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敗北を知りすぎた悲しき中間管理職 「ダイの大冒険」魔軍司令ハドラーはなぜ“最大最強の好敵手”へと返り咲くことができたのか?(後編)水平思考(ねとらぼ出張版)

敗北を知りすぎた男、どん底からの復活。

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 前回、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険(以下、ダイの大冒険)』において、序盤の強敵として主人公たちの前に現れ、師匠であるアバンを真っ向勝負で見事撃破するものの、その直後にドラゴンの騎士の力に目覚めた新たなる勇者ダイに完敗し、それからあれよあれよと敗北に敗北を重ね、初登場時にはあったはずの武人としての誇りや、聡明さが見る見る失われ、後はもう惨めに死ぬだけか……というモブ雑魚5秒前まで追い込まれたかつての魔王であり、現魔軍司令ハドラーの歩みを振り返ってきた

 後編では、ここから疾風怒涛の復活を果たすことになるハドラーについて振り返りたいのだが、その前に一人、振り返っておきたいキャラクターがいる。実は浮き沈みの激しいハドラーの歩みを先取りしていたかのようなキャラクターが『ダイの大冒険』には存在するのだ。

 それは、獣王クロコダインである。

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 というわけで、ハドラーについて振り返る前にちょっとだけ寄り道してクロコダイン編を振り返ってみたい。

※以下、物語終盤のネタバレを一部含みます

ライター:hamatsu

某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。

Twitter:@hamatsu

『ダイの大冒険』の魅力が全て詰まっているクロコダイン編

 『ダイの大冒険』という漫画が好きで、クロコダインが嫌いな人っているのだろうか。恐らくいないだろう。

 序盤に登場し、物語全体を振り返ってみればそこまで強いキャラクターではないように思えるし、主人公たち一行の仲間になってからもそこまで華々しい戦果を挙げるわけではない。どちらかと言えば新しい敵キャラへのかませ犬的な役割を担うことが多く、ルックスに至ってはほぼワニだ。

クロコダイン(アニメ公式サイトより)

 それでもクロコダインに人気があるのは、彼自身の魅力もさることながら、クロコダイン編が『ダイの大冒険』の根幹を成す重要なエピソードだからである。

 クロコダイン編で『ダイの大冒険』の物語の定型はほぼ完成しているといっていい。

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 例えばクロコダイン編において、クロコダインとダイが初遭遇し、そのまま戦いに突入するものの、そこでは決着がつかず、ある程度の間をおいてからの2戦目で決着をつけるという2回戦方式を採っている。この方式はその後のヒュンケル編、フレイザード編、バラン編にも引き継がれ、大魔王バーン戦においてすらも初対戦のほぼ完敗に呼べるであろう敗戦からの最終決戦という形で引き継がれている。

 2回戦方式のメリットは、1戦目と2戦目の間を空けることで、往々にして1戦目は劣勢を強いられた主人公側に修行や対策といった時間を設けさせ、一つのエピソード内で主人公側の成長を説得力のある形で描けるところにある。さらに、敵側の思惑や心境の変化すらも2回のバトルを通してじっくりと描ける。

 クロコダイン編において重要なのは、1戦目と2戦目の間に、ダイたち側に変化が生じることと同時に、クロコダイン側にも変化が起きる点だ。1戦目は真っ向勝負で挑んだダイの想像以上の強さに脅威を感じ、2戦目を前にしてクロコダインは、6大軍団長の一人、妖魔司教ザボエラの甘言に乗る形で、自己保身のため自身が軽蔑していたはずの卑劣な手段に手を染めてしまう。

 『ダイの大冒険』という漫画が「ドラゴンクエスト」のタイアップ漫画という枠組みを超えていまだに愛される理由とは、単なる力と力のぶつかり合いを描くだけなのではなく、葛藤を抱えたキャラクターたちの心理の変化を丁寧に描き、奥行きのある普遍的なドラマを描いているからだと私は考えている。

