アイドルたちの、人気投票悲喜こもごも「推しが武道館いってくれたら死ぬ」5話 自分のために泣いてくれる人がいるなら(1/2 ページ)
鮭パフェ、実現しないかな。
大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作/アニメ)は地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。
5話め、地獄の人気投票中間発表。アイドル一喜一憂、ファンはメンタルすり減らす日々。数値化し順位付けすることの残酷さよ。まあでもそこがアイドルの面白さでもある。そんな中、不動の最下位・市井舞菜をなんとか上に押し上げたいと奔走するえりぴよ。周囲のオタクも、自分のアイドルを押し上げるため必死です。そんな中、アイドルたちの人気投票の捉え方はさまざまでした。
アイドルと人気投票・横田文編
おそらく今回の人気投票についての執着が一番強いのは、普段下から2番目のブービー賞な横田文(あや)。通称あーや。気が強めのツンデレタイプで、身長147センチのミニマム妹タイプ。ぼくの推しです。
彼女は自分で自分のCDを買って投票するくらい、何が何でも勝ちたいタイプ。っていうかそこまでしても伸びないのか……なんかもう悲しいよ。人気がないわけではなくコアな固定ファンはいるんですが、どうやら「みんなの1位」にはならないタイプらしい。舞菜も同じなんですが、好きなメンバーの2番手3番手になりがちなタイプ。「妹キャラ」というグループ内の配役キャラクターの悩みは、原作では別の回で描かれています。
そんな彼女、普段はメイド喫茶でバイトをしています。このあたりから見ても、自己承認欲求が強いのというよりは、かわいいものへの憧れが人一倍強いんでしょう。ちなみにロリキャラで通ってますが18歳で、舞菜や優佳より年上だったりします。
彼女は割とズバズバものをいうタイプ。たまたまくまさとえりぴよが、自分の働くメイド喫茶に来たのを目撃してしまった文。2人がれおと舞菜推しなのを知っていて(トップオタですし)「れおと舞菜にチクっとくし…」「えりぴよさん最近舞菜に積んでないもんね、カフェに来るお金はあるのに」と冷酷な一言を放ちます。
まああんまり悪意はないと思います。そういうのをポロッと言っちゃう子なんです。むしろえりぴよが舞菜を追い続けているのに、舞菜には塩対応しかされないことを知っていて同情するような子です。
「塩対応」とは、ファンに対してサービスせず、そっけない態度をとること。「神対応」とはできる限りのファンサービスを考え、喜ばせようとすること。文は神対応の子です。えりぴよがとなりの文の列をちらっと見たとき、彼女が笑顔でオタクに接している様子が描かれています。
素の部分はキツめな文。でもさらに素の部分はとてもいい子。塩対応され続けても舞菜を応援するえりぴよに、思わぬサービス。舞菜のメンバーカラー・サーモンピンクに合わせて、鮭入りのパフェ。「ま…舞菜も中間発表3位になって喜んでたから、これからも応援してあげてよねっ」。ツンデレだ! ありがとうございます!
良くも悪くも、公私ともども迷走激しい文らしい対応。そもそも鮭入りのパフェがサービスなのかどうかよく分からないけれども、ここは「推し武道」ならではのツッコミのないノリなので、素直に「かわいいとこあるじゃん」と飲み込んでおこう。
「わたしに一票ずつ入れてくれたら、ここに来たこと、黙っててあげる」というツンを再度差し挟むのも彼女らしい。彼女の感情的で、生々しい少女的な部分は、この話以降たっぷり描かれていきます。
アイドルと人気投票・市井舞菜編
ChamJamの中だと、えりぴよが愛してやまない市井舞菜と、くまさが応援し続けている五十嵐れおは、人気投票をあまり歓迎していないタイプ。れおは4話で、全力で応援してくれているくまさに支えられつつ、1位を取ってセンターであり続けようと頑張っている最中です。
一方舞菜は、順位は高いとうれしくはあるけど、それよりもえりぴよに会いたいということで頭がいっぱい。
CDを買って人気投票上位にしてもらいたいわけじゃない。「わたしは、えりぴよさんが会いに来てくれるだけで嬉しいのに…」という心の言葉をえりぴよに伝えたい。言えたらいわゆる「釣り(ファンの心を捕まえること)」状態。神対応だったはず。
ただ舞菜は、それがファンサービスではなくてあまりにも本心すぎるがゆえに言えない。多分えりぴよ以外には言えます。他のファンが玲奈しかいないけど。
舞菜自身、ファンとアイドルの距離感はある程度分かっている部分があります。自分の思いは「えりぴよさんに応援してもらいたい」から「えりぴよさんに会いたい」とより近い距離にシフトしかけている。でも友達にはなれないし、自分から会いに行くこともできない。ゆえに言葉に詰まってしまい、勘違いしがちなえりぴよとすれ違い続けてしまう。切ないシチュエーションですが、描写自体はライト。アンジャッシュのコントみたいなやりとりが続いています。
しかし今回は人気投票がらみで、舞菜は特にナイーブ気味。順位はともかく、ケガをして今までのように応援に来てくれなくなったことに寂しさを覚えていたところに、追い打ちのようなうわさ話を聞いてしまう。
「(えりぴよが)あーやに推し変したらしい」「ちょうどよかったじゃん、あーや今最下位だし」「やっぱほらいんじゃん。不人気メンしか好きになれないオタ」「美味しさ目当てねー」
