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踊れない会長、嫌われる石上、キレる藤原書記「かぐや様は告らせたい?」10話 体育祭前狂想曲(1/2 ページ)

ちゃらんぽらんな藤原書記でも譲れないものがある。

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(C)赤坂アカ/集英社

 恋愛は告白した方が負け! 「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」(原作アニメは、相手から自分に告白させるためにあらゆる知力体力を用いて戦うエリートたちを描いた8の第二シーズン。とってもいとしくてとっても面倒くさい少年少女の、青春の無駄遣い物語。距離はどんどん近づきます。

 もうすぐ運動会。おのおのが準備をする中で、いろいろな思惑が頭をよぎります。10話は白銀圭、藤原書記、大仏こばち、四宮かぐや、4人の視点のオムニバス。

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(C)赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

妹は思春期

 キス未遂などを経て、着々とラブコメルートを歩み続けている白銀御行四宮かぐや。学校ではうまく隠し続けている(いや、一部の人にはバレている)2人ですが、じゃあ家庭ではどうなのかって話です。

妹は反抗期(10話) (C)赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

 御行には妹のがいます。彼女はかぐやに憧れる中学生の女の子。しっかりした性格は兄の御行にそっくりで、気を回すことのできる優等生。

 でもやっぱりお年頃です、反抗期です。うざいとか死ねとかつい口から出してしまい、キレると3日口をきかないことも。

 恐らく大人の方であれば彼女の行動は、見ていてホッとするんじゃないでしょうか。だって表だとあまりにもいい子すぎて、どこで自分を爆発させているか分からなかったですし。兄にはちゃんと反抗し、のびのびできているようです。

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 この作品に出てくるキャラクターは圭を含め、みんな真面目で優秀、頑張り屋。ゆえに裏が見えづらい。伊井野ミコが普段厳しいけれどあがり症だったように、本当の心の裏が見えづらい。だからこそ、かぐやが家で近侍の早坂に甘えていたり、圭がこうして兄に反発したりするのを見ると、人間味が強く感じられます。

 圭としては兄が恋をしているっぽいのが気になって仕方ない。けれども反抗期だからと意地をはって聞けない。教えて教えてと近づくのは、とても恥ずかしいらしい。

 それってもう、お兄ちゃん大好きじゃん。信用しているからこその、反抗です。

色んな気持ちがこもっている(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 振り返らず、そっとアドバイスをする圭。兄のこと、ちゃんと本心では気に掛けています。「本当は普通に話がしたいのに 気恥ずかしくて出来ないなんて よくある話でしょ」という彼女の発言、もちろん御行と恋愛関係にある女子(圭は知らないけどかぐやのこと)を指しているのですが、同時に反抗期の自分と兄のことをも指摘しているかのよう。

 ディスコミュニケーションに陥りがちなこの作品のキャラたち。それぞれ「普通に話したい」という本音の部分ができていない。でもそれを「普通」こそが、一番難しい。だからみんな自分を見直し、適切な他人の距離を保とうと努力し続けています。そして圭と御行のように、気を遣い努力すること自体が、相互の信頼を育んでいきます。

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藤原書記、憂鬱なソーラン節教室

 体育祭といえばダンス。御行たち2年生が行うのはソーラン節。定番です。人とあわせるだけならそこまで難しいわけでもないはず。ところが御行は音楽が絡むと途端にポンコツになります。案の定今回も全く踊れておらず、悪魔に取りつかれている人のような動きに。

うーんこの腰よ…(10話) (C)赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

 かくして、歌の時同様に今回も藤原書記による特訓がはじまりました。

 普段とんちんかんな行動ばかりの藤原書記ですが、音楽に関しては強い信念を持っています。以前も御行に歌の練習をしたとき、彼の壊滅的な歌をちゃんと歌えるレベルまで引き上げた、という厳しいコーチっぷりを発揮しました。

 今回も地獄の特訓により形だけは整った程度には進歩しました。ビフォーアフターを考えると、藤原書記は技術と知識がゼロの人間に教える点で、かなりの実力を持った人間です。しかし藤原書記は教育の点で、絶対譲れない一線があるからこそ、御行に対して常にイライラしてしまいます。それは表現の部分。御行が求めているのは「迷惑が掛からない程度にみんなとあわせる」くらいの部分。しかし藤原書記は「まだまだです!」と厳しく言い放ちます。

 藤原書記「会長の踊りは見本の真似をしてるだけで『表現』ではないんです!」

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 ここに効率重視のかぐやが来て教えはじめたから、さあ大変。思想ががっつりぶつかってしまいます。

非常に珍しい、藤原書記のかぐやへのガチ怒り(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 藤原書記「泥臭くても意図や表現……魂込めなきゃ違うんじゃないかなぁって思って」「やっぱり最初は表現の方法と楽しさを教えなきゃ……」

 かぐや「魂なんて曖昧なものは不要です 正しい振付をいかに効率良く体に覚えさせるかが大事なんです」

かぐやの効率的スタイルダンス教室(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 ダンスを「表現」だと考える藤原書記と、きれいにこなせばいいと割り切ったかぐや。これはどちらがいいか、一概には言えません。いかんせん時間がない。プロになるわけでもない。なら付け焼き刃で乗り切るかぐやの理屈の方が効率的。