 そんなそれぞれに思惑を抱えた両者が激突するバトルにおいて、主に物理面を担当するのは当然のごとく主人公ダイなのだが、心理面を担当するのが、前回の連載でも指摘したように、連載開始1話目から登場し、いきなりメラゾーマをブチかまして読者に鮮烈なインパクトを与えたダイの最初の仲間、魔法使いのポップなのである。

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ポップはなぜ人気があるのか

 『ダイの大冒険』において獣王クロコダインを凌ぐであろう人気を誇るキャラクター、それがポップだ。

ポップ(アニメ公式サイトより)

 なぜ、彼はここまで人気なのか。

 それはポップというキャラクターが、得意とする魔法を駆使して相手に物理的なダメージを与える以上に、彼がなけなしの勇気や意地を振り絞って繰り出す「言葉」が相手の心理面に大きなダメージを与えるからではないかと思う。

 彼の人気を不動のものにした大魔王バーンに対して切られるポップ一世一代のタンカは、『ダイの大冒険』のテーマそのものを表現する、本作における最重要シーンでもある。

 そんなポップの「言葉の一撃」が最初にさく裂したキャラクターこそが獣王クロコダインとの2回目の戦いのときなのである。

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文庫版2巻271ページ

 この言葉を喰らった時点でクロコダインはひどくろうばいし、心理面においてはほぼライフは0であり、勝負はついていると言ってもいい。その後、ドラゴンの騎士の力を覚醒させたダイによる物理の一撃は正直オーバーキルである。

 言ってしまえば、クロコダイン編においてクロコダインは2度仕留められている。1度目はポップの「言葉の力」で、そして2度目はダイの「物理の力」でだ。

 『ダイの大冒険』という漫画が面白いのは、一つの戦いにおいて「物理」と「言葉」という2種類のカタルシスが得られるからである。子供のころは、ダイやヒュンケルのような「物理」の力に長けたキャラクターの即物的な活躍に心引かれていたが、年を経るごとに「言葉」の部分がしみるようになり、年齢を重ねることで味わいが変わっていくのがまたこの漫画の面白いポイントだったりする。

 ちなみに、その後クロコダインは魔王軍を抜け、誇り高い武人としての魂を取り戻し、ダイたちの仲間になるのだが、これ以降に築かれていくポップとクロコダインの関係性がまた良いのである。ポップとクロコダインの名場面を振り返っていきたい気持ちもあるのだけれど、さすがに脱線が過ぎた。話をハドラーに戻そう。

ポップの「言葉の一撃」を喰らい損ねた男

 この文章の冒頭において、クロコダインはハドラーに先んじてハドラーのような道を歩んだキャラクターだと述べた。だが、一度は道を誤りつつも比較的サクッと己の本分を取り戻せたクロコダインとは違い、前回の記事においても振り返ってきたように、ハドラーはそう簡単には己を取り戻すことができない。

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 ダイに両手を切断され、ヒュンケルにまさかの敗北を喫し、自分の得意技だと思っていたベギラゴンの打ち合いでマトリフに負け、ドラゴンの騎士として完全に覚醒してしまったダイにはまともに太刀打ちすることすらできず、転落街道はとどまることを知らない。

 なぜハドラーはクロコダインのように誇り高き武人としての本分をサクッと取り戻すことが出来ずここまで七転八倒する羽目に陥ったのか。その答えは一つしかない。

 ポップの「言葉の一撃」を喰らうことが出来なかったからだ。

 ハドラーがハドラーとしての本分を取り戻すために必要だったのはダイやヒュンケルなどによる「物理の力」ではなく、ポップによる「言葉の力」によって、ハドラー自身の在り方を問いただされることだったのである。  

