「お前やってることは法律に引っかかってんだよ!」 コインハイブ事件、神奈川県警がすごむ取り調べ音声を入手(1/3 ページ)
【動画あり】弁護士は「推定無罪の原則を真っ向から否定している」と語りました。
「お前やってることは法律に引っかかってんだよ!」――自身のサイトに「Coinhive(コインハイブ)」を設置したとして検挙されたWebデザイナーを、神奈川県警の捜査員がどう喝している取り調べ音声データを入手。当事者とその弁護士に検挙の問題点を聞きました。
事件のあらまし
サイト訪問者のPCを使ってWebブラウザ上で仮想通貨をマイニング(採掘)させる「Coinhive(コインハイブ)」を設置したことを巡り、複数の検挙者が出ている問題(通称:Coinhive事件)。ねとらぼでは1月30日に「なぜコインハイブ『だけ』が標的に 警察の強引な捜査、受験前に検挙された少年が語る法の未整備への不満」との記事を公開し、検挙者の1人である少年を取材しました。
今回は前述の記事内でも紹介し、現在刑事処分に対して異議を申し立てる裁判を行っているWebデザイナー「モロさん」の検挙事件について取り上げます。
モロさんがCoinhiveの存在を知ったのは2017年9月下旬のこと。ニュースサイト「GIGAZINE」で公開された記事を見て、「(邪魔な)広告をなくして快適にサイトを閲覧できるなら」と自身のWebサービスに試験導入を決めました。
導入後は、導入前と同程度のアクセス時間・アクセス数を保っていたものの、約10日のテストで得られた収益は300円程度。技術面でのテストがメインだったこともあり、導入日と同日に公開した記事「Coinhiveを紹介する記事(現在は削除済み)」には「Coinhiveという広告を駆逐できるかもしれないツールがリリースされた」「賛否があるので、試す場合はほどほどにした方が良さそう」「使ってみなければ良しあしの判断がつかないため1カ月程度試験運用してみる」とつづっていました。
その後、11月上旬にはCoinhiveを削除したモロさんでしたが、2018年2月上旬に神奈川県警から「とある事件の捜査に協力してもらいたい」電話がかかってきたことから、人生が一変することになります。
結婚式直前に10時間拘束の家宅捜索
「友人がなにかに巻き込まれたのだろうか……」と、当初は何の件で警察から連絡を受けているのか分からなかったというモロさん。自宅で令状を見せられ、家宅捜索が始まってからも、「不正指令電磁的記録 取得・保管罪(通称:ウイルス罪)」に該当する行為が思い当たらず、訳が分からないままPCが操作されるのを見守っていったといいます。
しばらくは捜査員に聞かれるがままに、運営しているサイトの情報について答えていましたが、“ここぞ”というキーワードが出た際に捜査員がやたらと復唱することから、数時間たってようやく「Coinhiveが原因らしい」と分かったとのこと。なおこの家宅捜索が行われたのは結婚式の前週で、10時間にも及んだ拘束の後は現在の奥様に泣きながら謝罪をしたそうです。
捜査員のどう喝音声データ
3月上旬には神奈川県警へ出向いての取り調べを受けたモロさん。HTMLの「head」と「header」を混同するレベルの知識を持ったサイバー課の捜査員に困惑しつつも素直に調べに応じていたといいますが、突然私服の捜査員と思われる男性が取調室に乱入してきて“どう喝”を受けたとのこと。ねとらぼではこの取り調べの録音データを公開するとともに、該当部分について書き起こします。
神奈川県警:モロさんよぉ。
モロ:はい?
神奈川県警:な、お前やってることは。
モロ:はい。
神奈川県警:法律に引っ掛かってんだよ。な、わかんだろ、ここまでは。引っ掛かってんだよ、法律に。
モロ:……はい。
神奈川県警:な、だから警察ガサやってんだよ。
モロ:はい。
神奈川県警:こうやって取り調べやってんだろ?
モロ:はい。
神奈川県警:引っ掛かってんだよ。お前がどう思おうが関係ねぇんだよ。引っ掛かってんだよ。分かるか?
モロ:はい。おっしゃってることは……。
神奈川県警:な。引っ掛かっちまったんだから、やっちまったことはしょうがねぇよ。な、わかったらちゃんと反省しろよ。今後どうすんだよ。またやんの?
モロ:いや、やらないつもり……です。
神奈川県警:やんねぇだろ。
モロ:はい。
神奈川県警:だったらちゃんと反省しろよ。
モロ:そう……先ほどお話していたように。
神奈川県警:だから! なんでそこで、言葉が返ってくんだよ。反省してんの!?
モロ:いや、なんか、変に伝わったらまずいかなと思って……本当にお騒がせしたことは悪いと思ってます。
神奈川県警:お騒がせじゃなくて。
モロ:法律に関しては、現段階では分からない、って感じですね。
神奈川県警:だから引っかかってるっていうの教えてやってんじゃねぇかよ。
モロ:え……警察の方ですよね?
神奈川県警:警察だよ。だから、反省しろよって言ってんの。
モロ:あの、法律についてのことは警察の方は述べられないっていう風に聞いたんですけど……。
神奈川県警:裁判所が令状だしてんだろ。
モロ:そうですよね。
神奈川県警:そうだろ? だから引っかかってんだよ。それについて反省しろよって言ってんの。
モロ:……はい。
神奈川県警:わかった?
モロ:はい。
神奈川県警:な、お前だってこれから……新婚さんだろ?
モロ:はい。
神奈川県警:ちゃんと清算して、やってくんだろ?
モロ:はい。
神奈川県警:だったらちゃんと反省しろよ。
モロ:はい。
神奈川県警:同じ間違いすんぞ。
モロ:はい。
神奈川県警:な。
モロ:気をつけます……。
その他も、「自分の両親が同じ目に遭ったらどう思う?」との問いに「どうも思わないと思います……」と返したモロさんに「あなたの感覚はおかしいよ」と人格否定まがいの意見を述べていたという捜査員ら。こうした取り調べについてモロさんは「このご時世にこういうのまだあるんだなぁ……これはやってなくても自白するわ……」と当時の心境をブログで明かし、「調書の上で可能な限り“金にがめつい悪人”のように演出する必要があった」「どんな形でも『反省してます』の一言が必要だった」のではないかと推測しています。
その後は3月下旬に検察庁での取り調べがあり、略式起訴(罰金10万円)が科せられたモロさんですが、現在は異議を申し立てて刑事裁判を行っています。
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