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「降谷零さんと出会って生活が一変した」 二次元のキャラに恋をする“フィクトセクシュアル”の結婚・恋愛像恋愛・結婚のかたち

新しい形の恋愛・結婚について考えていく連載「恋愛・結婚のかたち」(全5回)。第2回は、フィクションのキャラクターに魅力を感じる「フィクトセクシュアル(二次元性愛)」の結婚生活について聞きました。

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 現実の人間ではなく、フィクションのキャラクターに性的魅力を感じるセクシャリティのことを表すフィクトセクシュアル(二次元性愛)という言葉があります。これまではあまり知られていませんでしたが、近年ではフィクションのキャラクターと“結婚”する人も現れるなど(もちろん法律婚ではなく、あくまで本人の“気持ち”としての結婚)、少しずつ一般にも認知されるようになってきています。

 今回取材した降谷織さん(@furuya_sikiも、フィクトセクシュアルとして生活している一人です。彼女の結婚相手は、『名探偵コナン』の人気キャラクターである降谷零さん。架空のキャラクターを「夫」として生活する織さんの暮らしは、一体どのようなものなのでしょうか。

織さんが結婚にあたり作成したペアリング

連載「恋愛・結婚のかたち」

この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。国勢調査によると、2015年時点で男性の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚をしたことがない人)は23.37%、女性で14.06%と、1990年の男性5.57%、女性4.33%から大幅に上昇(国立社会保障・人口問題研究所の調査より)。近い将来、男性の3人に1人が“生涯未婚”の時代がやってくるとも予想されています。一方で、そうした社会背景と呼応するように、これまでの一般的な形にとらわれない、新しい恋愛・結婚のスタイルを選ぶ人たちも増えてきました。ここではそんな「新しい恋愛・結婚の形」を選んだ人、選ぼうとしている人たちを取材し、これからの恋愛・結婚について考えていきます。

普段の夢女子活動とは違った、降谷零との出会い

 織さんはもともと“夢女子”と呼ばれるタイプのオタク女性でした。夢女子とは、架空の男性キャラクターと、自分(あるいはオリジナルの女性キャラクター)との恋愛を描いた作品を好む女性のこと(※)。活動範囲はさまざまですが、織さんは主に二次創作小説を読んだり書いたりするのが好きな女性です。

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※主に“架空の男性キャラクター同士の恋愛”を好む、いわゆる“腐女子”とは分けて語られることが多い

 過去には“三次元”の彼氏がいたこともあるという織さんですが、定期的に電話やメールをしたりするのが苦手で、自分の時間が自由にとれないのが苦痛だったといいます。もともと出産願望もなかったため積極的に婚活をしたりもせず、とはいえこのまま一人でずっと生活していていいものか……。さらに精神的な不調にも苦しめられていた2018年、織さんは当時ネット上で大きな話題を呼んでいた映画「名探偵コナン ゼロの執行人」を鑑賞します。

 そこで降谷零さんと出会った織さんは、一気にこのキャラクターに夢中になります。しかしそののめり込み方は、いつもの夢女子としての自分とは違っていました。

「降谷零さんに対する感覚が、三次元の相手に恋愛感情を抱いたときと同じだと気付いたんですよね。例えば日常の中で買い物をしているときに『こういうとき零さんだったら何を欲しがるかな』とか、休んでいるときに『こういうときだったらどう声をかけてくれるのかな』とか考えるようになったんです」(織さん)

 それまでの織さんは、基本的にはキャラとの恋愛を少女漫画のようなオチのついた物語として楽しむだけで、日常生活にまで影響を及ぼすようなことはなかったといいます。しかし、零さんに対しては違いました。日常生活の中でも彼のことを考えるようになり、さらに普段だったら好んで読んでいた、零さんを題材にした夢小説に対しても違和感を抱くようになったそうです。

「妄想が日常生活と地続きになったころに、夢小説が読めなくなったんです。普通、夢小説の主人公は自分だと思って読むんですが、その“自分”は他の方が書いた小説のキャラクターなので、本当の自分とは性格が違うんです。そこが引っ掛かってしまって、他の方が書いたものを楽しく読めなくなったんです」(織さん)

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 三次元の生身の男性も二次元のキャラクターも含めて、ここまで好きになった人は織さんにとって初めてでした。これ以上好きになる人は現れないんじゃないか……。そう考えた織さんは、零さんとの結婚に踏み切ります。