 だが、大魔王バーンにプレッシャーをかけられ焦った揚げ句に、勇者の寝込みを狙うという最高にダサい襲撃の際、ハドラーはついにポップの「言葉の一撃」を喰らう。

文庫版8巻215ページ

 ちなみに、クロコダインといい、ハドラーといい己の本分を見失うとき、その傍らには常にザボエラがいる。本当に悪魔みたいな奴である。

 迷走の果てに、自分よりはるかに劣った取るに足らない存在だと侮り、出会った当初は名前すらまともに認識していなかったポップという存在に、自身の抱える葛藤の核心を突かれ、もっとも心を揺さぶられるという経験を通し、己の本分を取り戻していくというプロセスを踏んでいる点において、ハドラーとクロコダインは同じ道を歩んでいるといっていいだろう。

 しかし、ここから両者は決定的に違う道を歩むことになる。クロコダインはザボエラのような存在とは完全に決別し、勇者とともに戦うことを選択したが、ハドラーはむしろザボエラに助力を求め、アバンの使徒に勝利することを己の目標に掲げるのである。

復活、超魔生物ハドラー見参!

 ようやく、ポップの「言葉」を喰らうことで心理面においても完全に仕留められてしまったハドラーは、自身の転落人生に区切りを付け、ザボエラの手により己の肉体を改造した、「超魔生物ハドラー」として復活する。転落している時間が長かった反動なのか、その巻き返しぶりはとんでもないことになる。

 ここからハドラーは、復活1発目のダイとの一騎打ち、ダイ・バランのドラゴンの騎士親子タッグとの2対1での対決、ついに反旗を翻し挑む大魔王バーン戦、そしてダイとの最終戦と4つの戦いに臨むのだが、この4つ全てがそれぞれに印象深い戦いとなっている。っていうかこれらの戦い全てにおいてハドラーがカッコいい!

 まず、超魔生物となっての初陣となるダイとの対決において、彼は小細工なしの真っ向勝負で臨んだ末に、念願の、そして久々の勝利を得る。(双方かなりのダメージを負った引き分けに近い形だが、その後の復活の速さなどから考えてハドラーの勝利と言ってしまっていいだろう)

 だが、勝敗の行方以上に重要なことが勝負の最中に起きている。

 予想以上に強くなったハドラーとの激闘で傷ついたダイを見かね、強引に戦いに割り込み撤退しようとするポップを追走する際、ついにハドラーはポップを名前で呼ぶのだ。

文庫版11巻90ページ

 デルムリン島のアバンとの決戦、バルジ島での戦い、そして最高にダサかったダイの寝込みを襲ったとき、ハドラーはポップを認識はしつつもその名前を呼んだことはなかった。

 この時点において、明らかにハドラーの中でポップという存在の認識に変化が起きていることが分かる。『ダイの大冒険』という漫画があらためて良くできていると思わされるのは、このような“相手の名前を呼ぶ”というささいな行為一つにおいても丁寧な演出意図をもって描いているからだ。

 これが私の過剰な思い込みではなく、明確な演出意図によるものなのは、大魔王バーンがハドラーと同様にポップを名前で呼ぶタイミングについての描写を見れば明かだろう。

 続くダイとバランというドラゴンの騎士の親子タッグを一人で迎え撃とうとしているハドラーがまたすごい。

 ダイとバランの前に立ちふさがったハドラーは、かつて恐れ、そして敗れてきたドラゴンの騎士2人を前にして、かつて自身が抱えていた恐れの感情を正直に告白するのである。

 自分より明らかに強いであろう部下を抱えたときの恐れ、自身を脅かす若い新勢力の台頭、この世の中間管理職なら誰でも抱えていそうな悩みである。かつては世界を征服し全てを己の意のままのしようとした男の抱える悩みとしてはあまりに人間臭い悩みだ。

 だが、かつてのハドラーはそれを押し殺すために虚勢を張り、陰謀を張り巡らしてそれに対処しようとしたが、今のハドラーはそれをしない。正直に自身がかつて抱えていた悩みを正直に吐露した上で、その根源たる2人を同時に相手をすることでかつての自分を乗り越えようとするのである。

