ニュース

「職場でマスク着用禁止」、法的に問題はあるか? 弁護士に聞いてみた

SNSで批判が殺到していた「マスク着用禁止」、法的にはどうなの?

advertisement

 2019年末、イオングループが接客時のマスク着用を原則禁止としたことで、批判が殺到しました(関連記事)。マスク禁止は同社に限ったことではないようで、SNSには「勤務先で従業員のマスク着用が禁止された」などの投稿が見られます。小売りや飲食など接客業に多いようです。

 風邪やインフルエンザが流行する中、マスクをしないことに不安を感じる人もいるでしょう。企業が従業員に対しマスク着用を禁じることに法的な問題があるのかを、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

マスク禁止命令は、法的に問題ないのだろうか?

接客中のマスク着用禁止は、法的に問題ない可能性が高い

 ――従業員へのマスク着用禁止を命じることは、法的に問題ないのでしょうか

advertisement

井上弁護士「合理的で相当なものであれば、法的には問題ないでしょう。使用者は、労働者に対して、労務の指揮それ自体にとどまらず、業務の遂行全般について必要な指示や命令をすることができます。今回のような『マスク着用禁止』についても、業務の遂行全般についてのものであると考えられ、指示や命令が可能です」

 マスク禁止が合理的で相当であれば、命令することは可能なようです。ただし、不合理、不相当な場合は、命令は無効となります。

井上弁護士「ただ、使用者に指示や命令ができる権限があるとしても、その指示や命令は合理的なもので相当なものであることが必要となります。もし、その指示や命令が不合理な場合や、不相当な場合には、その指示や命令は無効となると考えられます」

 ――マスク禁止が合理的で相当と考えられるのは、どういう場合でしょうか

井上弁護士「例えば、保育士が、保育のために表情が重要となることから、保育中のマスクの着用を禁止するといった場合ですと、保育という目的との関係で、合理的と考えられ、また、保育中に限定しているような場合であれば、相当なものと考えられるでしょう。また、接客業においても、客とのコミュニケーションが必要となる職種の場合、接客時のマスクの着用を禁止することも合理的で相当なものといえるでしょう」

advertisement

 接客業において、接客時のマスクの着用を禁止することは合理的と言える可能性が高そうです。しかし、接客時以外も着用禁止とすると合理性がなくなる可能性があります。

井上弁護士「もっともこのような場合であっても、一切のマスクの着用を禁止するような場合、合理性や相当性があるとは考え難く、無効となる場合も出てくるでしょう」

 ――命令に従わなくてもいい場合と従わなければいけない場合とあれば教えてください。

井上弁護士「指示や命令が無効といえるような場合であれば、その指示や命令に従う必要はないでしょう」

 マスク禁止が合理的で相当な場合は、従業員は従わなくてはいけないようです。

advertisement
マスク禁止が合理的なら従わなければいけない(画像はぱくたそから)

従わなければ処分される可能性はあるのか?

 ――使用者は従わなかった従業員に対し、減給や解雇といった処分を下すことができるのでしょうか

井上弁護士「減給や場合によっては解雇といった処分ができる場合もあります。法的に認められる業務命令の場合、労働者はその命令に従う義務を負うこととなります。もし、その命令に従わない場合、懲戒処分を受ける可能性があります」

 ――解雇される可能性まであるんですか?

井上弁護士「懲戒処分には、けん責(始末書の提出)や戒告、減給、出勤停止や解雇などの種類があります。具体的にどのような場合にどのような処分ができるかについては、就業規則に基づき判断していくこととなります。通常、マスク着用禁止の命令に従わなかった場合、けん責や戒告程度の処分で、解雇のような処分を受けることは、マスクを着用する理由が全くなく、何度注意をしてもマスク着用禁止の命令に従わないなど、特殊な事情がない限り、まれといっていいいでしょう」

 現実的には、マスク着用禁止命令に違反したからといって、すぐに解雇となることはないようです。

advertisement

マスクをしないことで、客から訴えられる可能性は?

 従業員だって人間です。風邪気味な体調で接客することもあるでしょう。こういったときに、マスクをしないことで客から訴えられる可能性はないでしょうか。

 ――「従業員がマスクをしていなかったために風邪をうつされた」という理由で、客は損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?

井上弁護士「損害賠償請求できる場合があります。ただ、従業員がマスクをしていなかったために風邪をひいたという因果関係を立証することは非常に困難であるため、実際に、客から従業員や店に対して、損害賠償が認められるケースはほぼないと考えられます」

 ――そもそも風邪をひいているにもかかわらず、接客をしていること自体、問題ないのでしょうか

井上弁護士「風邪の種類や程度にもよりますが、労働者の体調への配慮や、接客することによる感染防止等の点から、接客をしない方が望ましいですが、風邪をひいている者に接客をさせたからといって直ちに違法とまではいえないでしょう」

advertisement

 ネット上の意見を見ると、客側の意見としてもマスク着用を認める声も見られます。サービス品質と、従業員の健康管理のバランスをどうとるか、各企業の労使間でよく話し合うべき問題かと思われます。

高橋ホイコ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  4. 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  5. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  6. 餓死寸前でうなり声を上げていた野犬を保護→“6年後の姿”が大きな話題に! さらに2年後の現在を飼い主に聞いた
  7. 「懐かしい」 ハードオフで“30年前のPC”を購入→Windows 95をインストールしたら“驚きの結果”に!
  8. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  9. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  10. 「靴下屋」運営のタビオ、SNSアカウント炎上を受け「不適切投稿に関するお詫び」発表 「破れないストッキング」についてのやりとりが発端