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「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が“全く別の新しい映画”になった理由 花澤香菜の声の催涙効果を見よ(1/2 ページ)

全く別の映画に生まれ変わった「この世界の片隅に」。

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 12月20日より公開されている「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が、とんでもない映画だった。

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 本作は2016年に公開され、絶賛の嵐で迎えられた「この世界の片隅に」に、250以上の新規カットを描き加えた“新作”だ。詳しい理由は後述するが、この作品に“エクステンデッドバージョン”や“ディレクターズカット版”という呼称は似合わない。掛け値なしで“全く別の新しい映画”と呼ぶにふさわしい内容になっている。

 結果的に「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の上映時間は、先行上映されていた2時間40分版からさらに伸び、2時間48分となった。2010年の「涼宮ハルヒの消失」の2時間42分も超えた、アニメーション映画としては破格の上映時間である。

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 そして同作が、その長い上映時間をかけた長い物語を劇場で体験してこその、唯一無二の幸福な体験ができる、新たなる大傑作であることを強く訴えておきたい。

 さらに、今回で初めて登場する、あるキャラクターを演じた人気声優の花澤香菜の声の催涙効果が、史上最強クラスとなっていたということもさらに強く強く訴えたい。花澤香菜のファンは明日地球が終わろうとも見てください(切実)。

 ここからは、2016年に公開された「この世界の片隅に」(以下、便宜上“2016年版”と記す)から何が変わり、どのような作品になっていったのか……その魅力を記していこう。

同じシーンでも意味が違って見える 遊郭の娘“リン”の存在

 「この世界の片隅に」は戦時下の困難の中にあっても、懸命に日々を生きていく人々の姿を丹念につづっていた作品だった。徹底的な時代考証が細部の描写にまで反映され、豊かな表情をつくるキャラクターみんなが愛らしく、“あの時代の生活”をリアルなものとして体験することができた。いくら褒めても褒め足りない、何度見ても新しい発見がある、後世にずっと伝わってほしい名作だった。

2016年版「この世界の片隅に」の予告編

 重要なのは、片渕須直監督が2016年版の時点で、それを“完全版”だと認識していたことだ。

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 その理由は、命題の1つであった「戦争を生きるリアルな空気感を伝えること」が存分に達成できたこと、そして「(こうの史代の原作マンガを)2時間前後の映画して成立できたから」と考えていたからだという。

 2016年版で片渕須直監督は、主人公の“すず”と、その義理の姉となる“径子”をメインストーリーに置くことを決めていたそうだ。その結果、原作マンガに登場していた遊郭の娘“リン”のエピソードはバッサリとカットされることになったのだが、そこには「中途半端にリンを描くと“添え物”のようになってしまうから」という考えもあったのだそうだ。

 つまり、2016年版でリンの存在がほんのわずかにしか描かれなかったのは、片渕須直監督が彼女を本当に大切に思っていることの証明でもあったのだ。

 そして、新たにつくられることになった「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、リンのエピソードがたっぷりと登場する。原作マンガを未読の方もいるだろうから詳細は伏せるが、リンとすずの関係性は親友どうしというだけでなく、複雑な愛憎が入り混じる、“オトナ”な印象も強くなっていくのだ。

 「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の新規シーンは約39分間、言い換えれば残りの2時間9分は2016年版から全く変わっていない“はず”なのだが、リンというキャラクターの存在により、すずの心情や、その行動の印象がガラリと変わっていく。

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 2016年版を既に見た人にとって(原作マンガを読んでいた人も)、これは衝撃的に感じるのではないだろうか。同じシーンのはずなのに、前後に挿入されたリンのエピソードのおかげで、そのシーンに内包されていた“意味”が全く異なって見えるのだから。これを唯一無二の映画体験と呼ばずに、何というのだろうか。

 事実、片渕須直監督も「これは“おまけ”でつけられる内容じゃない」「特典とかじゃ済まない内容になっている」などと強く訴えている。“本当に全く別の映画になった”ということ、もしくは“もう1つの完全版”を期待して、劇場に足を運んでほしいのだ。

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