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「パラサイト 半地下の家族」ネタバレなし全力レビュー 可及的速やかに映画館に行ってくださいと懇願するしかない5つの理由

ネタバレ厳禁の大傑作韓国映画「パラサイト 半地下の家族」の面白さがどこにあるのか、全力で解説しよう。

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 2020年1月10日より公開されている、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がすさまじすぎた。

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 本作については、まずはこのことをお願いするしかない。それは「絶対に面白いから! 内容はネタバレなしではほとんど何も言えないから! 最優先で今すぐ見に行ってくれ! 大傑作だから!」ということだ。

 ここまでの圧倒的な面白さとネタバレ厳禁ぶりは、あの「カメラを止めるな!」をもほうふつとさせる。楽しむためには予備知識は一切なくてもいいし、あらすじを読む必要すらない(むしろそのほうが良いくらいだ)。

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 その理由を大きく分ければ、(1)超高評価を獲得し特大ヒットもしているから、(2)監督直々にお達しが来るほどに本気でネタバレできない内容だから、(3)誰にとっても人ごとではない“格差社会”を描いているから、(4)あらゆるジャンルが詰め込まれていてエンタメとして超絶面白いから、(5)映画を“見終わった後”にもさらなる感動がある、ということが挙げられる。

 なお、本作は「PG12」(12歳未満の鑑賞には成人保護者の助言や指導が適当)に指定されており、ある程度の良い意味で精神に来るエグさ、ショッキングなシーンはあるものの、直接的な残酷描写はそれほどなく、露悪的というほどでもない。その絶妙なバランスにおいても(さすがにお子様が見るのは考えものだが)万人向けといえるだろう。

 ネタバレのない範囲で、以下から映画の具体的な魅力を記していこう。

(1)超高評価を獲得し特大ヒットもしている

 この「パラサイト 半地下の家族」は、誇張など一切無しで、非英語の映画の歴史を塗り替えるほどに圧倒的な超高評価を獲得しており、各界の映画賞を席巻している。挙げていくとキリがない勢いなので、主要なものだけを箇条書きにしておこう。

  • 第72回カンヌ国際映画祭で審査員満場一致で最高賞であるパルムドールを受賞
  • 第77回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞
  • 第92回アカデミー賞で国際長編映画賞韓国代表に選出
  • 第54回全米映画批評家協会賞で最優秀作品賞と最優秀脚本賞をW受賞
  • 映画情報サービスIMDbでは「アベンジャーズ/エンドゲーム」をも超える8.6点をマーク・映画批評サイトRotten Tomatoesでは「トイ・ストーリー3」をも超える99%の支持率を樹立
  • オバマ元大統領が2019年のお気に入り映画の18本のうちの1本に、小島秀夫監督が2019年のベスト1映画に選出するなど、著名人からの絶賛も相次ぐ。

 高評価を受けての大ヒットぶりもまた前代未聞、もはや社会現象と呼んでもいいレベルになっている。韓国での動員は1000万人、フランスでの動員は150万人を突破し、アメリカでは3館以上の劇場で限定公開された作品としては「ラ・ラ・ランド」以来の最高の興行収入を記録した。日本でもTOHOシネマズ日比谷と梅田で開催されていた先行上映が大盛況、しかも絶賛が相次いだ。

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 さらに、斎藤工、吉沢亮、細田守監督などがその面白さを語る動画も公開されている。

斎藤工「1年に1本しか(劇場で映画を)見ない方、今年はこの映画で間違いないです」
吉沢亮「確実に、ここ何年かで観た映画の中で、一番すごいものを見たっていう感じがしますね」
細田守監督「想像もしないところまで連れて行ってくれる」

 とにかく、「パラサイト 半地下の家族」は“ここまで言わせる”映画なのだ。見る前のハードルを上げきった状態でも、きっとその期待は裏切られないだろう。

(2)監督直々にお達しが来るほどに本気でネタバレできない内容

 本作がいかにネタバレできない内容なのか? それはマスコミ向けの資料に記載されていた、ポン・ジュノ監督からの以下のコメントを見ても分かる。一部に伏せ字を交えつつ、それを引用しておこう。

ポン・ジュノ監督からのお願い

 楽しみにしている映画の上映を待っている時、観客は情報を過剰に得るのを控え、映画館のロビーではヘッドフォンの音量を上げ、感想を聞いてしまわないように耳を塞いでいます。

 もちろん、「パラサイト 半地下の家族」は、最後のどんでん返しだけが全ての映画ではありません。例えば、映画を観終えたばかりの観客が「ブルース・ウィリスは○○だ!」と叫んでしまい、これから映画を観ようとしている観客たちを、失望と怒りで逆上させてしまうようなハリウッド映画とは明らかに違います。

