ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー(3/3 ページ)
『連ちゃんパパ』のモデルはあの人だった……!
ありま 描かないと言う手もあるんだけど、それじゃあ主人公に情けをかけちゃう気がしてしまって。覚悟がいりましたね。できることなら避けたいんだけど、他人を犠牲にしてでも、使えるものはなんでも使っちゃうっていう依存症の人のことは、こういうところを避けると描けない。
――あそこまでエグい話をありま先生の絵柄で読まされると、ギャップがすごいですよね。
ありま 絵柄とのギャップは、計算してやりました。この絵でこの話をやられるとキツいだろう、心を折れるかもって思ってました。もともと僕は赤塚一派の絵柄だから、同じ絵で同じようなパターンの話を描いたって絶対対抗できない。だから赤塚さんたちが描けないところを描いてやろう、それならこの絵でもできるっていう自信はあったんです。そういう狙いがあってその通りにやったんですけど、当時は失敗作扱いでしたね。時代が早かったのかな(笑)。
もうひとつのテーマは、「家族」
――進の息子の浩司も、絵柄がかわいいのにやたらとかわいそうで読んでいて辛かったです。
ありま 「子どもがかわいそうだ」って思って途中で読むのをやめた人もいたみたいですけど、そう思ってくれたなら大成功なんですよ。自分の子をこういう目に遭わせないでよ、これはひどいでしょ、っていうのが浩司の役目なんです。
――そこも狙い通りだったわけですね。
ありま 『連ちゃんパパ』は確かにギャンブルものですけど、僕が漫画でずっとテーマにしてるのは「家族」なんですよ。他の作品もそうだし、『連ちゃんパパ』も僕に言わせれば家族を描いた作品です。
勉さんは群馬の人なんですけど、お母さんがたまに上京してご飯を作ってくれるんです。それで「僕、帰ります」って言うと「なんだ、一緒に食べてけ」って食べさせてくれるんですけど、あの雰囲気がもうすごく嫌で嫌で。僕自身が家族に縁がないから、どう振る舞っていいか分からないんですよ。食べてるうちに、勉さんがお母さんにボロクソ言い出したりして。「家族にそんなこと言っていいの!?」とか、「こういうのも家族なんだ」って。いろんな家族がいるっていうのをそれで知りました。
――親子や家族間の会話がどういうものか、分からなかったわけですね。
ありま 施設で育つと「君は施設で育ったけど、親をそう悪く言うもんじゃないよ」とか、そんなのはいっぱい聞かされるわけですよ。でも僕から言わせると、どんなに貧乏だろうが、喜怒哀楽を共にしていれば家族です。産んだだけで親だというのは、それはどうなんだっていうのがあって。だから喜怒哀楽を共にしたものが家族だと思ってるんですね。
生みの親と一緒に生活すればそれで家族っていうのは違う。浩司の立場は「それでもいいから進と一緒にいたい」っていうものだし、そういう理由から浩司をああいうふうに描いたんです。雅子にしても、別に女性を悪く描こうっていうつもりはなかったんだけど、どうせなら両方が依存症の方がいいだろうって(笑)。ああいう人もいるじゃないですか。
――最終話のあのラストも、微妙に後味が悪くてすごいですよね。
ありま あのラストは、「やめられない」っていうのがテーマにあるからこその「さあどうなるでしょうね?」っていう終わり方です。僕はとにかく自分で決めないとやめられないと思ってるから、たぶん進たちもやめられないだろうと考えてますけど(笑)。依存症は自分でやめると決めないと抜けられない、それとどんなにひどい目にあって人に後ろ指さされようが、それでも家族だっていうのがテーマですね。
次回作は『実録 あだち勉物語』?
――『連ちゃんパパ』でありま先生のことを知った人も多いと思います。そういう人に対して、次にオススメしたい作品はありますか?
ありま 『船宿 大漁丸』っていう作品がありまして、僕はどっちかというと人情ものが多いけど、これは連ちゃんパパと人情ものの間くらいの感じです。船宿の漫画なんだけど、タチの悪いお客さんが来たりとか。これは自分でも好きなんですけど、まだそこまで日の目を見てないんですよね。電子書籍で1巻は出てますが、残り十数巻分は未発売です。あとは『ほっこりゴルフ屋さん』っていうゴルフの漫画があるんですけど、あれなんかは自分でも大好きです。
――ところで、ネット上で『連ちゃんパパ』が話題になっていたことは、どうやってお知りになったんですか?
ありま 近所の飲み屋のマスターが「ネットで大変ですよ」って教えてくれました。「なんのこと?」って感じで。よくくだらないことを電話してくる奴なんで、そのままほっといたんですよ(笑)。そしたらそのうちいろんな人がおんなじようなことを言ってくるんで、それでようやくネットを見たら「マンガ図書館Z」さんのサーバが落ちたとかで。「やらせじゃないの?」ぐらいに思ってましたね。宝くじに当たったようなもんですね。
――こういう形で注目されたことに関しては、どのような感想をお持ちですか?
ありま 作品として日の目を見たことはうれしいですよね。ああいう内容ですけど、自分の中では面白い作品の1つなんですよ。だから読んでくれる人がいるっていうのは描き手としてはうれしいです。自分でいくらいろいろ売り込んでも反応がなかったものが、ゾンビみたいに復活して(笑)。いいにせよ悪いにせよ、評価ってのは聞いてみたいもんですから、Twitterはちょこっと検索してみました。あんまり見てるとこっちがおかしくなりそうだからすぐやめましたけど(笑)。
――これだけ話題になったら、単行本化にも期待できそうですが……。
ありま そういうお話を数社からいただきました。今まで単行本にもなってないし電子書籍にもならなくて、「もういいよ!」って感じだったんですけどね(笑)。まだ正式には決まってないけど、9月か10月には……という予定です。
――それ以外で、ありま先生の現在のお仕事は?
ありま 実はここ2年ほど、体調も考慮して漫画家としては活動してないんです。ただ、勉さんのことは漫画にしたいと思っていて、ネームを進めています。今本当に描きたいのは、この勉さんのネタなんですよ。だから充さんに「描いていい?」って聞いたら、「まあ、ありまだったらいいだろう」って(笑)。
――勉さんの漫画は絶対に面白いと思います……! そちらも読める日が来るのを、楽しみにしております!
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