オタクのうわさ話は無責任だからな! このうわさ自体は、文のメイド喫茶に行ったというそれだけのところからの推測ですが、心を痛めていた舞菜にはクリティカルヒット。
舞菜「積んで(CDを買って)ほしいわけじゃなくて、来てほしいだけなんです。えりぴよさんが来てくれないと会えないから」
順位もなにも関係なくなってきている。彼女は以前、えりぴよと一緒に撮ったチェキの失敗プリントを大切に持っています。さすがにもうアイドルからのファンへの感情を越えているようにも見えますが、かと言って何もできるわけではなく、待つことしかできない。
舞菜の困惑は、次回に持ち越し……というかこの作品のテーマである、アイドルとファンの距離問題として描かれ続けます。
アイドルと人気投票・水守ゆめ莉編
おっとり静かな水守ゆめ莉は、人気投票上位になるのを避けているタイプの子です。正確には、彼女の大親友であり、前列で人気のある伯方眞妃を後ろから見ていたいから。
お姉さんタイプの眞妃は今まで人気3位。ビジュアルのセクシーな華麗さもあって華々しく目立つタイプでした。ゆめ莉は後列から彼女を見て憧れ、追いかけていたいと感じていた子。自分が眞妃の前に立つなんて考えもしませんでした。だからこそ、今回の人気投票での順位の上下を見て、心中非常に複雑です。
ゆめ莉が3位になって、眞妃が5位になる、という大逆転な中間発表。これにはゆめ莉驚愕、顔面蒼白。つまりゆめ莉が前列で、眞妃が後列になってしまう。憧れの人との逆転はうれしいとは言いづらい。
文のようにガツガツ上位を狙いたがる子もいれば、舞菜やゆめ莉のように「誰かとの関係」の方が重要で順位はさほど気にしていない子もいる、というのが5話のChamJam群像劇の巧みなところ。ただ、上位になることは決して悪いことではない。ゆめ莉が初めてそれに気付かされる様子が、アニメでは非常にドラマティックに描写されました。
今回のMVPキャラ、ゆめ莉のオタクくん。熱心にゆめ莉を応援し続け、前列に彼女が出てきたとき、彼は感極まって泣いてしまいます。序盤握手会に来るシーンもオリジナルで追加され、彼の愛情が深く描かれているだけに、つられて泣きそうになる。いいファンがついたね。
今までゆめ莉は、眞妃の背中しか見ていなかったのかもしれない。けれど今回はじめて前列に立ったことで、美しいペンライトの波に目が行き、自分を見てくれるファンの感情を直接感じた。ゆめ莉はここでアイドルとして、大きな成長を遂げます。
舞菜しか見ていなかったえりぴよが、前列に来たゆめ莉を見て彼女のダンス技術の高さに気付かされるシーンが興味深い。本当はChamJamで一番うまいんだけれども、前列じゃないと発見されなかった、というのはあまりにももったいない。前列と後列の差、3位までとそれ以下の差、あまりにも大きい。
アイドルと人気投票・伯方眞妃莉編
ゆめ莉のCDを眞妃が大量買いしていたという事実が発覚するのが後半。メンバーのCDを買って順位を変えるのはありなのか!? と疑問もわきますが、文が自分のCD買ってるんだからいいんです。文……。
眞妃はみんなにゆめ莉のすごさを見てもらいたいというスタンス。仲のいいゆめ莉がいつも後列にいて、彼女のダンス技術の高さを認めてもらえないことが納得できなかったようです。そういう意味では今回、えりぴよがすぐさまゆめ莉の実力に気付かされているので、大成功なんでしょう。
ゆめ莉と眞妃はともに頑張るアイドルの仲間であり、親友であり、お互い尊敬している部分がある存在。双方とも、相手が上位で前列になってほしい、と願っていた。まるで賢者の贈り物。
眞妃は自分語りはあまりしないプロフェッショナルタイプです。今回バレてから、もうCDは買わないこと、ゆめ莉自身でファンの人の為に頑張ってほしいことを伝えます。
ただ、ゆめ莉と2人でいるときは、自分の気持ちを隠しません。
眞妃「投票はしたんだけどさ、握手券がこんなにたまっちゃって。…握手してもらえるかな?」
ゆめ莉「…うん、いつも応援してくれてありがとうございます」
このやりとりは、アイドルとファンの距離を描いた今作でも非常に特殊。アイドル同士でありつつ、お互いのファン。だから一緒に横に並べるし、手もつなぐことができるし、自分から会いにもいける。舞菜とえりぴよが絶対手に入れられない関係です。
大量の握手券を手にしながら、「何秒分あるかな」「何秒分…だろうね?」と手をつないで笑顔で歩く姿は、あまりにも美しくて、永遠に続きそうにすら感じる。事実、仮にアイドルを双方が続けようが辞めようが、いくつ年をとろうが、一緒に歩める距離の2人はどこまでも公私ともども手を取って歩き続けられるはずです。
番外編・玲奈の場合
じゃあえりぴよと舞菜の関係は損なのかというと、そうでもない。アイドルとして輝いている姿をオタクとして見てエネルギーをもらえる幸福は、えりぴよやくまさの姿を見れば十分分かります。これはこれで特別。
今回アイドルとファンの関係に魅入られた少女が1人描かれていました。
基の妹の玲奈、舞菜のことが好きになって、ドルオタでもなんでもなかったのに、今は1人でライブに来てCD3枚買うほどになりました。大進歩。
玲奈の描写は、インフレするえりぴよやくまさの行動と異なって、ある種一般的な目線に引き戻してくれる貴重な存在。CD3枚って学生には結構な負担だからね。頑張ったんだろうね。
残りの松山空音と寺本優佳の人気投票へのスタンスは、次回以降。大きく荒れます。
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