 この戦い自体はさまざまな横やりが入り、不完全燃焼気味な戦いになってしまうのだが、その過程において自身が大魔王バーンの捨て駒に過ぎなかったことを悟り、叫びをあげるハドラーにはもはやかつての魔軍中間管理職として冷や汗を垂らしまくっていたころの面影はない。彼の頬に流れるのは己の力を、命を、燃やし尽くせないことへの悔しさからくる涙だ。

 そしてさらに続く、ダイと仲間たちが大魔王バーンの圧倒的な力によって全滅寸前まで追い詰められたところに助太刀するかのように割り込んで突入する大魔王バーンとの一騎打ちにおいて、ハドラーのかっこよさはメーターを振り切らんばかりの勢いに達する。

 大魔王バーンを終始圧倒しつつも、その原因がダイとの戦いにおいて魔法力を消耗していたからだと冷静に分析し、調子をこかない聡明さがまた良いのだが、超魔生物となったハドラーの得た新しい部下、親衛騎団が人質に取られた際に、お互いに全く意に介さないシーンが鮮烈な印象を残す。

 親衛騎団とは大魔王バーンより授かった、オリハルコン製のチェスの駒にハドラーの禁呪法で生み出された存在で、チェスの駒をモチーフにした5人の部下のことなのだが、ハドラーの呪法によって生まれた彼らは、ハドラーが死ねば同時に死ぬことになる。そのため彼らを人質に取る意味など何もないということは理屈では分かるのだが、それでも危機にひんした部下を全く意に介さず、むしろそのハドラーの姿勢に部下の方が良く言ってくれたと意気に感じるというこのシーンには、少年漫画の定石を外した新鮮な感銘を受けたことを覚えている。

 この戦い自体はザボエラの横やりと親衛騎団の一人、ブロックの犠牲によって決着はつかずに終わるのだが、アバンの使徒たちを終生の宿敵と定めながら、かつての絶対の上司であったはずの大魔王バーンに反旗を翻したこの時点で、ハドラーはこの物語において完全に異質な存在になっている。もはやハドラーは勇者や魔王という枠組みを超えて彼自身のドラマを生きるキャラクターになろうとしているのである。

 ちなみに、ここまで全員見事にキャラ立ちしているハドラー親衛騎団の説明が必要最低限になっているのは重要ではないからではなく、そっちに触れだすとこの文章がさらに倍長くなるからである。ご了承願いたい。

最終戦……再び巡り合う4人

 大魔王バーンの元を離れ、急激な速度で自身の肉体を改造した反動から寿命が尽きつつあることを悟ったハドラーと親衛騎団は、自身の目標をあくまでもアバンの使徒の打倒とし、ついに最後の戦いを迎えようとする。

 ハドラーの最終戦がすごいのはその必要性のなさだ。

 ダイの目的はあくまでも大魔王バーンの打倒であって、既にバーンの部下ではないハドラーとあえて戦う理由はほぼない。ハドラーが戦いを挑まなければそれはそれで物語の進行は全く問題なく進んだだろう。なんならハドラーがダイたちに加勢してくれてもいい。

 この戦いを成立させているのはたった一つ、ハドラーの意地、それのみである。

 だからこそ、この戦いは『ダイの大冒険』という物語においても異色の戦いであると同時に、一種スポーツ漫画のような雰囲気すらも漂う、これぞ少年漫画とでも言うべき戦いになっている。

 普段であれば一人の敵に対して複数人数で戦うことを厭わないダイだが、この戦いばかりは1対1の決闘にこだわるあたりも、さらに拍車を掛けているといえるだろう。

 この一戦で、己の命を燃やし尽くそうとするハドラーの姿は、不朽の名作『あしたのジョー』におけるムチャな減量の果てに変わり果てた姿になった力石徹のようでもあるし、ホセ・メンドーサ戦を前にした矢吹丈のようでもある。