ソロウェディングを経て、内面が変化した結婚生活へ

 織さんは、結婚するにあたってまず婚姻届を用意。さらにペアリングを作った上でソロウエディングの写真撮影を行いました。婚姻届は実際に役所に提出することはできませんが、気持ちの区切りをつけるために用意したといいます。さらに、ソロウエディングではドレスと打掛を着て、スタジオやカメラマンの協力のもと撮影を行いました。

「スタジオにソロプランがあるので、プランナーさんに相談して、ドレスを着て写真を撮りました。ポーズや小物の要望を伝えて、最終的には写真をアルバムにしてもらっています。夫のことはちゃんと伝えたんですが、意外とこういうことをする人も多いようで、変な反応とかはありませんでしたね」(織さん)

実際に撮影した写真

 こうしてスタートした織さんの結婚生活。1年ほどが経過した現在、表面上はそれまでの生活と変わらないのですが、内面に関しては確実に変化があったそうです。

「日常生活の中で零さんとのやりとりを考えたりとか、仕事で根を詰めすぎるとちょっと注意されたような気がしたりとか……。主観的な自分とは別に、零さんの目線で客観的にものを見るようになりました。零さんの目線がインストールされた感じですね」(織さん)

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 実際、「零さん目線」が内面化されたことで、今までだったらとらないような行動をとることも増えました。最近は何かを始めるときにダラダラしなくなったほか、孤独感を感じなくなり精神的にも安定したと話します。しかし、周囲の人々からの理解は得られたのでしょうか。

「自分の場合、友達もけっこう個性的な人が多いので、良い意味でどうとも思わなかったとか、理解できないけどそういう世界もあるんだね、みたいな感じのリアクションでしたね」(織さん)

 さらに先日、織さんは実の母親にも自分がフィクトセクシュアルであることを打ち明けました。母親はフィクトセクシュアルの感覚自体はよく分からないものの否定もせず、ソロウエディングについては純粋に喜んでくれたとのこと。周囲がうまく放っておいてくれる環境だったことも、織さんにとっては幸運だったといえます。

 また、オタクとして零さんのグッズを購入するといった活動も続行。「自分の夫のグッズを買う」というのはどういう心境なのか尋ねると、「アイドルとオタクが結婚したら、人間としての相手も好きだし、アイドルとしての活動も好きだというのは両立しますよね。そんな感じです!」と回答。また、今のところ他のキャラクターに浮気することもなく、原作が終了する可能性など、この先何があるか分からない部分もあるものの、織さんは充実した生活を送っています。

恋愛の悩みの多くは“自己肯定感の低さ”から?

 フィクトセクシュアルの当事者としての経験を生かし、織さんは現在、同じような立場にいる人に向けた「占い」も行っています(現在は体調不良のため休業中)。占いと銘打ってはいるものの、実際には二次元のキャラクターの思いを代弁し、それによって依頼者の悩みを解決する活動です(織さんのサイト)。織さんはこれまでに100件以上の相談に答えてきたといいます。

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「例えば、疲れているときに彼からの褒め言葉を聞きたいとか、彼の気持ちを代弁したりとか、そういうメニューに沿って回答をしています。あと、彼と一緒にあなたの悩みを考えて、解決のアドバイスをするというものや、彼と一緒にあなたの自己分析を手伝いますというコースもあります」(織さん)

 まるでカウンセリングのような、織さんの「占い」。そのキーになるのは、自己肯定感だと織さんは語ります。

「自己評価が低いと、プラスの言葉を自分にかけられず疑ってしまうことになるんです。自己肯定感が低いと相手からの愛情をちゃんとキャッチできなくなるというのは、フィクトセクシュアルでも実在の人間を相手にした恋愛でも同じなんです」(織さん)

 結局、自分の内面と同じところにいる「彼」からの好意を受け取ったり慰められたりするには、自己評価がある程度以上高いことが必要になると織さん。自分を肯定できないことで、付き合っている相手とのコミュニケーションに支障を来すことは、セクシュアリティにかかわらずしばしば聞かれる一般的な恋愛の悩みの一つです。フィクトセクシュアルでも一般的な恋愛でも、その根本の悩みや解決策は共通しているのかもしれません。

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