インタビュー

「元カノに“時効”はない」「クズほど惹かれる」 歪な性と愛を描く異才の漫画家×アイドル界の異端児・香椎かてぃ対談(1/2 ページ)

2021年最も目が離せない漫画家・文野さんと、今最も心配で信仰したいアイドル・香椎さんがリアルな恋愛観をぶっちゃけました。

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(C)文野紋/小学館

 漫画『呪いと性春 文野紋短編集』の作者・文野紋さんと、2月8日をもってアイドルグループ「ZOC」を卒業する香椎かてぃさんの対談が、1月18日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ7号に掲載されています。ねとらぼでは同対談より“恋愛部分”にフューチャーした独自の構成でお届けします。

 収録現場は都内の某ラブホテル。お菓子や缶チューハイを広げたベッドの上で、「恋愛遍歴」や「表現者としての在り方」について本音で語り合っていました。“次世代女子のリアル”をそれぞれの形で表現する2人の、美しくも歪な恋愛観、強くも繊細な生き様をご覧ください。


(左)文野紋 (右)香椎かてぃ

文野紋(@bnbnfumiya

漫画家。2020年「月刊!スピリッツ」にて商業誌デビュー。1月12日に初の単行本『呪いと性春 文野紋短編集』を刊行した。女の子の歪な内面を描く鋭い感性と高い画力が注目を集めている。

香椎かてぃ(@KatyHanpen

アイドル。2019年にアパレルブランド「CULT TOKYO」を立ち上げ、ファッションプロデューサーとしても活動中。破天荒な生き様とファッションが注目を集めている。自身のフォトBOOK『新あいどる聖書』も好評販売中。

――文野さんが香椎さんの大ファンということで対談が実現しました。

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文野:香椎さんの『新あいどる聖書』買って読みました。とてもよかったです。

香椎:あ~!! ファンの子が漫画に載ってるって教えてくれて、見てました。

元カノに“時効”はない

――恋愛に関して表現や発信することが多いお二人ですが、どんな方に惹かれますか?

香椎:金髪ウルフだったら誰でも! 自分は男の子になりたくて、だから自分がなりたい子がタイプです。顔はどうでもいい! イオンのパンツをはいている男以外なら(笑)。

文野:私は元カノが本当に嫌いなので経験がない人がいいです。

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香椎:わかる~。元カノに時効はないですね。嫉妬……なのかな。以前付き合ってたDV男の元カノが、アイドルやっていて。その子のTwitterのフォロワーが1300人ぐらいいたんですよ。「俺の元カノちょっと有名なんだよね」みたいなマウントとってきてムカつきましたね。「そのアイドル超えてやるよ」って思ったし。

文野:わかる~! 私も元カノの2ちゃんねるスレとかめっちゃ見てました(笑)。

――香椎さんは「元カレにDVを受けていた」など衝撃的な話もありますが、そういう人とすぐに離れられないのはなぜでしょう?

香椎:クズほど惹かれるんですよ。クズほど気にしちゃうんです。自分がいないとダメになっちゃうって思っちゃうんですかね。

文野:わかる! 元カレが、自分がひどいことしてきたくせに、ケンカになるとわざとゲロを吐いて「苦しい、助けて」とか言ってくるんですよ。

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香椎:うん、ケンカしたときに「自分は病気だ」って言ってくるよね。

――同じ人と付き合ってませんか?(笑)

香椎:うちの元カレは美容師・バーテンダー・バンドマンの3Bそろってますね。え、元カレって美容師?

文野:じゃないです(笑)。

作品の発表前にめちゃめちゃ嫌な気持ちになる

――元カレに執着しちゃった理由はなにかありますか?

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香椎:単純に顔がイケメンで、離れられなかった(笑)。別れてからは3年間、フラッシュバックするほど嫌いで。今はブサイクほど好きですね。

文野:私は、新しい恋愛が始まったら、その前は消えちゃう(笑)。だから忘れないうちに漫画にするって感じです。

――上書き保存していけばいいものを、作品に残すのはつらくないですか?