 そうして始まったこの一戦であるが、まず素晴らしいのは、惜しみなく己の必殺技を繰り出していくダイのその姿勢である。

 大魔王バーン戦のためにせっかく編み出した新必殺技を温存しないどころか、さらに新しい必殺技すら編み出すことで、己の残りの生命を全てをぶつけてくるハドラーを正面から迎え撃とうとするダイの「覚悟」が伝わってくる。

 非常にシンプルな形でありながら、なぜ勝敗が分かれたのかが、分かりやすく腑に落ちるという、バトル漫画のお手本とも言うべき戦いだろう。 

 だが、この戦いにおいてさらに重要なことが決着がついて以降に起きる。

 新必殺技、ギガストラッシュがハドラーにさく裂し、ダイの勝利で戦いに決着がついた直後。大魔王側の仕掛けたワナが発動し、激闘から一転して双方が窮地に立たされたところに間一髪でポップが助けに入ることで、期せずして交わされるハドラーとポップの会話。これが本当に素晴らしい。

 ハドラーとポップ、どちらも勇者ダイを中心に目まぐるしく変化する状況に翻弄(ほんろう)され、ときには絶体絶命の窮地に追い込まれながらもそこにあらがい、大きく変化・成長してきた2人によって交わされる会話は、力をぶつけ合った宿敵ダイと交わす言葉とはまた違う、真逆と言っていいほどに異なる道を歩みながら、それなのに/それゆえに、誰よりも互いを理解し合う者たちの言葉だ。

 渾身の力をふり絞ってのハドラーの助力もあり、一時は窮地からの脱出の契機をつかむものの、どうしてもハドラーを見捨てることができずに逃げ遅れるポップに対して、ハドラーは考え得る限り最も彼がとらないであろう行動、「祈り」をささげる。

文庫版17巻192ページ

 その直後、奇跡は起こる。

 誰もが死んだと思っていた勇者アバンが復活し、死を待つのみだったポップとハドラーを窮地から救うのだが、唐突な勇者アバンの復活に当時リアルタイムでジャンプを読んでいた身としてはいささか面食らったことを覚えているが、かつて激しい戦いを繰り広げたアバンに対するハドラーのセリフがまたいい。

「…素晴らしかったぞ おまえの残した弟子たちは…! 俺の 生き方すら変えてしまうほどにな…!!」

 かつての宿敵にかける賛辞として、これ以上の言葉があるだろうか。

 『ダイの大冒険』はかつての勇者アバンとかつての魔王ハドラーによる「勇者と魔王のその後の物語」という側面を持った作品だが、かつての勇者はその意志を継ぐ弟子を残し、かつての魔王はその弟子との戦いを通して己の生き方を変え、宿敵ダイの強さに敬意を払い、誰よりも自身の生き方を理解し、共感してくれるポップの存在に涙し、彼の命が救われることを求め、神へ祈った。

 デルムリン島で戦った4人が期せずして再び一堂に会し、永かったハドラーの物語はここに終わる。

 この戦いの特徴はその必要のなさにあると先に述べた。しかし、このハドラーとの戦いがその後の大魔王バーンとの決戦に及ぼした影響は少なくない。歩兵のヒムはハドラーの死後にまさかの復活を果たして獅子奮迅の活躍を見せるし、ポップと騎士シグマの一戦は、その戦い自体の名勝負ぶりもさることながら、大魔王バーンとの戦いにおいて決定的な役割を果たすことになる。

 その始まりにおいて必要のなかったハドラー最後の戦いは、結果として決して無駄な戦いではなかったのだ。

 ちなみにハドラーの歩みを先取りしたと述べたクロコダインだが、彼は魔王軍を離脱し人間たちの側について以降、一度もハドラーとは言葉を交わしていない。もし両者が再び言葉を交わす機会があったらどのようなことが話されるのだろうか。多分ポップの話だけで一晩は盛り上がると思うのだけど。

※価格は記事掲載時点のものとなっています



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