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なぜ「逆転有罪」に? コインハイブ裁判、東京高裁が無罪判決を棄却した3つのポイントを解説

無罪判決が棄却され、罰金10万円の支払いを命じる有罪判決を言い渡されました。

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 運営するサイトにマイニングソフト「Coinhive(コインハイブ)」を設置したとして、Webデザイナーのモロさんが不正指令電磁的記録 取得・保管罪(通称:ウイルス罪)に問われている裁判で2月7日、東京高等裁判所は一審での無罪判決を破棄し、モロさんに罰金10万円の支払いを命じる有罪判決を言い渡しました。なぜ高裁は逆転有罪の判断を下したのか、判決文を解説します。

家宅捜索を受けた際に公開された被告・モロさんのブログ(ブログより

事件のあらまし

  サイト訪問者のPCのCPUを使ってWebブラウザ上で仮想通貨をマイニング(採掘)させる「Coinhive」を設置したとして、複数の検挙者が出た本事件(通称:コインハイブ事件)。ねとらぼでは1月30日に「なぜコインハイブ『だけ』が標的に 警察の強引な捜査、受験前に検挙された少年が語る法の未整備への不満」との記事を、2月16日に「『お前やってることは法律に引っかかってんだよ!』 コインハイブ事件、神奈川県警がすごむ取り調べ音声を入手」との記事を公開し、それぞれの検挙者を取材しました。

 また2019年3月27日には横浜地裁が弁護側の主張を認め、無罪判決を言い渡し、コインハイブ事件 横浜地裁、Webデザイナー男性の主張認め「無罪」判決との記事を掲載しました。

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無罪判決が出された際のモロさんの代理人を務める電羊法律事務所の平野敬弁護士

 ところが、その後行われた控訴審で東京高裁は一審の判決を破棄し、検察の求刑通り罰金10万円の支払いを命じる有罪判決を言い渡しました(関連記事)。

争点

 裁判で争点となったのは、次の3点。

  • (1)本件プログラムコード(コインハイブを動かすためのプログラムコード)の不正指令電磁的記録該当性
  • (2)実行の用に供する目的の有無
  • (3)故意の有無

 一審で無罪判決が言い渡された理由の大きな要素の一つは、「(1)本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性」について「該当性が認定できない」とされたこと。つまり、コインハイブがいわゆるウイルスには該当しないとされたということです。

 この点について東京高裁は、「本件プログラムコードが不正指令電磁的記録に該当しないとした原判決(地裁判決)の判断は、刑法168条の2第1項(※)の解釈を誤ったことによる不合理なもの」「これまでの証拠調べを踏まえると有罪の自判をするのが相当である」と判断しました。

(※)刑法168条の2第1項……不正指令電磁的記録に関する罪。

 まずコインハイブが不正指令電磁的記録に該当するかどうかについては、サイト訪問者の意図に反してプログラムが実行されたかという「反意図性」、コインハイブのプログラムによる動作が不正に当たるかという「不正性」という2点が争われていました。

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反意図性

 横浜地裁と同様、東京高裁も反意図性を認めました。しかし東京高裁は、一審ではサイト訪問者がコインハイブのプログラムの動作に同意していたのかという点だけで判断を行っているとして「プログラムの機能の内容そのものを踏まえた規範的な検討をしていない」と指摘。

 コインハイブのプログラムコードで実施されるマイニングは、Webサイトの閲覧のために必要なものではないとし、サイト訪問者のPCに“一定の負荷”を与えるものである一方で、“マイニングの実行を拒絶する機会”が保証されていないとして反意図性を認めました。

 また弁護側が「コインハイブのプログラムコードがWeb閲覧時に断りなく実行されることが普通に行われているJavaScriptのプログラムであり、この種のプログラムについては、閲覧者が承諾していると考えられる」と主張している点については、「プログラムの反意図性は、その機能を踏まえて認定すべきであるから、JavaScriptのプログラムというだけで反意図性を否定することはできない」と主張をしりぞけました。

不正性

 不正性については、横浜地裁が「合理的な疑いが残る」とした一方、東京高裁は「判断手法や個別の事情の評価を誤っており、法令適用の誤りや事実誤認がある」として、不正性があると認めました。

 東京高裁はコインハイブのプログラムについて「(サイト訪問者に)利益を生じさせない一方で、知らないうちに電子計算機の機能を提供させるものである」と判断。横浜地裁がプログラムの実行によって「Webサービスの質の維持向上が期待でき、閲覧者の利益になる」と評価した一方で、東京高裁はこうした利益について「(サイト訪問者が)気付かないような方法で受忍させた上で、実現されるべきものでないことは明らか」としました。

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 また横浜地裁は、捜査当局等による事前の注意喚起がなかったことについて「社会的許容性を基礎づける方向の事情」と評価しましたが、東京高裁はその点について、「捜査当局の注意喚起の有無によって不正性が左右されるものではない」と判断しました。