文野:全然つらくないです。私、すごく性格が悪いんですけど、過去の話は「ネタになってくれてありがとう」って気持ちです。漫画になれば、過去が昇華されていくというか。それは楽しいですね。

――文野さんは漫画を描くのがすごくはやいと聞きました。

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文野:デートに行って気持ちが落ちても、発散の仕方がわからないんです。その日の夜に描かないと感情がおかしくなっちゃうので、一気に描いて翌日送るって感じです。

香椎:すげー!

文野:創作していれば「いやな事があってもオッケー」って思える。その作品が誰かに「いいね」「わかる」って言ってもらえたりとか。自分を応援してくれてる人にとってもいいことがあれば、負の感情も「まぁいっか」って。

――漫画を描くこと、アイドルとして表現することがつらいなと思うときはありますか?

文野:単純に描くという動作が好きなので、そこにつらさを感じることはないですね。強いて言うなら、漫画の発表前や、発売前の宣伝時に、めちゃめちゃ嫌な気持ちになります

――不安な気持ちに?

文野:漫画が世間の人に全く刺さらなかったら、「こう表現したい」と自分で思ったことが否定されちゃう気がして……。頭ではそんなことは関係ないとわかってるんですけど、そうなってしまうことがすごく怖くて緊張します

香椎:私は新曲のリリース前は情緒不安定すぎて記憶がないです。「アイドル向いてない」って定期的に思っては逃走するし。新曲のレコーディング中に大泣きすることもある。

文野:自分が下手なことがつらすぎて、一度漫画を燃やしたことがあります。描いたものを卑下するのはよくない、それを楽しんでくれる人もいるし、一度世に出したものをよくなかったっていうのは悪いことだと理解はしてるんですけど……。自分の実力不足がめちゃくちゃ嫌になってしまって

香椎:うち、Twitterに自撮りとかあげて「何分以内に何いいねいかなかったら消す」って決めてます

文野:私は決めてないけど、評判悪いと消したくなるのはめっちゃ分かります。

香椎:Twitterを作品と思っているというか……。いいねを狙いにいくとかじゃないんですけど、「こんなにいいねがあるんだったら何かあるのかな」と人が思うものになっている……。変なものをあげて、シーンとさせたくない

文野:私は誤解されて広がることがめちゃくちゃ怖くて。例えば「これが好き」と言ったときに、「それじゃないものを批判してる」ってとられないか不安になるんです。めっちゃ気にしちゃうタイプの人間なので、私が意図していない読み方をされたら嫌だなと思って消すこともけっこうあります。

――気持ちが落ち込んだときはどのように回復するんでしょう。

文野:評判がいいものができるまで描き続けます。評判がよかったら、「いけんじゃん」ってゲンキになります。

香椎:とことん落ちるか、さわやかのハンバーグ食べに行きますね。あとは渋谷でイツメンとオールします。うんこ座りしてお酒飲んで、朝帰るって感じで。

文野:私も、しょっちゅう病み散らかす友達が2人いて。1人が病み散らかしたときは「集合」がかかるんです。集合をかけたり、集合がかかったりすると元気になります

――誰かと会うことが、癒やしになる?

香椎:そうですね、1人が嫌いだから。基本、誰かと一緒にいます

文野:私も作業は平気ですけど、寂しいのはめちゃめちゃ嫌です。

香椎:地元の友達から「会いたい」って言われても、「じゃあ今すぐ東京来てよ」「来ないじゃん」ってイライラしちゃう(笑)。

――その寂しさってどこから来るんでしょう。

香椎:なんで寂しいのかは分かんない。でも周りの友達みんな、うちのことを娘ぐらい愛してくれるんですよね。年上か、精神年齢が高い年下の友達がほとんどなんですけど、なんでもやってくれるんですよ。「今日ちゃんとご飯食べた?」から始まって。今は友達とあまり会えていないので、最強に寂しいですね。やっぱり会わないと満たされないのかなって。

漫画『呪いと性春』は超リアル。部屋が汚くて親しみやすい

――文野さんの漫画を読んで、どうでしたか?

