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漫画村運営者情報の開示請求が棄却になったのはなぜ?  Cloudflare訴訟の地裁判決を解説

なぜ東京地裁は「原告の請求を棄却する」との判断を下したのか。

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 「漫画村」へのサーバ提供を行っていた米Cloudflareに対し、現役漫画家が漫画村の運営者情報などの開示を求めた裁判が、1月22日に判決を迎えました。東京地方裁判所はなぜ「原告の請求を棄却する」との判断を下したのか、詳しく解説します。

「漫画村」(既に閉鎖/画像加工は編集部によるもの)

今回の訴訟概要

 著書に『人生リセット留学。』やドラマ化された『Walkin' Butterfly』などを持つ漫画家のたまきちひろさんがCloudflareに対して、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者(漫画村運営者)の情報開示を求めた本訴訟。

 2018年4月16日付で東京地裁に訴状が受理されると、当初Cloudflare側は争わない姿勢を示し、「漫画村に関するアクセスログ」の一部をたまきさんの代理人を務める東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士に対して開示するなどしていたものの、2018年10月下旬になって「全面的に争う」との答弁書が提出されたことから、東京地裁は判決前日に弁論の再開を決定。異例の判決延期の判断が下っていました。

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東京地裁が4月16日に受理した訴状
米Cloudflareに到達した英訳の証拠書類

判決の理由

 佐藤達文裁判長は、今回の訴訟について「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担」と判決。争点になったのは以下の5点でした。

  • (1)国際裁判管轄の有無等
  • (2)権利侵害の明白性
  • (3)アカウントに関する発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
  • (4)被告が『人生リセット留学。』のデータが作成されたときのIPアドレス、タイムスタンプと侵害情報を流出させた人の氏名を保有しているか
  • (5)開示関係役務提供者該当性

 なかでも重要な(1)(3)(4)について、東京地裁は次のような見解を示しています。

(1)国際裁判管轄の有無等

 今回の裁判で注目を集めたのは、「アメリカ企業であるCloudflareに対してどの国が裁判管轄となるのか」。これについて東京地裁は、Cloudflareが東京にもデータセンターを設け、サーバを設置している事実および、「日本語で記載され、日本において閲覧することが可能な漫画村のデータはCloudflareの東京所在のデータセンターのサーバに保存されている」などと認めました。

 これによって今回の訴えは「日本において事業を行う者」の「日本における業務に関するもの」であるとして、漫画村関連の対Cloudflare訴訟は東京地裁が管轄であることが認められました。

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(3)アカウントに関する発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無

 IP等については、原告であるたまきさん・中島弁護士は既にCloudflare側から任意で漫画村運営者のIPアドレス、タイムスタンプおよび、ユーザーの電子メールアドレスの開示を受けていることから、これらにつき「さらに開示を受ける正当な理由は認められない」と東京地裁。

 氏名、住所の開示については、「サイト運営にかかわった3名の者は、いずれも逮捕・起訴され、その氏名は既に判明している上、そのうち公判中の2名については刑事施設に収容されているのであるから、原告は本件発信者情報2(アカウントに関する情報)の氏名及び、住所を入手するまでもなく、本件発信者を既に特定し、これらの者に対して、損害賠償請求をすることが可能な状態にあるものというべき」と判断しました。

 そして、現時点では漫画村運営者に対して、原告のたまきさん・中島弁護士が損害賠償を起こせる状態になっているとして、「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」があると認めることはできないとしました。

(4)被告(Cloudflare)が『人生リセット留学。』のデータが作成されたときのIPアドレス、タイムスタンプと侵害情報を流出させた人の氏名、住所を保有しているか

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 これについては「被告(Cloudflare)は『人生リセット留学。』のデータが被告のサーバー上に作成されたときのIPアドレス、タイムスタンプと侵害情報を流出させた人の氏名、住所を答弁書提出時点では保有していないと回答しているところ、保有していると認めるに足りる証拠はない。したがって原告請求のうち、本件発信者情報1の開示を求める請求は理由がない」と東京地裁は判断しました。

 つまり、Cloudflare側は原告が要求している発信者情報を持っていないと主張しており、裁判所は持っている証拠がないと判断したということです。

裁判が行われた東京地裁

東京地裁による結論

 被告が、IPアドレス等を任意に一部開示しており、それ以上に『人生リセット留学。』が投稿されたときのタイムスタンプ、IPアドレス、氏名、住所を保有しているとは認められず、アカウント情報(漫画村運営者の氏名及び、住所)については、運営者らが逮捕され氏名や住所等が特定されていることから、開示を受けるべき正当な理由があるとは認められないので、そのあまりの争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、よって主文の通り判決するとしました。

判決を受けての原告側の意見

 判決を受け、原告のたまきちひろさんは、「仰ることは確かにその通りだと思ったところもあるのですが、漫画村の運営者とされる星野路実被告人らが逮捕されたからと言って、その逮捕容疑は別の漫画作品の無断転載・権利侵害ですから、私の作品の著作権侵害を行った人とそのまま認めて良いのかは疑問に思います。裁判所がこれらの人物が侵害者と特定され、損害賠償請求できる状態にあるとまで言ってくれているので進展はあったと思います。(今回の判決に100パーセント納得できているわけではないが)前には進んでいるとは思います」とコメント。

 中島弁護士は、「Cloudflare側から任意で一部ログの提供を受けており、東京地裁から『本件発信者を既に特定し、損害賠償請求等ができる状態』というお墨付きが出た点、裁判の管轄が東京地裁であることが明らかになった点を考えると悪い判決ではありません」とコメント。

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 一方で「たまき先生の仰る通り、星野路実被告人、他2人の逮捕に関して問われているのは2017年5月に『ONE PIECE』『キングダム』(ともに集英社)の画像データを不特定多数が閲覧できるようにWeb上に公開し、著作権を侵害したとするものです。我々が求めているのは2018年2月に原告(たまき先生)の著作権を侵害した人物の情報です。2017年5月に漫画村に関わった事実しか刑事事件では明らかとなっていませんので、同事件で逮捕された4名のうちの3名が2018年2月の侵害も行ったと、証拠で提出されているニュース記事等から、わざわざ1名を除外して詳細に認定できるものなのかは疑問に感じています」と語り、「(4)ではCloudflare側が『データを持っていない』と回答したことに対して、東京地裁がそのまま認定しているため、『持っていないと言えば認められるのか』という考え方もあります。星野被告人らが本当にたまき先生の著作『人生リセット留学。』の侵害を行ったのかをはっきりさせるためにも、控訴する必要性を検討したいと思います」と話しました。

たまきさんの作品が漫画村に無断掲載されていたことを示す証拠

 2019年11月にも海賊版リーチサイト「はるか夢の址」(あと)を運営したとして実刑判決を受けている3人についても講談社から損害賠償請求が提訴され、大阪地方裁判所が約1億6000万円の支払いを命じています。

 たまきさんと中島弁護士は今後、控訴および損害賠償請求について、「慎重に検討したい」としています。

たまき先生作「漫画村漫画」

(Kikka)

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