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「ブルーアイズ持ってる」で話題の“遊戯王カード自慢ラップ”はなぜ生まれたのか? ラッパー本人に聞いてみた

「ブルーアイズ」=誰しも心に抱えている「自分だけの大切な何か」。

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千年バズル 千年バズル

ずっと俺のターン 千年バズル

ラップ上手くないけど、ブルーアイズ持ってる

1枚60万のブルーアイス持ってる

ヘネシー飲まない(いらない)

bi**hも抱かない(抱けない)

でも心に余裕

ブルーアイズもってる

 小太りメガネのサラリーマンがエエ顔で「ブルーアイズもってる」と連呼するラップがネット上でハズったのが9月8日。40秒ほどの動画を載せた最初のツイートは瞬く間に1万リツイートを超え、「ブルーアイズもってる」というシンプルなパンチラインがTwitterトレンドに躍り出た。

エエ顔と妙な動きが光る「千年バズル feat.オオイエ」

 制作者はラッパー・MAKI DA SHIT。彼の友人で同じくラッパーのオオイエが「遊☆戯☆王」カードを自慢する曲「千年バズル feat.オオイエ」だ。

 後に公開されたミュージックビデオを見ると、どうやらマフィアの運営する闇カジノらしき場所に「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」を持ったサラリーマンが乗り込む話であることが分かる。いかつい黒服の男たちに囲まれながら、「ブルーアイズもってる」を連呼するサラリーマン。それは「どんな状況でも信じるものがあれば強くいられる」という意思表示のようにも見える。

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 徹底した「遊☆戯☆王」ソングでありながら、「ブルーアイズ持ってる」のフレーズは、誰しも心に抱えている「自分だけの大切な何か」を賛美している。どの世代、どのジャンルのオタクにも通ずる普遍的なテーマといえるだろう。

 このシンプルだけど力強い曲はどのようにして生まれたのか。現役の医師であり、ラッパーでもあるMAKI DA SHITに、誕生までの話を聞いた。

「マ・ドンソク似」と評判のマフィア姿のMAKI DA SHIT氏

――まず、自己紹介をお願いします。

MAKI DA SHIT ラッパーのMAKI DA SHITです。楽曲制作をしてライブに出たり、ときどきMCバトルもしながら医師として働いています。今は研修医の立場で、来年から精神科専門医プログラムに進む予定です。

――曲を作った経緯を教えてください。

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MAKI DA SHIT 「ブルーアイズもってる」という歌詞を歌っているのは、ぼくの友人のオオイエくんなんですが、彼は「遊☆戯☆王」がめっちゃ好きなんです。普通のサラリーマンだけど、自分の資産を「遊☆戯☆王」に充てて、何十万とするカードをたくさん持っている。

闇カジノに乗り込むオオイエ氏

 自分が好きなものに全力で投資して、「自分はこれがあるから生きられるんだ」という生き方を打ち出しているんです。それはヒップホップの精神性に近いと思っていて、今回は2人で相談しながら歌詞を書きました。

 オオイエくんはもともと「ラップは年に数回するかしないか」くらいなので、ぼくが中心になって彼の気持ちを引き立てるようなラップを考えました。ビートメイカーさんとオオイエくんとぼくで録音したんですが、終わった瞬間にみんな大爆笑しちゃって。「これはすごいものができたぞ!」って。

――いい話ですね。MVも凝っています。

MAKI DA SHIT はい、これはちゃんとしたビデオを作るべきだと思って、ぼくがアイデアを出しました。もう少し「遊☆戯☆王」のエッセンスを入れた映像にするアイデアもあったんですが、マフィア映画っぽいイメージにしています。

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――映像にあまり「遊☆戯☆王」要素を入れていないので、元ネタを知らない人でもなんとなく楽しめている部分があると思います。ガラの悪さは一般的なヒップホップのイメージっぽいし。一方で、リリックの「遊☆戯☆王」濃度はすごいですよね。この辺のこだわりも聞かせていただけますか。

MAKI DA SHIT オオイエくんが持ってる高額なカードはほかにもあるんですが、とりわけ「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」はキーになると踏みました。

 ブルーアイズは主人公のライバル・海馬くんの代名詞的カード。彼は高校生なのに社長で、文武両道かつスーパーお金持ちというキャラクターなんです。主人公の遊戯くんが切り札にしている「ブラック・マジシャン」は攻撃力2500で、ブルーアイズは3000。遊戯くんはサポートカードや仲間との絆によって、ようやくブルーアイズに勝利できる。

 だからブルーアイズはただ強いだけじゃない特別な存在で、冨と力の象徴なんです。それはヒップホップ的な力の象徴と通じるものがあるんじゃないかなと思っていて。ヒップホップでいえば、ラッパーが純金のネックレスを見せびらかすような。

――あえてのブルーアイズにはそんな意味が!

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MAKI DA SHIT ぼくのラップは「ペガサス・J・クロフォード」とか「エクゾディア」とか、「遊☆戯☆王」知ってる人ならちょっと笑えるかなという言葉をたくさん入れています。オオイエくんのヘタウマなラップと対比になるように、ある程度スキルフルなラップをしつつ、中身は「医者のボンボンで金があるからカードも買えるぞ」ってのを自慢する内容です。

細かな「遊☆戯☆王」要素のチェックも楽しい

――「田舎のボンボンプレイヤー」「四谷大塚全国5位」は青森で医者の家系に生まれて、小さい頃から医者になるために勉強していたご自身のことですね。

MAKI DA SHIT 実は全国5位は小学生の頃の話なんです。ラッパーのセルフボースト的(自己賛辞)な言葉だけど、実は子どもの頃の話という。で、田舎のボンボンなんで「小遣い全額BET 足りなきゃばあちゃんからまたゲット」っていう。

――最初のツイートはすでに1万リツイートを超えていますが、どんな反応がありましたか?

MAKI DA SHIT 「めっちゃ笑いました」とか「元気になりました」「さすがメンタルの医者」とかいろいろ反響がありました。コスプレイヤーさんや現役の「遊☆戯☆王」好きの人にフォローしてもらったり。一方で、「遊☆戯☆王」全然知らないけど、面白いと言ってくれる人もいて。

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――普遍性のあるリリックですからね。誰もが心の中に支えなりプライドなりを持ってるから。

MAKI DA SHIT そうなんです。「自分にはイケてないところがあるけど、ブルーアイズがあるしな」っていうマインド。オオイエくんもぼくも「教室の中心にいるタイプ」じゃないけど、それでも「おれには自分が心に誇るものがある」って気持ちを持っている。それがヒップホップだったり「遊☆戯☆王」だったりする。歌っているのは「遊☆戯☆王」のことなんですが、普遍性のある曲にできたと思います。

――今後の活動について教えてください。

MAKI DA SHIT 今までちょっとカッコつけた曲や、ヒップホップ好きな人に向けた曲を作っていたところがあるんですが、この曲では自分を出しながら、幅広い人に届く曲が作れました。これからは医者という自分のアイデンティティーも出しつつ、新しく代表曲になるようなものを作っていきたいですね。MAKI DA SHIT名義はこのMVで最後で、今はDr.マキダシという名義で活動しています。ちょうど今「人の調子聞いてばっかりの人生」という曲を出したので、ぜひ聴いていただければ!

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