コラム

テレ朝モーニングショー「女性専用車両は戦場」「女たちのバトルに迫ります」――女VS女の構図を作って茶化す番組のあり方について考えた

テレ朝広報部「視聴者の方からは様々なご意見をいただいております」。

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 テレビ朝日の朝8時からのワイドショー「羽鳥慎一 モーニングショー(以下、モーニングショー)」。政治や経済、スポーツ、芸能など幅広い情報を扱いつつ、時には政権への批判も辞さないなど、エッジの利いた一面でも知られています。

 そのモーニングショーで1月13日に放送された「独自の取材・切り口 ショーアップ」(以下、ショーアップ)というコーナーでの「『女性専用車両』乗らない女性 増加のワケ」が、Twitter上で話題に。多くの批判が寄せられ、中には番組に問い合わせたという人や、BPOに意見を送ったという人もいました。内容を振り返ります。

羽鳥慎一モーニングショー(テレビ朝日ホームページより
「乗らない女性」は増加している?

女性専用車両で女たちがバトル?

 特集コーナーは「女性専用車両は戦場と化している」「女性専用車両で起きている女たちのバトルに迫ります」という前振りでスタート。序盤はネット上での「隣の女性専用車両に行けばいいのに、混んでる一般車両にくる貴女(あなた)のせいで座れない男がいる」という、女性専用車両に乗らない女性への批判が取り上げられます。

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 番組独自の調査を行うと、「女性専用車両に乗らない女性が次々と」と現れたそうです。行われた街頭インタビューでは、「女性専用車両に乗らない理由」として以下を挙げる女性の声が紹介されました。

  • 「車内で香水を振りかける」「強かったり、距離が近かったりときつい」「においが混ざる」といった香水や化粧のにおい
  • 席の奪いあい、吊革につかまれないなどスペースの奪い合いや小競り合いがある

 ちなみに「車内で香水をかける」「席の奪い合い」が起こるのは「男性の目がないから」と語られ、特に香水や化粧のにおいがきつい人物として年配の女性が挙げられていました。また、「女性のほうが我が強い」ことも小競り合いが起こる理由として語られています。

なぜか女性VS女性の対立の流れに

 場面はスタジオへと移ります。斎藤ちはるアナウンサー(以下、斎藤アナ)は、「女性専用車両に乗るとストレスがたまる」ためあまり乗らないといい、街頭インタビューであった席の奪い合いや小競り合いに共感を示します。コメンテーターの山口真由さん(以下、山口さん)も乗らないとのことですが、その理由は車両の位置。「どうして端っこまで私が歩かないといけないのか。痴漢対策でしょ、男をつまみ出せばいいじゃないですか」と発言。

 レギュラーコメンテーターの玉川徹さん(玉川さん)は、斎藤アナと同じように女性専用車両で嫌な思いをしたことがないか山口さんに質問。山口さんが「特にないです」と答えたところ、「なんの違いなんだろう。(肘鉄の身振りをしながら)ガシガシってやるほうなの?」と山口さんのキャラクターに関連付けてイジり、スタジオに笑いが広がります。

 その後、席の奪い合いや小競り合いが起こる原因として、コメンテーターの石原良純さん(以下、石原さん)が「混んでるんでしょ」と聞くと、斎藤アナは「ギューギューの時が多いです」と回答。

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 山口さんの発言にあった「女性専用車両は遠いから乗らない」という使いにくさの問題や、石原さんと斎藤アナのやり取りにあるような通勤時に混雑する電車の運行のあり方についてはスルー。街頭インタビューの繰り返しのような話や、山口さんイジりに見られる、気の強い女性が原因とするような会話で盛り上がります。

7割の女性が乗らない(母数は50人)

 そして、再び番組の調査結果が取り上げられます。10代から50代の女性に街で調査したところ、「50人中35人が女性専用車両に乗らない」という結果が。野上慎平アナウンサー(以下、野上アナ)が「7割の方が乗らない」と発表、テロップにも表示され、野上アナはスタジオに向けて「結構多いですよね、男性から見ると」と言います。「7割の方が」「結構多い」というにはあまりに50人という母数は少なく、乱暴な解釈に思えます。

 さらに、結果について斎藤アナは「女性専用車両には優しさがない(から納得)」とコメント。その理由について羽鳥慎一アナウンサーが「人として若手だから、高年齢の人に上から見られる」と推測、野上アナも「若い方、特に斎藤さん世代の方で乗らないと答えた方がちょっとだけ多い」と年齢に関連付けた会話が続きます。

