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「今のマンガ家って売れても儲からないんですか?」 『アホガール』のヒロユキ先生に聞く、マンガの現状かーずSPのインターネット回顧録(番外編)(1/3 ページ)

他にも「同人の方がいいってホント?」「電子書籍よりも紙の本で買ってほしいのが本音?」など聞いてみました。

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かーずSP ヒロユキ先生インタビュー

 マンガが売れない、初版が減少している、漫画村騒動……マンガ業界に関するネガティブな話題がSNSを中心に目立っています。そんな風潮に対し、『週刊少年マガジン』でアホガールを連載していた、漫画家のヒロユキ先生(@burumakun)がTwitterで、「まじでもう、マンガは売れても儲からないみたいなデマやめようぜ…」と一石を投じて話題になりました。



まじでもう、マンガは売れても儲からないみたいなデマやめようぜ…。ほんと将来の自分たちの首をしめるだけだって…。業界に人いなくなるよ? 売れれば儲かるよ…。 ツイッター見ててマンガ家に憧れなくなるのやばいよ。


 今回はヒロユキ先生にその真意を伺うべくインタビューを実施(※)。マンガ家ってもうかる商売なの? 同人の方がいいってホント? 電子書籍よりも紙の本で買ってほしいのが本音? など、マンガ家という職業について、忌憚なくアレコレ訊いてきました!(文・インタビュー:かーず)

※編注:ヒロユキ先生とかーずさんは10年来の顔見知り


かーずSP ヒロユキ先生インタビュー 『アホガール』第12巻(完結)

「漫画業界厳しい」はホント?

── 「今のマンガ業界は、初版の発行部数が削られて収入源で厳しい状況になっている」というのは本当でしょうか。

ヒロユキ先生(以下敬称略):紙の部数が落ちているのは事実です。でも自分のケースでは初版の部数が「10」とすれば、電子が「5」くらい売り上げているんです。その「5」を乗せれば、入ってくるお金はそこまで減っているとは感じていません。もちろんその時描いてるマンガにもよるので一概にこうとはいえませんが。

 電子書籍はヒキの強いストーリーマンガやエロ、グロが強いと聞きます。僕の作品は一話完結のギャグマンガで、これって電子書籍のジャンルでは弱い方なんですが、それでも2対1にはなっています。


かーずSP ヒロユキ先生インタビュー ヒロユキ先生(顔はいつものTwitterアイコンから使わせてもらいました)

―― 電子書籍でもっと伸びているタイトルもあると。

ヒロユキ:はい。しかも紙では埋もれていた作品が、電子書籍でバナー広告を打つことでガツンと伸びて、紙に売上が跳ね返ってくるパターンもあるようです。紙だけで見ると発行部数は下がっていますが、電子書籍がなかったらそもそも売れなかった作品もあります。売れるマンガの土壌という意味では広がっていると考えることもできるのかな、と。

―― 印税率が10%から下がっているという話もSNSで散見されます。

ヒロユキ:自分は10%から下がったという経験はありません。確かに8%というのは聞きますけど、最近起こった出来事なのか、昔から8%だったのか、僕には分かりません。

 皆さんはご自身の経験を語るので、その人が8%だからといって今8%に下がったのか、昔から8%のままだったのか。1つの意見だけで「最近のマンガ業界はキツい」という言い方は正確ではないと考えます。

―― マンガ家の厳しさは今も昔も変わらないということでしょうか?

ヒロユキ:今まで通りにやっていて、うまくいかなくなってくる人が出てくるのは、どんな商売でも当たり前に起こり得ることですよね。

 90年代は出版バブルだったそうで、「アホガール」のとき編集長に「10年前に連載していたら初版が3倍だったのに申し訳ない」って言われて、「えっ! マジで!?」みたいな(笑)。

 今は読者が変わってニーズも変化しているので、同じ方法が通用しないのは当然ですから。自分のマンガを面白いと思う人たちに、どうやって届ければいいのかを工夫する必要があります。

―― マンガ家も変化していく必要があると。

ヒロユキ:はい、逆に工夫ができる人が強い時代になっていると思います。マンガだけ描いて他のことは一切したくないというタイプは、それが得意な人に任せたり、いろんなやり方が今後増えていくんじゃないでしょうか。


「余裕を持てる」のは5万部くらい

―― ヒロユキ先生のTwitterでは「1万部ではヒットとは言わない、連載が打ち切られないギリギリ」という発言もありました。


ヒロユキ:「1万部では出版社的には赤字」という話は実際に編集さんから聞きました。単行本が一冊4〜500円の話ですが、少なくとも編集部としては喜べる部数ではないそうです。

―― マンガ家としてはどうですか?

ヒロユキ:全然おいしくないです。単行本1冊で500円として、印税10%で50万円。年間4冊出しても200万円です。初版1万部を切っているマンガが増えているのは事実だと思いますが、1万部売れたからヒット、とか、さすがにそこまで出版業界も落ち込んでいないかと。

―― 年間200万円。そこから経費が引かれますから、確かに実家じゃないと生活するのは難しいかも。

ヒロユキ:とはいえ作風や生産ペースにもよりますが、デジタルや3Dなどを覚えて、アシスタント代を抑えれば原稿料だけでもかなり黒字にすることもできます。僕は原稿料の8割以上は残るようにやっています。

―― 出版社的には何万部あれば切られないラインなのでしょうか?

ヒロユキ:編集部にもよりますが、3万部出れば一部の大部数雑誌以外では切られる心配はないと思います。でもマンガ家が余裕をもって生活していくにはちょっと物足りないかも……。

 5万部あれば500円の単行本が250万円で、年間4冊で1000万円。それに原稿料が加わりますから、ある程度余裕は持てるイメージでしょうか。


かーずSP ヒロユキ先生インタビュー 5万部なら余裕を持てる、とヒロユキ先生

―― そこからアシスタント代などの経費と税金が引かれた分が所得になるわけですけど、続けていけそうですね。

ヒロユキ:それに5万部もあればメディアミックスの可能性が高まるので、先があるタイトルになってくるんですよね。そこも大きいと思います。

―― やっぱりそこは大きいですか。

ヒロユキ:気持ち的には大きいですよね。「このマンガを描き続けてどうなるんだろう、何かいいことが起こるんだろうか」って悶々と1人で描いているわけですから。「アニメ化が動いてますよ」って話があれば心の支えになって頑張れます。


かーずSP ヒロユキ先生インタビュー アニメ化もされた『アホガール』(アニメ公式サイトより)

―― それでも5万部の壁は相当難しそうです。

ヒロユキ:簡単ではないと思います。ただ僕もずっと漫画はいろいろ読んでいますが、売りが明確で読まれる工夫をされているマンガはちゃんと5万部以上売れている、とは感じます。やっぱり今でも面白い漫画は読まれれば売れるんですよね。

 当然、連載できていた人ができなくなるって入れ替わりはあります。ネットでは食えていた人が食えなくなるという話だけがセンセーショナルに広がりやすい傾向にあって、うーん困ったなって気持ちです。

―― ネットは負の情報の方が広がりやすいですからね。

ヒロユキ:それで「マンガ家ってもうからない、つまらない」って雰囲気がまん延していくのは嫌ですし、良いところは良いって言いたいです。でも自慢っぽくなりやすいから難しいんですけどね。

 連載を長く続けて20巻がそれぞれ10万部出れば1億円。もちろん経費や税金が引かれるわけですが、原稿料や版権収入なども足せば、大富豪にはなれないけど、現実的な夢は見られるくらいにはなります。


なぜ商業漫画家なのに「同人誌を描く」のか


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