから最初は解除しても何も起こらない隠し実績だったんですよ。要は作者のジョークですね。
――あれ? でも今は普通に実績リストに載ってますよね?
銅銭さん 何年目かのアップデートで隠し要素じゃなくなったんです。いつの間にか「初期からのプレイヤーなら解除してるのが普通」みたいな状態になっちゃって。ああ、この苦行がジョークじゃなくなるくらい時間が経ったんだなぁ……と感慨深くなりました。
――ちなみに当時の銅銭さんは何枚持ってたんですか?
銅銭さん チートは使わずに3万枚くらいです。
――すごすぎる。そういえばクッキークリッカーはチートしやすいゲームと聞いたことがあります。
銅銭さん 「チート使うよ派」とか「チートはしないけど自動クリックツールは使うよ派」とか派閥がいくつかあって、僕は「チートもツールも使わない派」です。
べつにどれが偉いというつもりはなくて、自分に合うスタイルで遊ぶのが一番だと思います。僕の場合は、きっと一回でもチートを使ったら嫌になって辞めてしまう気がするんですよ。
「楽しくて続けているわけじゃない」とは言いましたが、それはクッキーを焼く行為が日常になってしまっただけで、今でもクッキークリッカーは好きなんです。息を吸うようにクッキーを焼いているというか。
――ありがとうございます。最後に、現在のバージョンの見どころを教えていただきたいです。
おそらくブーム期に辞めてしまった人は「反物質からクッキーを作る」で止まってると思うんですけど、その後「光をクッキーに変換する」「無からクッキーを生み出す」「クッキーを無限増殖させる」が使えるようになって、世界は完全にクッキーに飲み込まれました。
――すごいなあ。でも、さすがに「クッキーを無限増殖」以上の高効率って無いですよね。エンディング……?
銅銭さん ユーザーみんなそう思ってたんですよ。でも、最近のアップデートで「ゲームのコードを書き換えてクッキーを生み出す」装置が追加されて、素直に感動しました。
要素が増えるたびに「そろそろネタ切れだろ」って思うんですけど、次のアップデートではちゃんと新しい笑いを提供してくれる。作者のセンスを見届けるためにも、クッキーを焼き続けたいですね。
どんな豪華なRPGも本質は「数字」です。経験値を獲得してレベルを上げる、武器を強化して大ダメージを与える、スコアを増やしてランキングに入る。突き詰めれば「クッキーを焼く」行為とさして変わりません。
ゲームの快楽そのものを抽出したようなシステムに、鬼才・Orteilのセンスが散りばめられたクッキークリッカー。食べ始めたら止まらない素敵なチョコチップクッキーは、あなたに焼かれる日を今なお待ち続けているのです。
取材協力:Takuan(@Takuan_0922)さん、銅銭(@dosen601)さん
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