 また、35人の「乗らない理由」として「車両の端にあるから乗りづらい」「『お前は痴漢にあわないだろう』とほかの人に思われたら恥ずかしい」があるといいます。「お前は痴漢にあわないだろう」については、野上アナ、玉川さんは女性専用車両に乗る他の女性からそう思われたくないということだろうと推測し発言しますが、本当のところ誰からそのように思われるのが嫌なのかわからないまま会話は流れていきます。

番組独自の取材とは(テレビ朝日ホームページより

 また、「女性だから」こそ起こる問題として、「ファーやポニーテールが顔にあたる」「ハイヒールを履いている人が多いので、揺れに耐えられず次々にもたれかかってくる」「ブランドがかぶり、どちらが新作かなどのマウントの奪い合い」「男性がいないので、周囲の視線を気にせずスマホに没頭」の4つが挙げられました。

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 しかしこの4つ全てが、女性の服装や髪型が原因であったり、性別に関係ないスマートフォンの利用のマナーだったりと、男性がいない空間だから起こったというものではありません。さすがに「ブランドがかぶりでマウント」についてはスタジオから失笑がもれ、玉川さんも「どういうことですか、意味がわからない」と困惑していいました。

テレビ朝日の回答は

 ネットでは番組の「独自調査」の結果に対して、「香水のにおいは気にしたことないし、ブランド品のマウンティングは見たこともない」「(女性同士の小競り合いがあるから女性専用車両に乗らないという意見に対して)自分はそんな経験はなく、場所と人によるとしか言いようがない」と信ぴょう性や偏った調査結果を不可解に思う人が多数見られました。

 また、女性専用車両内でのトラブルの原因を女性の性質と結び付けたり、女性だけの空間だから――とすることには、「におい問題や場所取り問題は、女性だから、女性専用車両だから起こるとは言えないのでは」「性差別」「女性に向けられてきた偏見」と、女性と結び付けられることへの違和感、怒りの声が上がっています。

 さらに、「女性専用車両に問題がないとは言わないけれど、それでも選ばざるを得ない人については考えないの?」「性被害に遭うなどで必要としている人の存在などは二の次」と、女性同士の対立を笑いものにするだけで根本的な問題に迫らない番組の構成に納得いかない人もいるようです。

 コーナーの中にあった街頭インタビューでは、女性専用車両に否定的な意見ばかり集まっていましたが、実際にはどんなふうに質問されていたのか、50人に対して行った調査を女性専用車両に対する女性全体の考えとしてとらえることについてどう考えているのか、持っているブランド品でマウンティングするという車内トラブルは、どのような調査によって明らかになったのかが気になりました。

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 そこで、テレビ朝日の広報部に、コーナーを企画した意図やきっかけ、女性専用車両の意義をどう考えているか、調査の方法、なぜ女性専用車両で起こるトラブルの理由を女性の性質や、個人の性格の問題として展開したのか、視聴者からの意見やネットでの批判を把握しているかなど質問したところ、「番組の制作過程については、従来お答えしておりません。なお視聴者の方からは様々なご意見をいただいております」とのみ回答がありました。

女性のステレオタイプ

 女性専用車両を巡っては、定期的に「マナーが悪い」といった話題が出てきます。今回もモーニングショーだけではなく、1月7日13日にJタウンネット東京で、1月15日にはTBSテレビ 「Nスタ」が同様の文脈で取り上げています(一部では一連の特集の“ネタ元”がJタウンネットではないかという指摘も挙がっています)。

「女同士のバトル」なんてむしろ紋切り型……(羽鳥慎一モーニングショー 公式アカウントより

 女性にとって女性専用車両に乗ることは義務ではなく、性犯罪から自衛する手段のひとつにすぎません。そして、一般車両の混雑は、女性専用車両のせいであると言えるのでしょうか。

 コーナー内では女性専用車両で起こるトラブルについて、電車の混雑や女性専用車両の配置については触れられたものの話はほとんどふくらまず、「男性がいないことにより女性本来の我の強さが出る」「年齢・外見・ブランド物でマウンティングする」といった性質や性格が話題の中心になり、面白おかしく誇張し伝えられていました。それは本当に女性本来の性質としていいものなのか、偏見につながると考えなかったのか疑問が残ります。

 さまざまな社会問題に切り込んできたモーニングショーであれば、女性専用車両に乗りたくない理由やトラブルの背景を探ることで、よりよい女性専用車両の運用のされ方や、女性専用車両の有無にかかわらず安全に利用できる電車の実現について考える機会を作り得たでしょう。「女同士のバトル」として最後まで面白おかしく取り上げられたのは残念でした。

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(谷町邦子 FacebookTwitter

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