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恋愛的・性的に惹かれない人たち――「アロマンティック/アセクシャル」にとっての恋愛・結婚像恋愛・結婚のかたち

新しい形の恋愛・結婚について考えていく連載「恋愛・結婚のかたち」(全5回)。第4回は、他者に恋愛的/性的に惹かれない「アロマンティック/アセクシャル」の人たちにとって、今の結婚制度や“恋愛観”はどのように映るのかを聞きました。

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 現在の日本ではいわゆる「恋愛結婚」が主流ですが(※1)、性的マイノリティーの中には、他者に恋愛的に惹かれない「アロマンティック」、性的に惹かれない「アセクシャル」といった指向も存在します(※2)。こうした「アロマンティック/アセクシャル」の人たちにとって、恋愛や結婚はどのように映っているのでしょうか。

 NPO法人「にじいろ学校」は、LGBTをはじめとする性的マイノリティーを対象に、さまざまなサポート活動を行っている団体の一つ。特に最近では、アロマンティック/アセクシャルを自認する人たちからの相談が増えているといいます。今回はにじいろ学校に協力いただき、アロマンティック/アセクシャルの恋愛・結婚像について、2人の当事者からお話をうかがいました。

※1:国立社会保障・人口問題研究所が2015年に行った調査によれば、2015年時点での恋愛結婚の割合は87.7%(お見合い結婚は5.5%)
※2:Aロマンティック、エーロマンティック、Aセクシャル、エーセクシャルなどと表記されることもある

連載「恋愛・結婚のかたち」

この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。国勢調査によると、2015年時点で男性の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚をしたことがない人)は23.37%、女性で14.06%と、1990年の男性5.57%、女性4.33%から大幅に上昇(国立社会保障・人口問題研究所の調査より)。近い将来、男性の3人に1人が“生涯未婚”の時代がやってくるとも予想されています。しかし、そうした社会背景とは裏腹に、これまでの一般的な形にとらわれない、新しい恋愛・結婚のスタイルを選ぶ人たちも増えてきました。ここではそんな「新しい恋愛・結婚の形」を選んだ人、選ぼうとしている人たちを取材し、これからの恋愛・結婚について考えていきます。

 なお、アロマンティック/アセクシャルには実は厳密な定義があるわけではありません。にじいろ学校ではそれぞれ次のように定めており、この記事内でもこれに従っています。また、恋愛はするが性的に惹かれない人を「ロマンティック・アセクシャル」(日本では「ノンセクシャル」と呼ばれることも多い)、逆に恋愛はしないが性的に惹かれることはある人を「アロマンティック・セクシャル」と呼ぶこともあります。

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【アロマンティック】
他者に恋愛感情を抱かない人(※恋愛感情を持っているか、恋愛嫌悪があるか、恋人関係の経験があるかなどは定義に含まない)

【アセクシャル】
他者に性的な魅力を感じない人。または、他者に性的な魅力は感じるがその人と性的な行為をしたいとは思わない人(※性欲があるかどうか、性行為をするかどうか、性嫌悪があるか、恋愛をするかしないかは定義に含まれません)

にじいろ学校が定めるアロマンティック、アセクシャルの定義(にじいろ学校のサイトより)

アロマンティック・アセクシャルの場合――モリさんのケース

 モリさんはXジェンダー(モリさんの場合は「無性」)と、恋愛的・性的にも他者に惹かれないアロマンティック・アセクシャルを自認しているといいます。男/女の区分けに対して「自分の性別はなんだろう」と思ったことや、社会に出てから周囲の恋愛話に違和感をおぼえたことなどがきっかけで、Xジェンダーであること、アロマンティック・アセクシャルであることの自認に至りました。

 モリさんの場合、結婚したい、子どもを持ちたいといった願望はなく、恋愛・結婚についても「別にいいかな」と比較的冷めた見方。強いていえば「何かあったとき、緊急連絡先になってくれる人がいたらいいくらい」(モリさん)で、特に今の状況に大きな不満があるわけではなく、恋愛や結婚については「別の世界にあるもの」と捉えています。

 ただ、ときおり家族や知人からの「結婚は当然するもの」といった同調圧力を感じることはあり、そういうときはやはり居心地の悪さを感じるといいます。

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「家族や友達にカミングアウトはしていないので、そういう空気になると重たい気持ちにはなります。恋愛結婚が主流になったのはごく最近のことで、なぜ恋愛と結婚が結びついているのか、なぜ恋愛という期間を経なければいけないのかは疑問に感じます。自分はこれからもひとりで生きていくつもりですが、『助け合える人たちの輪』(複数人のコミュニティのようなもの)があったらいいなと思います」(モリさん)

 周囲のアロマンティック・アセクシャルの人でも「“パートナー”がほしい」という人はおり、中には友情結婚や契約結婚といった形を選ぶ人もいるとのこと。ただ、やはり現在の「男女の恋愛結婚」が主流の社会では、やはり理想的なパートナーを探すのは難しいというのが実情のようです。フィンランドでは近年、3~4人の親(LGBTカップルが親になるケースも多い)が共同で子どもを育てる「クローバーファミリー」という形が増えてきており、「こういう制度が認められるようになれば、恋愛結婚だけに依らず家族・家庭を持つなどができ、マイノリティーだけでなく多くの人が多様な生き方を選択できるのでは」とモリさんは語ります。