 「社会的許容性を基礎づける」とは、「社会に受け入れられていることを示す材料となる」という意味ですが、コインハイブのプログラムに対する社会の態度は一般的に、「(1)歓迎」「(2)歓迎も反対もしない」「(3)反対」の3つとなります。

 これに基づいて考えると、コインハイブのプログラムに対して社会から賛否が上がっていたことについて横浜地裁は、「(2)歓迎も反対もしない」という状態を指し、明確に「(3)反対」とまでは言い切れないため不正性を否定したという形。つまり、不正性を認めるのは「(3)反対」のみになるという判断を下しました。

 一方東京高裁は「プログラムコードの社会的許容性を基礎づける事情ではなく、むしろ否定する方向に働く事情」だと評価。「(2)歓迎も反対もしない」の状態では積極的に許容されているとはいえず、「不正性はない」と言い切るためには「(1)歓迎」の状態であるべきとの考えから、不正性が満たされると判断しました。

 「コインハイブのプログラムコードは、機能を中心に検討すると反意図性もあり不正性も認められるもので、不正指令電磁的記録に該当するべきであり、原判決(一審判決)は、刑法168条の2の解釈を誤り、その結果、不正指令電磁的記録該当性を否定する不合理な判断を行っており、原判決には、事実誤認がある」と締めくくりました。

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実行の用に供する目的の有無

 次に「実行の用に供する目的の有無」についてですが、まず本件の時系列を整理します。

  • (1)モロさんが自身のWebサイトにコインハイブを設置。
  • (2)サイト訪問者がモロさんに対し「(無断で)コインハイブを設置するのはグレーでは?」との指摘。モロさん「グレーとは思わないが、仰ることも分かるので、(訪問者の)同意を得るように検討します」と返信。サイト訪問者から「個人的には同意を得たコインハイブの利用は歓迎」との旨のやりとりがTwitter上で行われる。
  • (3)公訴事実の期間。
  • (4)モロさんがコインハイブを撤去という流れです。

 以上のことから横浜地裁は、モロさんがコインハイブを設置した時点においては「実行の用に供する目的」については認められないと判断しました。一方、東京高裁は、サイト訪問者の同意なくマイニングさせることに関する否定的な意見を知ったうえで、モロさん自身が“収入を得るためにプログラムコードの保管”をしたことが明らかだと指摘。公訴事実はサイト訪問者からの指摘ツイートの後のことなので、横浜地裁が評価した「コインハイブを設置した時点」の状態については本件と無関係としました。

 これはモロさんがコインハイブのプログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を実質的に認識したうえで、プログラムコードを保管したものといえるし、このプログラムコードがサイト訪問者の承諾を得ないまま実行されることを認識して容認していたということになるとして、他人のPCにおける「実行の用に供する目的」があったことは明らかであり、モロさんの故意も認定できることが明らかであると評価しました。

結論

 東京高裁はこうした判断から一審判決について、「不正指令電磁的記録該当性に関する法令の解釈を誤り、被告人(モロさん)の認識した事実を正しく評価しないまま、実行の用に供する目的を否定した不合理なものであるし、その説示過程で、実質的には誤った故意の判断も行っているといえる」として、「原判決(一審判決)の無罪判決を維持する理由はないから、原判決は、判決に影響することが明らかな事実誤認があるといえ、破棄を免れない」と結論。

量刑の理由

 量刑の理由については、モロさんが運営するWebサイトを閲覧すると閲覧者が閲覧に用いた電子計算機にマイニングをさせる機能を有するプログラムを保管したというもので、自己の利益のために、プログラムに対する社会一般の信頼を害する犯行であって悪質であるが、保管していた期間を考慮すると主文の罰金刑が相当であると判断したとし、モロさんに罰金10万円の支払いを命じる有罪判決を言い渡しました。

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弁護側は上告予定

 逆転有罪判決について、ネット上では「東京高裁むちゃくちゃ」「反意図性さえあれば有罪となってしまう解釈じゃないか。アナリティクスなどの解析ツールは勿論、全てのソフトウェア、特にクローズドソースなものは該当してしまうのでは?」「これだけ判断が分かれている中、現状マッチしているとは思えない法律に押し込んで判決出そうとしているところに問題があると思うんだけど、そこに司法が全く響いてなさそうなのが怖い」といった意見がある一方、「有罪で当然だと思います。他人のPCのリソースを無断で使用するのは、他人の物やお金を無断で拝借して使用するのと同じこと」「インターネット空間の安全性の確保の方が大事」と高裁の判断を指示する声も上がっています。

 今回の判決についてモロさんの代理人を務める電羊法律事務所の平野敬弁護士は、「上告はします」と答えており、最高裁の判断に注目が集まっています。

(Kikka)

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