 それでも私は、全ての映画監督が望むように、観客にはハラハラしながら物語の展開を体験してほしいのです。大小に関わらず、全ての瞬間において熱く興奮しながら、映画に引き込まれてほしいのです。そこで、みなさんに心からのお願いです。

 本作をご紹介頂く際、出来る限り○○が○○○○として○○○○○ところ以降の展開を語ることは、どうか控えてください。みなさんの思いやりのあるネタバレ回避は、これから本作を観る観客と、この映画を作ったチーム一同にとっての素晴らしい贈り物になります。頭を下げて、改めてもう一度みなさんに懇願をします。どうか、ネタバレをしないでください。みなさんのご協力に感謝します。

 この言葉通り、本作のネタバレ厳禁要素は、いわゆる“どんでん返し”だけではない。しかしながら、「この物語はいったいどこに向かっているんだ?」という印象の、“先が読めない”“翻弄される”“今までに観たことがない衝撃的な展開”こそがキモでもあるのだ。

 そのポン・ジュノ監督の“懇願”がどれほどのものかは、日本語で「ネタバレしないでください」と訴える動画からも分かるだろう。

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監督もこう言っている
ポン・ジュノ監督「ネタバレしないでください」(日本語)

 もはやネタバレを法律で取り締まってもいい、公の場でネタバレをした人は聞いたことのない何かの罰に処されてほしい(過激派)……「パラサイト 半地下の家族」はそう思えるくらいの内容でもあるのだ。

(3)誰にとっても人ごとではない“格差社会”を描いている

 本作の大きな特徴は「格差社会を寓話(教訓的な内容を含んだ物語)的に描いている」ということにもある。

 何しろ、物語の導入部が「“半地下”に住んでいる貧しい一家の長男が、高台の豪邸で暮らす裕福な一家のところへ、家庭教師の面接を受けに行く」というものだ。初めから極端な格差社会が、目に見える形ではっきりと示されているのである。

 そして、この極端な格差社会は、“現実”にもあるものだ。実際に韓国での貧富の格差は社会的な問題になっており、劇中の“半地下”という信じ難い住宅形態も実在している。そうした格差は世界中でさらに広がりつつあり、どこの国や地域においても人ごとではない。

 日頃のニュースでも知り得ることだが、「パラサイト 半地下の家族」では、フィクションの“物語”として、それを痛烈に突きつけてくるのだ。

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 プレス資料でポン・ジュノ監督は、本作について「ますます二極化の進む今日の社会の中で、2つの階級がぶつかり合う時に生じる、避けられない亀裂を描いているのです」と明言している。

 資本主義の社会においては目に見えない(あるいは見て見ぬ振りをする)階級やカーストがあり、現実にその格差を超えられない“一線”も存在している……そんな残酷な事実も、物語を通してはっきりと見えてくるだろう。

 格差社会をエンターテインメントに仕上げるという作風は、日本でも大ヒットしたアメコミ映画「ジョーカー」や、恵まれた一家がとんでもない恐怖と出会うホラー映画「アス」でも共通していた。いずれも、“社会的に虐げられた者”が“社会的に恵まれた者”と対峙した時に、現実に即した“何か”に気付かされるという構造があった。だからこそ、これらの映画は恐ろしくも、現代の人々の“共感”も呼ぶ映画になったといえるだろう。 なお、ポン・ジュノ監督作品では、生き残ったわずかな人類が走り続ける列車の中で暮らしているという特異な設定のSF映画「スノーピアサー」でも、「車両ごとにグレードが差別的に分けられており、簡単には行き来できない」という、明らかに格差社会を揶揄(やゆ)しているところがあった。

「スノーピアサー」予告編

 さらに、少女が巨大企業から怪獣を守ろうと奮闘する冒険物語であるNetflix映画「オクジャ/okja」でも、環境問題とやはり格差社会が描かれていた。ポン・ジュノ監督にとってこうした社会風刺や、問題を寓話的に映し出すことは、作家としての1つの“使命”でもあるのだろう。

「オクジャ/okja」予告編

(4)あらゆるジャンルが詰め込まれていてエンタメとして超絶面白い

 同作のさらなる魅力は、あらゆる要素が“一元化していない”ことにもある。

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 何しろ、“ジャンル”すら不明瞭であり、劇中ではクスッと笑えるユーモア、ハラハラするサスペンス、さらには“スパイもののようなアクション”もあり、加えて前述したように格差社会を風刺した“社会派”な面も備えているのだから。