ロマンティック・アセクシャルの場合――tomoさんのケース

 一方、もう一人の“tomo”さん(@tomo__327)の場合、事情はもっと複雑です。tomoさんは“恋愛感情はある”ものの性的には惹かれない「ロマンティック・アセクシャル」。また、自身の性自認は女性で、主な恋愛対象は女性またはXジェンダー(身体的には女性)なという「ポリロマンティック」でもあります(tomoさんの詳細なプロフィール)。

tomoさん(画像:tomoさん提供)

 tomoさんが自身のセクシャリティにたどり着くまではいくつかの段階がありました。ポリロマンティックだと気付いたのは21歳のとき、はじめて同じ職場の女性を好きになったのがきっかけ。また成長が盛んになる10代のころは性欲自体は認識しており、性行為は恋人や夫婦関係の上では自然と行われるものだという考えを持っていました(刷り込み)。また“未経験”ということにも後ろめたさなどを感じており、はじめての女性との性行為は、「好奇心」「世間体」「焦り」「憧れ」などさまざまな感情が入り混じっていたといいます。

 しかし体験により、恋愛対象であるはずだった女性に対しても性的に(あるいは「性行為をする」ということに)無関心であることに気付きます。性行為が一般的に愛情表現としてのコミュニケーションとなることに理解・共感ができず、多幸感を感じない、相手のアクションに対し感情が動かないなど、それまで想像していた「理想の恋人関係」へ違和感を抱くように。同時に、性嫌悪や相手への虚しさ、申し訳なさも感じたとtomoさんは振り返ります。「ロマンティック・アセクシャル」という言葉を知ったのは比較的最近で、それまではずっと一人で悩んでいたのがようやく腑に落ち、それでかなり救われたそうです。

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 しかし、30歳近くになり、経済的不安や、子どもが欲しい、家族を作りたいといった思いが少しずつ大きくなってきたことで、今度は「結婚」という新たな問題に直面することになります。tomoさんの場合、素直にパートナーを選ぶなら女性ですが、それでは自分の子どもは作れない。また、子どもを作るために男性をパートナーにするとしても、性行為への嫌悪感がある限り、恋愛・結婚の対象は限られてきます。結婚して「一般的な幸せ」を手に入れたいという思いはあるものの、そのためには何かを諦めなければなりません。

「男性との結婚も視野には入れていますが、根本的なところでは分かりあえないだろうという不安もあり、自分でもどの感情を優先したらいいのか、迷子になってしまっているような気がします」(tomoさん)

 アセクシャルは性的マイノリティーの中でもさらに数が少なく、「居場所がない人は本当に多い」とtomoさん。同じようなセクシャリティの人はどうしているか聞くと、「多様性があるので一概には言えませんが……」と前置きしつつ、「子どもがほしい場合は、友情結婚専門の結婚相談所でパートナーを探している人もいますし、生涯一人で生きようと貯金をしている人、アセクシャルでない人と付き合っている人など、本当にさまざまです」とのことでした。

 今後については、tomoさん自身もまだ答えが出ていないといいます。「自分にとって幸せとは何なのか、そこをきちんと設定できなければ、次の行動には移れないと思っています。今は自分らしさとは何か、幸せとは何かを考えています」(tomoさん)

まだまだ知られていない「アロマンティック/アセクシャル」の難しさ

 LGBT総合研究所が2019年に行った調査によると、LGBT・性的マイノリティーに該当する人は全体の約10%。このうち、アセクシャルの割合は全体の0.9%と確かに少ないものの、数字だけ見れば同性愛(0.9%)と実はほぼ変わりません。「実は同性愛者と同じくらいの割合で存在しているのに、同性愛に比べるとアロマンティック/アセクシャルはあまり知られていない」とにじいろ学校は指摘します。

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LGBT総合研究所による「LGBT意識行動調査2019」より

 にじいろ学校によれば、同団体に寄せられる相談の中でもっとも多いのは「自分が本当にアセクシャル 、アロマンティックなのかが分からない」というもの。また「周囲に理解してもらえない」「共感してもらえない」といった相談も少なくないそうです。

 LGBTという概念が広がったことで「性別に関係なく、誰かを愛することの自由」についてはかなり知られるようになりました。しかしアロマンティック/アセクシャルについての認知度はまだまだ低いというのが実情です。

「誰かを愛するだけでなく、『誰にも惹かれないことも自由』であると、もっと多くの人に知ってほしいと思います。また、もしも今『自分は好きな人ができないけどおかしいのかな?』『誰ともエッチなことをしたいと思えないけど病気なのかな?』と考えている人がいたら、ぜひ『アセクシャル』『アロマンティック』で検索してみてください。もちろん全ての人が当てはまるかはわかりませんが、アクセスしてみたら『自分だけじゃなかったんだ』という安心感を得られるかもしれません。また『自分が本当にアセクシャル、アロマンティックなのかが分からない』という場合は、『自分が本当にこのセクシャリティの定義に当てはまるのか』よりも『このセクシャリティのラベルを選択することで少しでも楽になれるのか』を優先してほしいと思います」(にじいろ学校)。

にじいろ学校では、マイノリティのためのオフ会なども定期的に開催(公式サイトより)

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