香椎:超リアルでしたね、部屋の汚さとか親しみやすい感じがしました。うちも部屋が汚い方が落ち着くんで、気持ちよかったです。

文野:あるよね、みたいなのが描きたくて。大森靖子さんの歌詞のように「1フレーズでわかる」ことを漫画でやりたいんです。例えば「乾いたカラコンが枕元にある」とか、そういう1カットの描写でキャラクターを示したい

香椎:文野さんの漫画を読んで、漫画みたいな髪を再現しようと思って昨日染めたんですよ。

文野:え!?

香椎:そしたら、家の水道が止まってて(笑)。染め粉塗ったまま、友達の家に行って流しました。5時間くらい染め粉を乗せっぱなしでやばかったです。

文野:すごい……。香椎さんは、私たちファンに対しても、作品やお仕事にも一つ一つにちゃんと向き合ってくれてる。ファンとしてずっとついて行きたくなります。先日の、中野サンプラザのライブでの香椎さんのMCが本当にすてきで。「自分がちゃんとしないとファンの子が壊れちゃう。だから、みんなの前に早く姿を見せたかった」って。感動して泣いちゃいました

香椎:ふぁーお。染め粉、流せてよかった(笑)。

ファンにはウソをつきたくない

――ファンとの距離感について、これからファンが増えていくであろう文野さんに何かアドバイスはありますか?

香椎:なんだろうね……。私はファンから「距離が遠くなる、離れて行っちゃう」って言われるのがイヤでした。だからなるべく、Instagramのストーリーで「今日は渋谷にいます」とか“身近にいるんだよ”っていうのを伝えてますね。距離って遠いほどいいといわれてますけど、それはもう古い。自分はネット育ちなんで、近い方が好きです。以前もオールで渋谷のセンター街の路上でお酒飲んで、気付いたら握手会が始まっていた(笑)

文野:すごい。

香椎:自分を応援してくれる人って、アイドルを全然知らない場合が多いので、ノビノビとやらせてもらってます。アイドルという定義みたいなものを崩すというか。「アイドルがタバコ吸う」や「アイドルがガニ股で歩いてる」が嫌いな人はいると思いますが、そっちの方が親しみやすいと感じる人もいる。だから、渋谷から離れられないし、渋谷が好き! 何のアドバイスにもならない(笑)。

文野:ありがとうございます。香椎さんは身近というか、生っぽさもそうなんですけど、それと同時にめちゃめちゃカリスマ性があると思っていて。そういうところがすごく好きです。

香椎:うわーお、ありがとうございます。ウソつきたくないんですよね。「今日ライブだけど風呂に入ってない」とかもそうだし(笑)、「彼氏ができた」もちゃんと言いたい。隠し事をしたくないです。

賞味期限があるから、その間を楽しんでもらいたい

――ファンの方との交流やSNSで悩んだりすることは?

香椎:ファンに「死にたい」って言われるのはつらいですね。一時期「死にたい死にたい」って言われすぎて、こっちが病み散らかして「やめて! なんも送んないで!」って言っちゃって炎上しました(笑)。でも、「死にたいときはあるよな」と思って。夜中に来た「死にたい」連絡は必ず返すようにしてます。

文野:優しい……

香椎:私のファンの方は、昔の自分とすごく似ているところがあって。「彼氏に振られそう」とか「DV受けてる」とか……。そこを乗り越えれば、もっと幸せになれるよって伝えたいんですけど、なかなか伝わらない。

文野:私も、私にとってのZOCや大森靖子さんみたいに、同じ悩みを持っている子の救いになれたらいいなって思うけど、自分自身で精いっぱいになっちゃう。

香椎:生きてればいいよやっぱり人っていつか飽きるじゃないですか。賞味期限があるから……その期間を歌とかで楽しんでもらえたらなって思います。永遠とかないですもんね。でも、音楽とか漫画とか絵は、ずっと残るから、エモいっすよね

(おわり)(※この取材は2020年11月頭に行われたものです)

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