 言い換えれば、ジャンルを固定化して語ることももったい無いほどの、“映画の面白さが全て詰まっている”作品ともいえるだろう。

 ジャンルが固定化されていない、一言では言い表せない豊富な要素と、エンターテインメント性の同居は、ポン・ジュノ監督の今までの作品とも共通しており、これこそが強い作家性そのものといえる。事実、監督自身も「分類するとしたら、どのようなジャンルだと言えますか?」との質問に、“強い現代性を持つ人間ドラマである”ことを前提にしつつも、「犯罪ドラマだ、コメディーだ、悲しい人間ドラマだ、恐ろしいスリラーだと言われても反論するつもりはありません」と答えている。

 もちろん、それらの要素を全てまとめ上げるのは容易なことではない。ネタバレ厳禁の内容であると繰り返し記してきたが、一方では「全てを知ってからもう一度すぐに見たくなる」ほどに、あらゆるところに“伏線”が隠され、それらが有機的に結び付く、綿密に計算された作劇がされていることも分かるだろう。

 「どのようなことを映画に求めているか」は人によって異なるのは当然だが、「パラサイト 半地下の家族」は、あらゆるジャンルの面白さをもって、あらゆる方面からその“観客が見たいもの”を見せてくれる内容ともいえる。舞台がほぼ2つの家の中だけであるのに、ここまでのエンタメ性と“豊かさ”がある映画は、そうそうないだろう。

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

(5)映画を“見終わった後”にもさらなる感動がある

 本作はあらゆる要素が一元化しておらず、ジャンルすら不明瞭であると前述したが、それは「観客それぞれが映画から受け取るものが異なってくる」ということでもある。タイトルの「Parasite(寄生虫)」という単語だけでも、多角的な意味が内包されていることに気付かされるはずだ。

 そのため、見終わった後に、一緒に映画を見た人と話し合ってみるのもいい選択だ(ただしネタバレで話す時は周りの人には聞こえないところで)。その印象が異なってくるということもまた、映画としての豊かさの証明なのだから。

 さらには、前述した格差社会についても、「こうすればよい」と1つの単純な答えだけを提示してくれるわけではないため、良い意味で“モヤモヤを持ち帰る”ことができる。ただ娯楽として楽しむだけでなく、現実の社会問題を真剣に考えるきっかけにもなるだろう。

 そして、本作は“ラストシーンの衝撃”と“映画を見終わった後の余韻”もすさまじいものがある。もちろんネタバレになるので、どういう印象になるかさえも書けないのだが、これはもう「パラサイト 半地下の家族」でしか味わうことができないかもしれない、複雑かつ豊かな、唯一無二の感動ではないかと思えるほどなのだ。

 しつこい繰り返しになるが、やはり結論としてもう一度書いておこう。この「パラサイト 半地下の家族」は“エンターテインメントとして圧倒的に面白い”映画だ。それでいて、ここまでの映画を“見終わった後”にもさらなる感動があるとは……もはや、文句のつけようのない大傑作だ。

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

おまけ:韓国映画の面白さを「エクストリーム・ジョブ」でも知ってほしい

 韓国映画では、さまざまなジャンルの、国際的に評価される作品が続々と世に送り出されている。「シュリ」「私の頭の中の消しゴム」「猟奇的な彼女」などは日本でも大ヒットしたし、2019年に日本で公開された「バーニング 劇場版」「コンジアム」「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」「神と共に(2部作)」「王宮の夜鬼」「毒戦 BELIEVER」「国家が破産する日」「EXIT」などでも、そのクオリティーの高さは証明済みだ。

 しかしながら、日本で大々的に公開される韓国映画となると、その数はやはりごく少数となっている。その意味でも、歴代で最高クラスの高評価を獲得した「パラサイト 半地下の家族」が全国的に広く公開されているのは、とても喜ばしいことだ。

 さらに、「パラサイト 半地下の家族」と合わせてオススメしたい韓国映画に、1月3日から小規模で上映されている「エクストリーム・ジョブ」がある。

「エクストリーム・ジョブ」予告編

 そのあらすじを端的に記すと「ダメダメな麻薬捜査班が潜入捜査のため仕方なくフライドチキン屋を始めたら大繁盛しちゃってどうしよう」というものだ。ポンコツなキャラそれぞれが立ちまくりで愛おしく、スカッと爽やかで、アクションもサスペンスもコメディーも全部盛りという、エンターテインメント性に満ちた、お腹いっぱいになれる内容になっている。

 今まで韓国映画を見たことがないという人も、ぜひこの「パラサイト 半地下の家族」と「エクストリーム・ジョブ」を劇場で見てほしい。きっと、新たな映画の魅力を発見できるだろう。

わずか1インチの高さの字幕という壁を超えるだけで、より多くのすばらしい(海外)映画との出会いがあります。

(ポン・ジュノ監督/ゴールデングローブ賞受賞スピーチより)

ヒナタカ

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