 しかし表現は楽しく豊かであってほしい、音楽や踊りは人の心に触れるものであって欲しい、と考える藤原書記の考え方は経験者ならではの思想。何より音楽は、人が心を表現し相手の心を震わせるためにできたもので、そこをおざなりにしては成立しない。この感性があるからこそ、藤原書記はピアノコンクールで賞を取れたんでしょう。いつもちゃらんぽらんな彼女ですが、この芸術への芯の強さを考えると普段の彼女の言動の見え方がちょっとだけ変わってきます。

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 今回は事故的に収集はついたものの、今後も「御行・藤原書記の音楽問題」はついて回ります。

石上、悲劇の過去

 メインキャラとして描かれるのはアニメでは初の大仏(おさらぎ)こばち伊井野ミコの親友で、一緒に風紀委員をやっています。風紀委員は大変な役回り。身だしなみのチェックに校則違反の取締、不純異性交遊のチェック、もめ事の仲裁。どうしても嫌われ役になりがち。

 でも伊井野ミコは正しくありたいと願い、日々努力している子。どんなときでも一生懸命です。それを大仏はいつも見守り、助け続けています。

陰口もどんどん耳に入るのが風紀委員(10話) (C)赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

 生徒全員を見る立場だからこそ、気付くことはたくさんあります。伊井野はちょっと近視眼的になりがちで、生徒たちの言葉をあっさり信じちゃうので見えないものが多いようですが、共に動いている大仏には、いろんなものが見えてしまう。

 大仏が気にしているのは生徒会会計として働いている石上の存在。ありとあらゆる同学年の生徒にさげすまれ、特に一年女子には嫌悪されている彼。もう陰口でも何でもなく、おおっぴらに敵意を向けられています。今まではギャグで「女子に話しかけると嫌がられる石上」程度だったのですが、大仏の視線から見るとその状態が異常なのが分かってきます。

石上への攻撃がいじめだとされない、不明瞭な理由(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 今回初めて語られる、石上の過去の話し。大仏が聞いたウワサは「1:石上には意中の女子がいた」「2:その女子をストーキングしていた」「3:彼女の付き合っていた男子を暴行した」「4:その女子は転校、傷つけた犯人として今も石上は嫌われている」という流れ。

 確かにこれだけ聞くと、石上に問題があったように見えてしまいます。しかし「らしい」という臆測が多すぎる。1、2、4は周囲の推測にすぎず、実際目撃されたのは暴行の現場だけです。

 大仏もこのウワサに懐疑的。これもまた、伊井野ミコと共に中学校の生徒みんなを見て回る中で、石上の真面目な性格にちゃんと気付いていたから。大仏から見た石上は「不器用ながらも理不尽を嫌う人間」らしい。もっともこれも「らしい」の範ちゅうだから、それ以上は追求しづらいものです。

大仏さんは、いつだって見ている(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 明るい雰囲気や仲良しなノリが苦手なのに、応援団に入ってムチャをする石上。彼が一年生女子にいびられながらもひたむきに努力している様子、風紀取締中の大仏は見ていました。人前に立つのが苦手な伊井野が必死に努力していたように、石上も今必死に自分と戦っている。以前の選挙戦のときの行動を見れば、二人の不器用な生き方が見えてきます。これを頭ごなしにけなせようか。

 大仏は表立ってなにか言うことはほとんどしません。彼女はそれをそっとサポートする側に回っています。人は「誰かが迷惑を受けた」という理由ができると「簡単に悪魔にでもなる」と考えている大仏。自分だって伊井野や石上の件で、攻撃や擁護はできるでしょう。でもしません。それぞれの頑張りを信じて見守り続けるのが、彼女なりの誇りです。

 この話では伊井野と石上の、ものすごく険悪な関係も描かれます。ツンデレ的なものではなく本当に仲が悪い。ただ伊井野は他の一年生女子と違い、今目の前で校則を破っている石上が嫌いなのであって、かつてのウワサを一切話題に挙げていないのは注目しておくべきポイント。

世界の見方を変えてくれた人

 体育祭当日。かぐやは御行の父と初めて巡り合います。といってもかぐやは彼の顔を知らない。お酒を飲みながら御行の悪口を言う白銀父に対して、食って掛かります。かぐや「聞き捨てなりませんね 白銀会長はこの学園の代表としてふさわしい立派な方です そんな誹(そし)りを受けるいわれはございません」

絶対本人に言えないあれこれ(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 白銀父に、御行のいいところを列挙するかぐや。ここで挙げた褒め言葉はどれも絶対、御行の前で言わなさそう。でも御行の話をしているかぐやの様子は、なんだか楽しそうです。白銀父がいたずらしたくなるのも分かる。

見た目とか才能とかじゃないもの(9巻) (C)赤坂アカ/集英社

 かぐやは彼によって世界の見方が変わった旨を語ります。もともと冷淡だったかぐやは、御行の献身的な活動に裏があるはずだと思い込んでいた彼女。しかしどこにも裏なんかなかった。彼の裏表ない、善良しっかりした生き方に気付いたとき、他にもたくさん打算無しで生きている人が多いことに気付き、人を信じる気持ちが芽生えるようになりました。今もまだ誰でも信じられるわけじゃないけど、ちょっとだけは。

 そこまで心を閉ざさなくてもいい。立派な家で育てられ虚構の顔で生きてきた彼女が、素直になってもいい、と感じたのは大きすぎる変化。ここに藤原書記と石上が描かれているのが印象的。彼女は二人のことを、ちゃんと信じている特別な人間として描いています。

 そんなかぐやにすら信じられた人物・石上。過去に何があったかの真実が、次回語られるはず。

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